交付税訴訟で泉佐野市が敗訴、「法律上の争訟」とは
2023/05/16   訴訟対応, 民事訴訟法

はじめに

 ふるさと納税により財政に余裕があることを理由に国から交付税を減額されたのは違法であるとして大阪府泉佐野市が国を相手取り減額決定取消を求めた訴訟の控訴審で10日、泉佐野市側が敗訴していたことがわかりました。行政内部の紛争であるとのことです。今回は裁判の対象であり「法律上の争訟」について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、2019年、大阪府泉佐野市はふるさと納税で返礼品としてギフト券を付けるなどして約185億円の寄付金を集めることができたとされます。これに対し総務省は、多額の寄付金収入があったことを理由に省令を改正し、特別交付税を減額したとのことです。泉佐野市は2020年6月、この減額決定の取消を求め大阪地裁に提訴しました。一審判決では法律上の争訟と認めた上、省令改正は自治体に重大な不利益を生じさせることから総務省の裁量に委ねるのが適当とは言い難いとして減額決定を違法と判断、国は不服として控訴しておりました。

 

司法権と法律上の争訟

 憲法76条1項では、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と規定しております。司法権とは具体的な紛争に対し法を適用・宣言することによってこれを裁定する国家作用と言われております。取引先に債務不履行が発生したり、事故により損害を受けたり、従業員が会社に対し未払い残業代を請求するといった場合に裁判所が法を解釈・適用し解決を図ります。しかし裁判所はどのような紛争でも扱うというわけではありません。裁判所法3条1項では「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他の法律において特に定める権限を有する」としており、裁判所は原則として「法律上の争訟」しか扱わないとされております。

 

法律上の争訟とは

それでは法律上の争訟とはどのようなものでしょうか。一般に法律上の争訟とは、「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法律を適用することによって終局的に解決することができるもの」と言われております。当事者間の具体的な紛争に当たらないとされた事例として警察予備隊違憲訴訟が挙げられます。自衛隊の前身である警察予備隊が憲法9条に違反しているとして当時の国会議員が訴えたものです。最高裁は当事者間に具体的な事件が提起されていないのに将来を予想して抽象的な判断を下す権限は無いとして退けました(最大判昭和27年10月8日)。そして法律を適用することによって解決できるものに当たらないとされた事例としては板まんだら事件が挙げられます。ある宗教団体の本堂に安置されている「板まんだら」が偽物だとして寄付金の返還を求めたものです。最高裁は具体的な紛争の形式をとってはいるものの、宗教上の教義に関する判断が本件訴訟の帰趨を左右する必要不可欠なものとなっていることから法令の適用では解決が不可能として退けました(最判昭和56年4月7日)。

 

司法権の限界

 法律上の争訟に該当する場合でも、例外的に裁判所が審査を行わない場合があります。司法権の限界と呼ばれる問題です。これは憲法の明文で定められているものや憲法の解釈上導かれるものに分けられます。前者では議員の資格争訟裁判(55条)や裁判官の弾劾裁判(64条)が挙げられます。後者では議院の自律権や行政の自由裁量行為、統治行為、政党や大学などの内部自治などが挙げられます。この中で特に問題となりやすいのが行政の自由裁量行為です。行政が行う許認可などの処分につき、根拠法令が行政の判断の余地を広く規定している場合は行政に裁量が与えられていると言えます。このような場合は裁量権の逸脱または濫用があったと認められなければ裁判所は違法とはしないということです。また国と国の条約など高度に政治性のある国家行為についても同様に司法審査を控えるとされます。

 

コメント

 本件で大阪高裁は、地方交付税の分配は国と自治体という行政権の内部の問題であるとし、紛争の解決を行政内部に委ね、国会審議などでその適正性を確保することは地方自治の重要性に照らして不当とはいえないとし、法律上の争訟性を否定しました。当事者間の具体的な権利義務に関する紛争とは言えないと判断されたもと考えられます。以上のように裁判所で扱われる事件には一定の制限が存在します。判断の前提として宗教などの解釈が必要な場合や、試験に適合しているか否かといった単なる事実の存否の争いなどは対象とならないとされます。また行政処分など仮に法律上の争訟とされても行政の裁量が認められる分野では違法と認められることは稀と言えます。誰と誰との間で、どのような紛争が生じているのか、それが裁判所の裁判に馴染むものであるのかを慎重に検討して対応していくことが重要と言えるでしょう。

 

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