株式会社MOTHERに対する措置命令、特定電子メール法違反について
2018/03/26 コンプライアンス, 特定電子メール法

はじめに
インターネットの発達により、メールでの営業は一般的になっています。もっとも、営業について宣伝・広告の手段として送信されるメールは、特定電子メール法により規制の対象になります。そこで、今回は、株式会社MOTHERに対する特定電子メール法違反に係る措置命令を題材に、同法の規律を見ていきます。
事案の概要
消費者庁等の発表によりますと、株式会社MOTHERは、いわゆる出会い系のウェブサイト「MOON」を運営・提供していました。その中で、同社は「未使用のポイント等が貯まっている方々を対象に、ポイントの換金及びご入金を実施しております」という旨のメールを利用者に送っていました。しかし、実際にはポイントの換金はなされず、利用者からポイントを搾取していました。また、同社は少なくとも平成29年10月8日から平成30年1月24日までの間、当該ウェブサイトに係る特定電子メールを送信するに当たり、受信者の同意を得ずに広告宣伝メールを送っていました。さらに同社は、当該メールを送信するに当たり、受信者の同意する旨の記録の保存行為を行っていませんでした。加えて、当該メールの一部において、少なくとも平成29年10月8日から平成30年1月25日までの間、送信者の名称及び受信拒否ができる旨等を表示していなかったという事実が認められました。
特定電子メール法の概要
平成13年、携帯電話からのインターネット接続の普及に伴い、電子メールによる一方的な広告宣伝メールを送りつける「迷惑メール」が社会問題化しました。この問題に対応するため、総務省において、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(以下「法」といいます。)が平成14年4月11日に成立し、同年7月1日に施行されました。
1.特定電子メールとオプトイン方式
同法で規律の対象とされている「特定電子メール」とは、電子メールの送信をする者(営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人に限る)が自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信をする電子メールをいいます(法2条2号)。そして、このような電子メールは、以下の法による例外事由に当たらない限り原則として送信することはできません(法3条1項柱書)。このように、広告宣伝メールの送信について、原則としてあらかじめ同意したものに対してのみ送信が認められる「オプトイン方式」が導入されています。
①あらかじめ、特定電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を送信者又は送信委託者に対し通知した者
②①に掲げるもののほか、総務省令・内閣府令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを送信者又は送信委託者に対し通知した者
③②に掲げるもののほか、当該特定電子メールを手段とする広告又は宣伝に係る営業を営む者と取引関係にある者
④③に掲げるもののほか、総務省令・内閣府令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを公表している団体又は個人(個人にあっては、営業を営む者に限る。)
2.同意を称する記録の保存
法3条1項第1号の通知を受けた者は、総務省令・内閣府令で定めるところにより特定電子メールの送信をするように求めがあったこと又は送信をすることに同意があったことを証する記録を保存することも必要となります(法3条2項)。さらに、送信者は、第1項各号に掲げる者からメールの送信をしないように求める旨の通知を受けたときには、その通知に示された意思に反して特定電子メールの送信をしてはならないとされています(法3条3項)。
3.表示義務
送信者は①送信者の氏名・名称(法4条1号)、②法3条3項本文の通知を受けるための電子メールアドレス又は電気通信設備を識別するため情報(法4条2項号)、③その他総務省令・内閣府令で定める事項(法4条3号)の表示が義務付けられています(法4条本文)。その他総務省令・内閣府令で定める事項には、法3条3項本文の規定による特定電子メールの送信をしないように求める旨の通知につき、特定電子メールの送信をしないように求める電子メールアドレスを明らかにして、電子メールの送信その他の任意の方法によって行うものとされています(同法規則5条)。
4.行政処分
上述の法3,4条に違反した場合には、措置命令によって是正が図られています(法7条)。命令に従わない場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます(法34条2号)。また、法人に対しては罰則が強化されており、3000万円以下の罰金に処せられることになります(法37条1号)。
本件の違反事由
本件では、当該ウェブサイトに係る特定電子メールを送信するに当たり、受信者の同意を得ずに広告宣伝メールを送っていた点で法3条1項違反が認められました。また、同社は、当該メールを送信するに当たり受信者の同意する旨の記録の保存行為をせず、同法2項にも違反していました。加えて、送信者の名称及び受信拒否ができる旨等を表示していなかったという事実が認められ、法4条の違反事由も認められました。このため、総務省及び消費者庁は、法第3条第1項及び第2項並びに法第4条の規定の遵守を命じる措置命令を行いました。
コメント
本条はメールマガジンやニュースレター、キャンペーン告知など、形式に関係なくメールを送る際に適用されます。このような広告媒体を用いる場合でも、オプトイン方式(事前承認)や保存義務、表示義務を遵守することが必要となります。一般的な「電子メール」よりも広い範囲を規制の対象にしていますので、ガイドラインを確認しながらその範囲について社内で情報共有をすることも有効といえるでしょう。
ホームページでメールアドレスの公表をしている企業は少なくないですが、この場合には注意が必要でしょう。オプトイン方式では、同意のない広告宣伝メールの送信は禁止されます。もっとも、HPで公表している団体又は営業を営む個人のメールアドレスについては、原則としてこのオプトイン方式の例外とされています(法3条1項第4号)。そのため、お問い合わせ先として公表されているメールアドレス宛への送信であれば、たとえ送信同意をしていない広告宣伝メールであったとしても法律違反にはならないことになります。ただし、「送信を拒否する」旨の表示があればオプトイン方式の例外とはなりませんので、広告宣伝メールを拒否する場合にはこのような記載をすることが望ましいでしょう。
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