アンケート結果による雇い止め無効判断、裁判例から見る5年ルールと雇い止め
2023/05/25   労務法務, 労働法全般

はじめに

 授業アンケートでの評価が低かったことなどを理由に大学から雇い止めされた男性(57)が大学を相手取り地位確認などを求めた訴訟で19日、京都地裁が雇い止めを無効と判断しました。損害賠償については棄却とのことです。今回は5年ルールと雇い止めについて見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、原告の男性は関西福祉科学大学(大阪府柏原市)の英語の非常勤講師として2016年に採用され、1年ごとに4度契約を更新してきたものの21年度は更新されなかったとされます。その理由として学生への授業アンケートで評価が低かったとのことです。アンケートでは「この授業をどの程度理解できていると思うか」「教員の話し方はわかりやすいか」「板書はわかりやすいか」などを問うものであったとされます。男性は無期転換権を取得する5年目の直前に雇い止めされたとして京都地裁に非常勤講師としての地位確認や損害賠償などを求め提訴しておりました。

 

無期転換ルール

 2013年4月1日に施行された改正労働契約法18条では、有期労働契約が更新されて通算5年を超えると労働者は無期労働契約への転換を申し込むことができるようになりました。適用されるのは2013年4月1日以降に開始した有期労働契約であり、それ以前に開始したものは含まれません。1年契約の有期労働契約の場合、5回目の更新後に転換権が発生します。3年契約の場合は1回目の更新後に発生することとなります。無期転換権を取得した有期雇用労働者が使用者に申し込むことによって期間の定めのない労働契約に転換されます。これは申し込みの時点で成立し、使用者側は拒否することはできません。長く更新を繰り返している有期雇用労働者が安心して働き続けることができる社会の実現が目的と言われております。

 

雇い止め法理について

 労働契約法19条によりますと、過去に反復して有期労働契約が更新され実質的に無期労働契約と言えるような場合、または労働者が契約更新されるものと期待しることについて合理的な理由がある場合には、更新拒絶することが「客観的に合理的な理由を欠き」、「社会通念上相当」と認められない場合は更新の申し込みを承諾したものとみなされます。この規定は過去の最高裁判例(最小判昭和49年7月22日、最小判昭和61年12月4日等)で確立したいわゆる「雇い止め法理」とよばれるものが上記無期転換ルールと同時に条文化されました。更新の際に契約書を作っていない場合や、仕事の内容が正社員と変わらなかったり、長年更新し続けることが状態化しているといった場合など、このまま働き続けられると期待することが合理的と言える有期労働契約の労働者を保護する趣旨です。なお同様の規定は普通解雇や懲戒解雇についても置かれております(15条、16条)。

 

無期転換ルールに関する裁判例

 無期転換権の発生を回避するために更新拒絶した事例で裁判所は、使用者には労働契約を更新しない自由が認められるから、無期転換権発生前に更新拒絶することもそれ自体は格別不合理ではないとしつつ、それ以外に特段理由もなく更新拒絶することは客観的に合理性を欠き、社会通念上相当と言えないとしました(宇都宮地裁令和2年6月10日)。また無期転換ルール施行に合わせて「最長5年ルール」を設けたという事例で裁判所は、当該ルールにも一定の例外が設けられており、原告の更新に対する高い期待が減殺される状況にあったとはいえず、原告の更新への期待は19条2号で保護されるとしました(福岡地裁令和2年3月17日)。一方で雇用契約当初から契約書に更新限度が5年と記載されており、5年を超えて雇用する意思が無い旨が明示されており、労働者も本件契約を締結するにつき自由意志を阻害する状況のなかったことから、更新を期待する合理的理由は認められないとした例もあります(横浜地裁令和3年3月30日)。

 

コメント

 本件で京都地裁は、アンケートについて「学生の真摯な意見がどこまで反映されているのか、それにより教員の指導能力や勤務態度を判定できるのか、それらを担保する仕組みも設けられていない」などとし、男性の評価が他の教員と比べて大きく下回っているとも言えないとして、雇い止めは合理的な理由を欠くとしました。アンケート評価を理由としつつも、実質的には無期転換の回避が主な理由と判断されたのではないかと考えられます。以上のように無期転換ルール施行後、雇い止めに関する訴訟や裁判例も一定の蓄積がなされてきました。無期転換回避それ自体は違法とは言えませんが、それだけを理由に雇い止めをすることはできません。合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。また最初から5年を超えての雇用はしないことの明示と労働者の自由意志に基づく合意があれば回避することも可能と言えます。有期雇用契約をしている場合はこれらの点を踏まえ労務管理を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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