日本野球機構の申し合わせに違法の疑い、独禁法の事業者団体規制について
2020/11/11 独禁法対応, 独占禁止法, その他
はじめに
公正取引委員会は5日、日本でのドラフト指名を拒否して海外でプレーした選手を帰国後一定期間指名しないとする日本野球機構(NPB)の申し合わせが独禁法に違反する疑いがあると発表しました。申し合わせは現在撤廃されているとのことです。今回は独禁法の事業者団体規制についてみていきます。
事案の概要
公取委の発表などによりますと、平成20年9月、当時有力な新人選手が米国の球団と直接契約したいのでドラフト会議で指名しないよう日本の12球団に要請したとされます。これを受け日本野球機構はこのような事態が続いた場合、日本の有力な新人選手が海外に流出し、日本のプロ野球の魅力が低下するおそれがあると懸念し、同年10月同機構の実行委員会で、日本での指名を拒否して海外球団と契約した場合、2年ないし3年間、12球団は当該選手を指名しない旨の申し合わせをしたとのことです。本申し合わせは既に破棄されたものの、今年9月まで維持されていたとされます。
事業者団体とは
独禁法2条2項によりますと、「事業者団体」とは、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体またはその連合体を言うとされております。2以上の事業者が社員である社団法人、2以上の事業者が支配している財団法人、2以上の事業者が組合員である組合なども含むとされます。○○協会や○○協議会、〇〇連合会や〇〇工業会、〇〇組合といったものが該当すると言われております。事業者としての共通の利益とは構成事業者の経済活動上の利益に直接または間接的に寄与するものを言い、それらを目的としない学術団体や宗教団体、社会事業団体は該当しないとされます。
事業者団体に対する行為規制
独禁法8条ではこのような事業者団体に対して一定の行為を禁止しております。まず①一定の取引分野における競争を実質的に制限すること、②外国の事業者または事業者団体と不当な取引制限または不公正な取引方法にあたる事項を内容とする国際協定を締結すること、③一定の事業分野における現在または将来の事業者数を制限すること、④構成事業者の機能または活動を不当に制限すること、⑤事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせることが挙げられます(1号~5号)。一定の取引分野における競争を実質的に制限することとは、私的独占や不当な取引方法と同じく市場における価格や流通量などをある程度支配できる状態にすることをいいます。
違反した場合の措置
上記事業者団体規制に違反した場合には、公取委は事業者団体に対し行為の差止、団体の解散、その他必要な措置を命じる排除措置命令を出すことができます(8条の2第1項)。また事業者団体が上記①または②に該当する行為を行った場合、公取委は必ず課徴金納付命令を出すことになります(8条の3)。さらに罰則として各行為に応じて5年以下の懲役、500万円以下の罰金、団体に対して5億円以下の罰金などが規定されております(95条~96条)。
コメント
本件で日本野球機構は日本での指名拒否を行った新人選手を一定期間、帰国後も指名しない旨申し合わせていたとされます。これは事業者が他の事業者から役務を受けることを共同で拒絶する共同の取引拒絶(いわゆるボイコット)を事業者団体が行わせた場合に該当する可能性があると言えます。日本では日本野球機構に加盟する12球団から指名拒否された場合、事実上国内での活動は不可能となり国内での公正な競争が阻害されるおそれが生じることとなります。このように独禁法では事業者単体で行うカルテルやボイコット、私的独占だけでなく、事業者団体単位での行為も禁止しております。日本ではあらゆる業種で同業者団体が形成されており、これまでも多くの事業者団体で違反事例が発生してきておりました。自社が所属する団体から新規参入事業者と取引しないよう通達などがされていないか、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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