休業要請、応じないとどうなる?
2020/04/16   労務法務, 行政対応

はじめに

東京都は、緊急事態宣言を受け、4月11日から下記の施設等への休業要請を始めた。他の対象都道府県も続々と休業要請を行う見込みだ。ただ、経営者からすれば、いずれにせよ固定費は発生するのだから少しでも売上をあげたいと思うだろう。先行きが見えず不安定な現状にあっては無理もない。では、もし新型コロナウイルスに伴う都道府県知事からの休業要請に従わず営業を続けた場合どうなるのだろうか。

■基本的に休止を要請する施設
(1)遊興施設等
キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール、バー、個室付浴場業に係る公衆浴場、ヌー
ドスタジオ、のぞき劇場、ストリップ劇場、個室ビデオ店、ネットカフェ、漫画喫茶、
カラオケボックス、射的場、勝馬投票券発売所、場外車券売場、ライブハウス 等

(2)大学、学習塾等
大学、専修学校、各種学校などの教育施設、自動車教習所、学習塾 等
※ 床面積の合計が1,000㎡を超えるものに限る。

(3)運動、遊技施設
体育館、水泳場、ボーリング場、スポーツクラブなどの運動施設、
又はマージャン店、パチンコ屋、ゲームセンターなどの遊技場 等

(4)劇場等
劇場、観覧場、映画館又は演芸場

(5)集会・展示施設
・集会場、公会堂、展示場
・博物館、美術館又は図書館、ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。)
 ※ 床面積の合計が1,000㎡を超えるものに限る

(6)商業施設
生活必需物資の小売関係等以外の店舗、生活必需サービス以外のサービス業を営む店舗
※ 床面積の合計が1,000㎡を超えるものに限る。

(以上施設覧、新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等について(PDF 1.0MB)表から再構成)

休業要請には2種類ある?

一口に休業要請といっても実は根拠条文が異なる2つの休業要請が存在する(「新型インフルエンザ等対策特別措置法」)。すなわち、同法24条9項に基づく休業要請と45条2項に基づく休業要請だ。そして、どちらの休業要請に従わなかったのかでその後の扱いが変わってくる。まずは、その目で条文を見比べてほしい。

(都道府県対策本部長の権限)
第二十四条 
9 都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。
※第二十三条 都道府県対策本部の長は、都道府県対策本部長とし、都道府県知事をもって充てる。

(感染を防止するための協力要請等)
第四十五条
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、・・・必要があると認めるときは、・・・学校、社会福祉施設・・・、興行場・・・その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者・・・に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。

3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、・・・特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。
4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。

さて、24条2項の方には、要請に応じなかった場合の措置が特に定められていない。文字通りの要請であり、強制力を有しない「行政指導」(行政手続法2条6号)といえよう。他方、45条2項の要請に応じなかった場合、指示を受けるおそれがあり、指示を受けた場合、その旨が公表されてしまう。公表された場合、感染症に敏感な今とあっては、その企業の信用低下に繋がりかねない。したがって、45条2項が定める要請の場合なら、特にそれに応じる必要性が高くなるであろう。

問題は、現在東京都が出している要請が、24条9項に基づくものなのか、45条2項に基づくものなのかということだ。

どちらの要請か。

結論から言えば、東京都が事業者に対して行っているいわゆる休業要請は、特措法24条9項に基づく要請だ。下記、リンク先の東京都が示した資料に明示されている。とすると、特措法の条文を読む限り、当該要請に従わなかったとしても、いきなり何らかの制裁があるわけではなさそうだ。ただし、政府発表の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」11頁によれば、都道府県知事は、24条9項の要請に正当な理由がないにも関わらず応じない場合は、45条2項の要請を行うものとするとされている。したがって、結局、正当な理由がない限り、休業要請に応じなければゆくゆくは公表されるリスクを負うことになる。

新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等について (PDF 1.0MB)

公表のリスクだけじゃない?

公表されることも十分なリスクだ。しかし、それだけにとどまらない。もし休業要請に応じず営業を続けたために従業員が感染した場合、損害賠償訴訟に巻き込まれるリスクも生じるのだ。

最近、コンビニエンスストアのレジカウンターに天井から透明なビニールシートがカーテンのように吊り下げられているのを見たことがある読者はいるだろうか。そのビニールによって店員と客は隔てられており、客がマスクをしていなくても、飛沫感染のリスクを抑えることが期待できる。

このような措置は、使用者が労働者に対し安全配慮義務を負うことに由来する(労働契約法5条)。これに違反した場合、使用者は債務不履行に基づく損害賠償責任(415条1項)を負いうる。例えば、三密を避ける措置ができたのにしなかった場合は違反の可能性が高い。レジのビニールカーテンは、飛沫感染を予防する物的な環境を整備する義務(安全配慮義務の一種)を果たすためであろう。コロナに関して特に配慮すべき点やその対策等は、下記の記事が参考になる。

新型コロナウイルスに関する企業法務の実務(人事労務編)(法律事務所Zelo)

確かに、安全配慮義務違反についての立証責任は損害賠償請求をする労働者側にある。しかも、(休業要請によって具体的な感染予防措置の実施義務が認められやすくなるとはいえ)その義務違反の立証は容易ではない。加えて、潜伏期間があり感染時期を特定しづらい現状にあっては、たとえ安全配慮義務違反を立証できたとしても、これによって損害が生じたという因果関係の立証は、職場で集団感染が生じる等でもないかぎり困難だろう。しかし、使用者が合理的な対策を講じていなければ、安全配慮義務違反が”ありうる”として後々訴訟に巻き込まれる可能性は依然として存在する。

落とし所を見つけられる法務

休業要請に応じなかった場合のリスクについてみてきた。条文を読む限り、今すぐ休業要請に応じないことを理由に、即座に行政上の制裁が加えられるということはなさそうだ。しかし、対策を講じずに営業を続ければ、安全配慮義務違反を理由に後々紛争に巻き込まれるリスクを背負い込むことになる。

専門家の試算では、一挙に人の接触を断てば早期に収束するが、7割減という中途半端な場合はずるずるとこの状況が長引いてしまうとされている(日経新聞)。資金運営的に長期戦は厳しい現状にあっては、上記リスクも踏まえ、各企業とも早々に休業するのが懸命と言えそうだ。

ただし、休業要請に応じない正当な理由の有無や休業の準備のための期間等、企業を取り巻く環境はそれぞれに異なる。にもかかわらず、公的機関から要請されたからといって休業を強行したり、無闇矢鱈に安全配慮の措置をとっていては、円滑な経営を阻害しかねない。休業要請の対象となる企業の法務担当者としては、要請に応じなかった場合のリスクを意識しつつ経営との落としどころを見つけるバランス感覚が求められそうだ。

以上

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