販売店が読売新聞社を提訴、独禁法の特殊指定について
2020/08/19 独禁法対応, 独占禁止法, その他

はじめに
元新聞販売店の店主が読売新聞大阪本社から過剰な部数の新聞の仕入れを強制されていたとして、7日大阪地裁に提訴していたことがわかりました。仕入れた新聞の約半分は残紙となっていたとのことです。今回は独禁法の特殊指定について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、広島県福山市で読売新聞の販売店を経営していた原告男性は2017年1月から2018年6月にかけて、配達に必要な分のおよそ2倍にあたる2280部を仕入れていたとされます。原告側の主張ではこの2280という部数は購読者数の変動とは関係なく固定されており半分は残紙として残っていたとのことです。原告側は読売新聞社による過剰な仕入れ強制は独禁法に違反する行為として約4100万円の支払いを求め提訴しました。
一般指定と特殊指定
独禁法は不公正な取引方法を禁止しており(19条)、違反した場合には排除措置命令(20条)、場合によっては課徴金納付命令が出される旨規定しております(20条の2以下)。そして2条9項では共同の供給拒絶、差別対価、不当廉売、拘束条件付取引、優越的地位の濫用などの各種類型が規定されており、さらに同項6号では一定の要件の下公取委が告示で指定するものも不公正な取引方法に含まれるとしています。これは一般指定と特殊指定に分けられており、一般指定は全ての事業分野に適用され、特殊指定は特定の事業分野にのみ適用されます。一般指定には共同の取引拒絶や差別的取扱い、再販売価格の拘束など16類型が規定されております。
特殊指定の内容
現在特殊指定が存在している事業分野は新聞、物流、大規模小売業となっております。以前は教科書、海運、食品缶詰なども指定されておりましたが現在廃止されております。物流では荷主による下請運送業者への運賃の買いたたき行為が禁止されており、大規模小売業では納入業者への不当な返品や値引きなどが禁止されております。そして新聞業の特殊指定では、①新聞社が正当かつ合理的な理由がないのに地域または相手により多様な価格設定を行うこと、②販売店が地域または相手による値引き行為を行うこと、③新聞社が正当かつ合理的理由がないのに販売店への押し紙行為を行うことが禁止されております。押し紙行為とは新聞社が販売店に注文数を超えて供給する行為や自己の指示する部数を注文させることを言います。販売店からの減紙の申し出に応じない場合も含みます。
類似裁判例
本件と類似の事例として佐賀新聞が販売店に販売部数を大きく上回る部数の買取を強制させていたとして販売店側が約1億5000万円の損害賠償を求めていた訴訟が存在します(佐賀地裁令和2年5月15日)。新聞社側は合意のうえで販売目標を設定し、減紙の申し出はなかったとしておりましたが、佐賀地裁は仕入れの基準となる年間販売目標の設定は新聞社側の指示とし、購読料を得られない部数を仕入れさせていたと認定して独禁法違反を認めました。また原告の店舗だけでなく、同社の販売店86店舗の大半で同様の被害が発生している可能性が高いと認定した点も重要なポイントとなっております。
コメント
本件では原告側の主張によりますと、約1年半に渡って販売部数の2倍にあたる部数の購入が新聞社によって強制されていたとされます。これが事実であった場合は上記裁判例のように独禁法違反と認められる可能性は高いと思われます。以上のように新聞業界では販売店に販売部数を大きく超える部数の購入を強制する行為は特殊指定や優越的地位の濫用などに該当するおそれがあります。これまで同様の訴訟は数多くなされてきましたが、一般的に押し紙問題では販売店側が折込広告収入のために自発的に購入したものかが争点となると言われております。しかし上記裁判例での原告勝訴判決以来、同訴訟での弁護団への同様の相談が殺到しているとの声もあります。今一度取引相手に対し必要数を超える数量の購入を強いていないか確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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