リロケーション業者が和解、裁判例に見る瑕疵物件
2018/05/17 コンプライアンス, 民法・商法

はじめに
転勤中に貸していた自宅マンションで殺人事件が発生し、資産価値が下がったとして転貸を行っていた不動産会社に約1500万円の損害賠償を求めていた訴訟で和解が成立していたことがわかりました。不動産会社が所有者の男性に570万円支払うとのことです。今回は瑕疵物件とその告知義務について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性は2009年に大阪府内のタワーマンションの一室を購入し住んでいました。2011年1月に海外転勤となり、その間留守宅を転貸する、いわゆる「リロケーション」を行うために東京の不動産会社と契約しました。しかし同社から転借し住んでいた男が2014年7月に同室で交際相手を殺害し、殺人罪で懲役9年の実刑判決を受けたとされます。原告男性は同社に対し、この事件で資産価値が下がったとして約1500万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴しておりました。
瑕疵物件とは
民法570条によりますと「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは」契約の解除または損害賠償を求めることができます。いわゆる瑕疵担保責任です。ここに言う「瑕疵」とは取引観念から見て、売買の目的物が通常有すべき性質を欠いている状態を言います。土地建物の場合であれば物理的に有していなければならない設備が備わっていないといった物理的瑕疵から、人が精神的に忌避するような歴史的事実が存在する、いわゆる心理的瑕疵も含まれます。心理的瑕疵となる典型例はその物件で住人が自殺した、孤独死があった、殺人があったといった場合です。なおこの規定は売買だけでなく有償契約に準用されますので、賃貸借などにも適用があります(559条)。
瑕疵物件と告知義務
上記民法570条の瑕疵担保責任は任意規定であることから当事者間の特約によって排除することができます。しかし売り主、貸主が瑕疵の存在を「知りながら告げなかった」場合には責任を免れることはできません(572条)。瑕疵があると知っていながら担保責任排除特約で逃れることは不公正で身勝手だということです。ではそもそも買い主、借り主に対して告知する義務はあるのでしょうか。この点について規定する法律は存在しません。しかし信義則上の告知義務があると考えられております。裁判例では1年数ヶ月前に自殺があった事実について信義則上告知する義務があったとしています(大阪高裁平成26年9月18日)。一方で自殺から2年程度経過していた事案では告知義務を否定しております(東京地裁平成13年11月29日)。自殺か他殺か、自然死か、また事件以降他の居住者が居たか、事件の凄惨さ、購入者の居住形態など様々な事情が考慮されますが、おおむね2年程度経過すれば告知義務が無くなると考えられております。
瑕疵と価値の下落
物件にこのような瑕疵があった場合どの程度価値が下落するのでしょうか。土地の売買で、その敷地内で自殺があった事案で約4000万円の土地につきその20%である約800万円の下落が認められた例があります(東京地裁平成25年3月29日)。事件の状況や経過年数などにもよりますが、一般的にはおおむね自殺で2~3割程度、他殺で5割程度の価値の下落があると言われます。
コメント
本件で発生した事件は、詳細は不明ではありますが殺人です。行為の態様や状況などにも左右されますが5割程度の価値の下落があるものと考えられます。本件はそういった瑕疵物件の取引というわけではなく、留守宅のリロケーション中に自己所有物件で起きた事件であることから不動産会社にすべての責任があるとは考えにくい特殊な事例と言えます。以上のように不動産に関する心理的瑕疵は、契約条項、告知義務、資産価値の評価など様々な点に関わってきます。不動産の売買や賃貸を行う際には過去にこのような瑕疵が発生していなかったか、発生していた場合にはどのような内容か、どの程度期間が経過したか、その間にどの程度人の手に渡ったかなどを詳細に調査する必要があります。また従業員の居住する社宅や、自社が賃借している物件でこのような瑕疵が発生しないよう対策を講じることも重要と言えるでしょう。
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