地裁がヤマト社員の労災認める、過労自殺の労災認定について
2020/12/23 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
宅配大手「ヤマト運輸」の男性社員(当時45)が自殺したのは業務による負担が原因だったとして遺族が国を相手取り、労災認定などを求めていた訴訟で16日、名古屋地裁は労災を認める判決を出しました。時間外労働は約134時間に登っていたとのことです。今回は過労自殺における労災認定要件を見直して行きます。
事案の概要
朝日新聞の報道によりますと、自殺した男性は1999年にヤマト運輸に入社し、2015年9月から名古屋市内の営業所で配送者のドライバーとして勤務していたとされます。翌16年3月下旬ごろから精神障害を発症し同年4月に自殺したとのことです。発病前4ヶ月間の時間外労働は約134時間に上り、その後も月57~79時間に及んでおり、勤務中に交通事故も発生していたとのことですが労基署は労災と認めておりませんでした。男性の遺族は労基署の処分取消をもとめ名古屋地裁に提訴しておりました。
労災とは
労働災害(労災)とは、労働者が業務上被った怪我や疾病などを言い、そのような場合には各種補償が用意されております。労災は大きく業務災害と通勤災害に分けられ、業務遂行に際して発生した場合が前者、通勤途中のものが後者となります。業務災害と認められるための要件は①業務遂行性と②業務起因性と言われており、業務遂行性とは労災発生時に会社の指揮監督下で業務を行っていたことを言い、業務起因性とは業務中の行為と労災に因果関係がある場合を言います。工場で作業中、工場の機械に巻き込まれ負傷したといった場合が典型例と言えます。一方通勤災害の場合は、家と就業場所までの往復中に生じたものである必要があります。合理的な通勤経路から外れた場合や、就業以外の目的での通行中であった場合は該当しません。
過労自殺と労災
それでは上記のような勤務中の業務によるものでも、通勤中のものでもない本人の自殺の場合はどうでしょうか。労災保険法12条の2の2によりますと、「労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたとき」は労災として保険給付を行わないとしております。つまり原則的には自殺の場合は労災とならないということです。しかし過酷な労働やパワハラ、セクハラといった会社に由来する原因によって精神疾患となり、それによって自殺した場合は労災と認める必要があると言えます。そこで過労自殺の場合でも一定の要件の下に労災を認めております。
過労自殺の場合の労災認定要件
厚労省の通達(平成23年12月26日基発1226第1号)によりますと、①対象となる精神障害を発症していること、②精神障害の発症前おおむね6ヶ月間に業務による強い心理的不可が認められること、③業務以外の心理的不可や個体側要因により発病したと認められないことが要件となっております。対象となる精神障害とは、うつ病や神経症、躁うつ病や統合失調症など代表的な精神疾患を言います。そしてそれは業務による心理的負担によるものでなくてはならず、個人的な事情や個人の持病、特性による場合は該当しません。そして長時間労働の場合はおおむね、①発症前の1ヶ月に160時間、または3週間に120時間、②発症前の連続した2ヶ月の平均が120時間以上、③発症前の連続した3ヶ月に平均100時間以上の時間外労働となっております。
コメント
本件で裁判所の認定によりますと、自殺した男性の精神障害は発症する4ヶ月前の繁忙期には月の時間外労働が約134時間にのぼっており、その後も月約57~79時間となっていたとされます。また自身が起こした配送中の事故も心理的負担となっていたとされ、発病と業務の因果関係が認められております。以上のように厚労省の通達では過労自殺の場合の労災認定基準が非常に細かく規定されております。上記ではおおまかに紹介しましたが、厚労省のHPに詳しく公表されております。厚労省の発表では近年、脳・心疾患による労災は減少傾向にありますが、精神疾患による労災は増加の一途を辿っております。自社の従業員の時間外労働の状況や心理的負担の程度を今一度確認し、過労自殺が起きない職場作りを目指していくことが重要と言えるでしょう。
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