出張中の過労死で逆転認定、心疾患等の労災要件について
2019/12/06   労務法務, 労働法全般

はじめに

 クレーン車販売会社の営業担当の男性が出張先のホテルで休止したことについて労災と認めなかった労基署の判断を労働者災害補償保険審査官が取り消していたことがわかりました。審査請求で逆転認定されることは異例とされます。今回は心疾患等による過労死の労災認定基準について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、外資系クレーン車販売会社「リープヘル・ジャパン」(横浜市)の営業担当の男性社員(当時26)が2016年5月に出張先の三重県のホテルで急死しました。死因は急性循環不全による心臓突然死とのことです。男性は当時山形県から三重県までの12県を担当し、毎週月曜朝7時に横浜市内の本社で会議に出席し、その後金曜まで社用車で営業先をまわりながらビジネスホテルに宿泊し金曜夜に横浜市内の自宅に帰宅するというパターンだったとされます。鶴見労基署は移動時間中は事業主の指揮監督下にあったとは言えず労働時間には該当しないとしておりました。

労災認定の要件

 労働災害として認定されるための要件は基本的に、①業務遂行性と②業務起因性とされております。業務遂行性とは労働者が労働関係もとにあった場合に起きた災害であるということです。事業主の支配・管理下にある状態とも言えます。そして業務遂行性があることを前提に、傷病等と業務の間に一定の因果関係があることを業務起因性と言います。これらが労災認定の基本的要件となりますが、災害には傷病や鬱などの精神疾患、脳・心疾患等に分けられます。以下脳・心疾患に関する基準を見ていきます。

脳・心疾患における認定基準

 厚生労働省によりますと、「業務による明らかな荷重負荷」をうけたことにより発症した脳・心疾患は労働災害として扱われるとされております。具体的には以下の3点に該当する場合とされております。
(1)異常な出来事
 発症直前から前日までの間において、極度の緊張や興奮、恐怖、驚愕等の精神負荷を引き起こす事態や、緊急に強度の身体的負荷を強いられる事態に遭遇したことや、急激で著しい作業環境の変化があったかがポイントとなります。具体的には突発的な重大事故などが生じ、それに関与していた場合などです。

(2)短期間の過重業務
 発症に近接した時期において特に過重な業務に就労していた場合を言います。具体的には発症前のおおむね1週間において、日常業務に比較して特に身体的・精神的に過重な負荷を生じさせたと客観的に認められる場合です。同僚労働者や同種労働者等と比較して特に過重であったかといった観点から判断されるとしています。

(3)長時間の過重業務
 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労していたかがポイントとなります。具体的にはおおむね発症前の6ヶ月間において不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務などによって恒常的に心身に負担がかかっていたかで判断されます。1ヶ月あたりの時間外労働が80時間を超える場合は業務と発症の関連性が強いとされます。

コメント

 本件の審査請求で神奈川労働者災害補償保険審査官は男性の業務の性質上、移動時間も労働時間として扱うべきとし、出張回数が多く、社用車による長距離・長時間の移動は精神的・肉体的に負荷が大きかったと認定し労働災害であることを認定しました。以上のように労働災害には様々な態様があり、それぞれに認定基準が異なってきます。また上記のように多くの要素を総合的に判断することから認定されるかが微妙なケースも多いと言えます。労災認定がされ、給付がなされても労働者や遺族から別途会社に対し慰謝料や逸失利益の請求されたり、行政処分や入札指名停止を受けることもあると言われております。どのような場合に労災となるのかを正確に把握して備えておくことが重要と言えるでしょう。

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