「難病で降格は不当」と提訴、配転・降格の適法性について
2025/04/17 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, メーカー

はじめに
難病を患ったことを理由に降格させられたのは不当だとして、「阪神動力機械」(大阪市)に勤務している男性(51)が11日、降格前の地位確認を求める仮処分を申し立てていたことがわかりました。今回は配転と降格について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、阪神動力機械に勤務している原告の男性は2019年、神経系の難病「ギランバレー症候群」を発症し車椅子生活になったとされます。その後も発症前と同じ業務をこなして22年に課長職に昇格したが23年に再発し、療養後に復職すると会社から降格と配置転換を告げられ、24年にはパソコン作業を主とする未経験の内勤業務に異動となったとのことです。会社側からは当初、降格・配転の理由として「障害や休職のリスク」と示されたとされており、上司から「手の動かないやつは戦力にならない」と言われたとされます。原告の男性は「障害があっても働きやすい環境にする一歩にしたい」としております。
降格・配転
会社に勤務する労働者が会社から降格や配置転換を言い渡されることがあります。その原因や理由は様々ですが、一般に降格には懲戒処分としての降格と人事権行使としての降格があります。懲戒処分としての降格は従業員の犯罪行為やパワハラ、セクハラ、社内規則違反といった規律違反行為に対する制裁として行われます。これに対して人事権行使としての降格は、会社の労働者に対する地位の変動や処遇に関する決定権限の行使によるもので、能力不足や役職に不適任と判断された場合に人事上の措置として行われます。懲戒処分についてはこれまで取り上げてきたように、労働法令上も非常に厳格なルールが用意されており、濫用的な懲戒権の行使の場合は無効となりますが、人事権行使の場合はそこまで厳格なルールはなく、原則として会社の裁量に委ねられていると言えます。
人事権行使としての降格
人事権行使としての降格に関する裁判例として、営業部から倉庫への配転と降格がされ、賃金も減額された事例があります。この事例で会社側は営業職として十分な成績を残せず適正に問題があったという理由で降格させたとしておりましたが、配転前の2ヶ月間に退職勧奨を繰り返していたことや、原告が勤続10年の営業部課長でありそれまで会社は長期間成績を問題視していなかったこと、配転先の倉庫はそれまで従業員1名で回しておりそこに配属させる必要性が乏しいこと、賃金が半分以下になったことなどから不当な動機や目的による権利濫用として降格は無効と判断しました(大阪高裁平成25年4月25日)。またこれ以外でも妊娠や産休、育休を理由とする降格(最判平成26年10月23日)、有給休暇の消化を理由とする降格(大阪地裁平成22年5月21日)などでも降格を無効とされております。大きな落ち度がないのに極端な降格をしたという事例でも違法とされた例があります(東京地裁平成9年11月18日)。
懲戒処分の場合
懲戒処分としての降格の要件についても簡単に見ておきます。まず懲戒処分全般の要件として就業規則に規定しておくことが必要です。どのような場合にどのような懲戒処分がなされるかを明示しておくことが求められます。そして労働契約法15条では、「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該業界は、無効とする」とされます。合理性と相当性が必要ということです。また弁明の機会を与えるなど慎重な手続きの履践も求められます。該当者の言い分も聞かずに一方的な処分は裁判所で違法と判断される可能性が高いと言えます。
コメント
本件で阪神動力機会の社員である男性は神経系の難病であるギランバレー症候群に罹患し車椅子となったとされます。会社側は障害や休職リスクを理由にパソコン作業を主業務とする部署に配転させたとのことです。今後は業務遂行能力や適正、また配転にいたるまでの経緯や動機、配転による不利益の程度などが争点となってくるのではないかと考えられます。以上のように降格や配転は会社の人事権行使として行われる場合は原則として会社の裁量に委ねられます。しかし不当な動機がある場合や、正当な権利行使を理由とする場合、また極端に重い降格や減給の場合などでは無効と判断されることもあります。社員の事情や適切な代替措置、それまでの勤務実績など慎重に考慮して適切に権利行使していくことが重要と言えるでしょう。
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