匂いをめぐり祇園で対立、臭気に関する紛争について
2020/01/30   コンプライアンス, 民法・商法

 京都市東山区の祇園で焼き鳥店の匂いをめぐり対立が生じていることがわかりました。臨時休業した日本料理店もあるとのことです。今回は匂いや悪臭に関する法規制と裁判例について見ていきます。

事案の概要

 京都新聞によりますと、お茶屋などの重要伝統的建造物群が立ち並ぶ京都市東山区の祇園で焼き鳥店の煙や匂いをめぐり対立が生じているとのことです。焼き鳥店は祇園新橋付近に開店しており、地元の祇園新橋景観づくり協議会との対立が昨年表面化したとされます。同協議会は祇園の落ち着いた景観に「におい」も含まれるとして匂いや煙などの徹底した対策を要望していましたが、焼き鳥店側はコスト面で何色を示しています。

臭気と法規制について

 悪臭や臭気を規制する法律としては「悪臭防止法」が存在します。これによりますと、事業者は規制地域内では臭気について規制基準を遵守しなければならないとされております(7条)。違反した場合には市町村長は事業者に改善勧告を出すことができ(8条)、改善勧告に従わない場合は改善命令をだすことができます。そして改善命令に違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が規定されております(24条)。事業者が守るべき規制基準は悪臭物質の種類ごとに各都道府県知事が策定することとなっております(4条1項)。また一般国民も住居が集合している地域では悪臭発生を防止し、生活環境が損なわれないよう務める義務が規定されております(14条)。

臭気に関する裁判例

(1)焼き鳥店の匂い
 住宅地で開店した焼き鳥店の匂いに対して周辺住民が不快で迷惑であるとして臭気排出の差し止めと損害賠償を求めて提訴した事例で裁判所は、市の悪臭防止暫定指導細目の基準値を超えているが、社会共同生活上の受忍限度は超えていないとして請求棄却しました(大阪高裁平成14年11月15日)。

(2)菓子工場の匂い
 住宅地に設置され稼働を始めた菓子工場の甘い匂いが不快であり、洗濯物や寝具などに匂いが付くとして慰謝料などの損害賠償を求めた事例で裁判所は、菓子の甘い匂いは一般人を不快にさせるものとは直ちには言えないものの、長期間にわたり継続的発生している場合はかなりの苦痛となると認め、受忍限度を超えるとして1人あたり16万5000円の支払いを命じました(京都地裁平成22年9月15日)。

(3)産業廃棄物の野焼き
 産業廃棄物処理業者が住宅地付近で大量に廃棄物を野焼きし、約周や煤煙が住宅地に広がる状態が3年間継続して健康被害や安眠できない状態た続いていた事例で裁判所は社会共同生活上の受忍限度を超えているとし1人あたり約30万円の賠償を命じていました(津地裁平成9年6月26日)。

コメント

 本件では京都屈指の伝統的建造物が立ち並ぶ観光地である祇園で焼き鳥店の匂いを出すことが問題となっております。上で触れた悪臭防止法はこのような飲食店から出る匂いも規制の対象としており、当該地域での規制基準を超えている場合は行政処分の対象となります。しかし本件の主な争点は祇園の伝統的な景観に「におい」が含まれるのか、焼鳥の匂いが祇園にそぐわないのではないかと言った点にあります。そのため通常の臭気紛争とは異なる視点が絡んでおり今後の動きに注目されます。以上のように周辺住民等と業者の出す匂いはしばしば問題となります。裁判例での基準は基本的に社会共同生活上の受忍限度を超えるかという点にあります。飲食業や工場、廃棄物処理業を展開している場合はこれらの規制状況を踏まえて、今一度現状を確認しておくことが重要と言えるでしょう。

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