YKKAPに賠償命令、指示・警告上の欠陥とは
2024/03/18 コンプライアンス, 訴訟対応, 製造物責任法, 住宅・不動産
はじめに
網戸を操作するひもが首に引っかかって女児(当時6歳)が死亡した事故をめぐり、両親らが建材大手「YKK
AP」(東京都)と住宅リフォーム会社「土屋ホームトピア」(札幌市)に計約8000万円の損害賠償を求めていた訴訟の控訴審で14日、大阪高裁が計約5800万円の支払いを命じていたことがわかりました。製品の安全性を欠いていたとのことです。今回は製造物責任法の規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、女児は2019年11月、兵庫県内の自宅で、窓に設置された網戸のひもが首に引っかかり死亡したとされます。網戸は直前のリフォームの際に設置され、ロール式でひもで上げ下げする構造となっており、高い場所でひもを束ねるクリップが付属していたとのことです。しかしクリップは出荷時にはひもに装着されておらず、取扱説明書も一緒に梱包されていなかったとされます。女児の両親はYKKAPと土屋ホームトピアの両者に対し計約8000万円の損害賠償を求め提訴しておりました。一審大阪地裁はクリップが付属していたことから製品に欠陥は無いとして請求を棄却しました。
製造物責任法による規制
製造物責任法(PL法)3条によりますと、製造業者は製造・加工した製造物の欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負うとしております。本来民法では損害賠償の要件として故意または過失の存在を必要としておりますが(709条)、PL法3条はこの民法上の不法行為の特則とされており、要件を故意または過失から製造物の欠陥に置き換えております。また民法の債務不履行責任の場合、買主と売主といった契約当事者間でのみ主張される責任であることから、契約関係のない第三者が損害を受けた場合は責任追求が困難とされますが、PL法は欠陥と損害の因果関係を立証すれば契約関係にない場合でも責任追求ができるという特徴があります。このように消費者が製造者の故意や過失などを証明することを要せずに純粋に製造物の欠陥の有無を争点にできる制度と言えます。
製造物責任の要件
製造物責任を追求する際の具体的な要件は、(1)製造業者等が製造物を自ら引き渡したこと、(2)欠陥の存在、(3)他人の生命、身体または財産の侵害、(4)損害の発生と損害と欠陥との因果関係の存在とされております。まず製造業者が自ら製造、加工、または輸入し、もしくは製造物に氏名、商号、商標その他の表示をするか、誤認させるような表示をした上で、引き渡したことが必要です。引き渡しとは自らの意思に基づく占有の移転とされ、有償無償は問われないとされます。そして「欠陥」とは、製造物が通常予見される使用形態、引き渡した時期、その他の事情を考慮して、通常有すべき安全性を欠いていることを言うとされております(2条2項)。その欠陥と発生した損害との間に相当因果関係が存在することも必要とされます(民法416条)。
指示・警告上の欠陥とは
PL法上の欠陥とは上でも触れたように製造物に通常有すべき安全性を欠く状態を言いますが、解釈上の欠陥の一類型として「指示・警告上の欠陥」というものが存在します。これは一般的に、有用性や効用との関係で除去することができない危険性が存在する製造物について、その危険性による事故を消費者が回避するために適切な情報を製造者が与えなかったことによる欠陥とされております。製造物の欠陥そのものではないものの、一定の危険性を有する製品の場合、製造者が適切に危険を回避・防止する方法を説明書等で表示しておく必要があるということです。なお極めて稀にしか起こり得ないような場合や、警告表示がなくとも消費者が容易に危険を予測できるような場合まで指示・警告を要するものではありません。また消費者側が想定できないような使用法や改造などを行った場合も同様と言えます。
コメント
本件で大阪高裁は問題の網戸にひもをまとめる付属品が装着されていなかった上、事故の恐れを警告する表示がなかったとして、指示・警告上の欠陥があったとしました。またリフォーム業者に対しても、説明書を渡し、ひもの危険性などについて説明すべき注意義務を怠ったとして賠償責任を認めました。以上のように製造物責任法では、一般的に知られる欠陥の他に本件のような解釈上の欠陥も含まれております。その製品自体にもともと一定の危険性が含まれている場合は、その危険を回避・防止するために必要な情報、警告を表示しておく必要があります。しかしどのような場合に必要かについてはかなり微妙な判断を要すると言えます。自社製品にどのような危険があるのか、できる限り想定した上で取扱説明書に記載するなどして消費者の事故を予防していくことが重要と言えるでしょう。
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