ゆうちょ銀行でリスク隠し契約か、消費者契約法の規制について
2019/11/11 契約法務, 消費者契約法
はじめに
西日本新聞は6日、ゆうちょ銀行の金融商品の勧誘・販売で高齢者などに十分なリスク説明がなされずに行われている旨報じました。
異常な低金利が続く中、営業実績の拡大だけが優先されている危険があるとのことです。
今回はリスクのある商品の勧誘などに関する消費者契約法の規制について見ていきます。
事案の概要
西日本新聞によりますと、近年投資信託などの金融商品の販売に力を入れるゆうちょ銀行は勧誘の際に十分なリスク説明をしないまま高齢者などに購入を勧めている例が多いとしています。
同行はここ10年で投資信託の販売残高を約10倍にまで拡大する計画を立てており、現場に課せられる営業目標は年々増加しているとのことです。
これにより営業目標達成が最優先となって認知力の低下した高齢者に高額な金融商品を売りつけているとの苦情が相次いでいるとされております。
同行は内規に違反した販売が1万7700件あったと発表し再発防止に向けて研修を強化する方針です。
消費者契約法による規制
消費者が事業者と契約する場合、持っている情報の質や量、交渉力には大きな格差があります。
また高齢化が進んでいる社会情勢や社会生活条の経験不足などにも配慮し、消費者保護を目的として制定された消費者契約法が平成30年に改正され消費者保護をより強化しております。
消費者契約法では勧誘時の不当勧誘行為を規制し、それによる契約は取り消すことができるとしています(4条)。
取り消すことができる期間は契約締結の時から5年、消費者が誤認などに気づいた時から1年に伸長されております(7条)。
また契約の際の不当な契約条項も無効となっております。
不当勧誘行為
(1)不実告知
重要事項について事実と異なることを告げ、消費者が誤認した場合には取り消しの対象となります(4条1項1号)。
例えば「この機会を付けると電気代が安くなる」「溝がすり減っていて危険だからタイヤ交換しなくてはいけない」などと真実に反したことを告げて販売した場合が挙げられます。
「重要事実」は契約目的物に関してではなく、生命、身体、財産その他重要な利益に関する事項が広く含まれます。
(2)断定的判断の提供
消費者契約の目的となるものに関して、将来における価額、消費者が受けるべき金額など変動が不確実な事項につき断定的判断を提供し、消費者がそのように誤認した場合は取り消すことができます(4条1項2号)。
将来値上がりすることが不確実な金融商品について「確実に上がります」などと勧誘する場合です。
(3)不利益事実の不告知
消費者に利益となる旨だけを告げ、不利益となる事実を故意または重過失により告げず、消費者が誤認した場合には取り消すことができます(4条2項)。
例えば後に不動産物件が日陰になってしまう事実や、効果が出ない可能性、目的を果たせない可能性、価格が上がらない可能性といったネガティブな部分を伏せておくといった場合が挙げられます。
(4)判断力低下の利用
加齢等により判断力が著しく低下し、生計、健康などに関する不安を煽って勧誘した場合も取り消しの対象となります(4条5項)。
「この健康食品と食べなければ健康を維持できない」「この金融商品を購入しておかなければ今後の生計を維持できない」などといった場合が考えられます。
無効な不当契約条項
上記は不当な勧誘行為を規制したものですが、契約書での条項にも注意が必要です。
事業者の賠償責任を免除する条項(8条)や、契約解除権を放棄させる条項(8条の2)、消費者が後見、保佐、補助開始の審判を受けるた場合に事業者側が一方的に解除できる条項(8条の3)、消費者の利益を一方的に害する条項(10条)などは無効となっております。
コメント
本件でゆうちょ銀行は元本割れのリスクがある金融商品や高額な外貨建て保険を高齢者に十分に説明しないまま、あるいはメリットだけを説明して販売していた可能性があるとされております。
これらが事実であった場合、消費者契約法の不実告知や不利益事実の不告知、断定的判断の提供に当たる可能性があると言えます。
ゆうちょ銀行ではこれらの勧誘・販売に関して昨年以降、毎月100件前後の苦情が寄せられているとのことです。
以上のようにリスクやデメリットのある商品を消費者に販売する際の規制は近年より厳格なものとなっております。
また先物取引などのリスク商品の販売の場合は別途金融商品取引法でも同様の規定が置かれております。
営業実績やノルマばかりを強調した場合にはこのような法令違反が増加することは必然と言えます。
今一度勧誘方法や契約書に問題がないか見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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