「花とゆめ」有名作家との酷似を謝罪、ビジネスにおける翻案権侵害の危険
2019/07/11 知財・ライセンス, 著作権法
1 はじめに
少女漫画雑誌『花とゆめ』(白泉社)の読みきり作品の主人公の絵柄が、人気漫画家の絵柄と酷似しているとの指摘を受け、編集長が謝罪する事態となりました。
酷似表現は、著作権法27条で保護されている翻案権を侵害するおそれがあります。
翻案権を侵害すると、法人の場合、3億円以下の罰金が科されるおそれがあります。
ビジネスにおいても、挿絵・写真・ブログ記事などを用いたり、競合他社の製品・デザインを参考に新たな著作物を創作する場合など多くの場面で、翻案権侵害のリスクは潜んでいます。
本稿では、著作権法上の危険を回避するために、どのような対策ができるかを考えてみたいと思います。
2 翻案権とは
判例によれば、言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」のことをいいます。
(参照:江差追分事件)
つまり、アイデアが共通しているだけでは翻案権侵害になるとは限りません。翻案後の著作物から、原著作物を容易に想起するような場合でなければ、翻案権侵害とはならないのです。
もっとも、単に似ているだけでは翻案権侵害になりませんが、複製権(著作権法21条、2条1項15号)を侵害するおそれがあります。
翻案権侵害の有無は個別具体的に判断せざるを得ず、実際の判断は容易ではないでしょう。
3 翻案権を侵害してしまった場合のリスク
著作権法は、著作者の人格的な権利(著作者人格権)と財産的な権利(著作権)を保護しています。そして、著作権侵害への救済手段は多岐に渡っており、著作権侵害をしてしまうと様々な危険を負うことになってしまいます。
民事上の救済手段としては、差止請求(著作権法112条)、損害賠償請求(民法709条)、不当利得返還請求(民法703条)があります。
一般的な民事上の損害賠償請求では、損害額の立証が困難であるため、被害者救済が十分でないケースがありえます。しかし、著作権法114条は損害額の推定規定を設け、被害者を手厚く保護しています。請求を受ける側は、反証を成功させなければ損害推定額を支払わなければならない点で、非常に不利になっています。
刑事上の責任を負う場合もあります。個人としては、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金(著作権法119条)が科されますし、法人としては、3億円以下の罰金(著作権法124条)が科される危険があります。
以上のように、翻案権侵害は、たったの一度であろうと会社に著しい損害を生じさせるリスクをはらんでいるため、予防が重要です。
(参照:著作権侵害への救済手続)
4 翻案権侵害を予防するために
ビジネスで生じうる翻案権侵害としては、以下のようなケースがあるでしょう。
例えば、自社で配信するニュースにおいて、難しい言葉の説明をするために、詳しい説明をしているブログの要約をする場合、あまりに詳細な内容まで盛り込んでしまうと、翻案権侵害となり得ます。また、原著作物を他の言語に翻訳しただけの文章をホームページ等で紹介することも、翻案権侵害となり得ます。さらに、イメージキャラクターの作成において、既に存在するキャラクターを参考にしてもらうように依頼し、完成したイメージキャラクターが似すぎてしまった場合も、翻案権侵害となり得ます。
以上のようなケースでは、不特定多数者の目に触れる可能性があることから、損害賠償額、不当利得額、罰金が高額になる危険があります。したがって、社内全体で普段から著作権侵害への意識を高めていく必要があります。
翻案権侵害を予防するために、著作物の要約をする場合は、原著作物の個性を感じ取られないように平易な表現に変える必要があります。また、著作物を翻訳する場合は、原著作物を読まなければ全てはわからない程度の要約をするなどの対処が必要です。イメージキャラクターの依頼をする際には、既に存在するキャラクターを想起させることのないような案を出してもらうように交渉することを心がけましょう。
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