非常勤講師らが東海大学を提訴、無期転換の特例について
2022/12/06   労務法務, 労働法全般

はじめに


東海大学に雇い止めを通告されたとする非常勤講師らが1日、雇い止めの撤回などを求め東京地裁に提訴していたことがわかりました。無期転換が認められなかったとのことです。今回は無期転換の特例について見ていきます。

 

事案の概要


報道などによりますと、東海大学静岡キャンパスで勤務する非常勤講師8人が、講座数を減らすなどの理由で大学側から春頃に今年度末での解雇を通告されたとされます。8人は勤務期間が5年を超えているとして無期転換を申し入れたところ、大学側は研究者などを対象に無期転換に必要な勤務期間を例外的に10年とする特例を根拠に転換権は発生していないとして拒否したとのことです。同大学の教職員組合は静岡キャンパスでの一部授業をストライキするとしております。組合側は、雇い止めを強行すれば学生たちも犠牲になるとして無期転換を認めてほしいと訴えているとのことです。

 

無期転換ルール


労働契約法18条によりますと、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換できるとされます。この規定は平成25年4月1日に施行されており、その日以降に開始する有期労働契約が対象となります。たとえば平成25年4月1日に開始し、契約期間が1年の場合、平成30年4月1日に無期転換の申込権が発生することとなります。契約期間が通算で5年となった時点で発生するので、契約期間が3年の場合は1回目の更新時に申込権が発生します。なお無期転換ルールにはクーリング期間の規定があり、間に6ヶ月の空白期間が入った場合通算期間がリセットされることとなります(同2項)。無期転換は労働者の申込によって自動的になされ、会社側の承諾の余地はないとされます。

 

無期転換ルールの特例


上記のように有期労働契約が更新により通算5年を超える場合には労働者の申込で無期労働契約に転換できます。しかし「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」によって無期転換までの期間が5年から10年に伸長されている分野があります。この特例の対象となるのは大学等、研究開発法人、試験研究機関等で、対象者となるのはそれらの機関の研究者、企画立案、資金の確保等の運営管理業務の従事者、教員等とされます。大学等とは大学に加えて民族博物館、天文台、基礎生物学研究所、素粒子原子核研究所、統計数理研究所などが含まれます。研究開発法人には理化学研究所や日本原子力開発機構などの各種研究を行う独立行政法人などを指します。試験研究機関には科学警察研究所、気象研究所など国の研究機関に加え防衛大学や消防大学なども含まれるとされます。教員等とは教授、准教授、助教、講師、助手とされております。

 

無期転換と雇い止め


有期労働契約の更新を拒絶する、いわゆる雇い止については、一定の場合に無効となることがあります。労働契約法19条によりますと、(1)過去に反復して更新され、更新拒絶が無期雇用労働者を解雇することと社会通念上同視できる場合、または(2)更新されると期待することについて合理的な理由が認められる場合には、雇い止めについて客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要となります。雇い止め法理とよばれるものです。無期転換前の雇い止めに関して、使用者には労働契約を更新しない事由があることから、無期転換を回避するために雇い止めを行っても直ちに違法となるものではないとしつつ、雇用継続への合理的な期待がある場合には、特段の事情もなく期待を否定することは客観的合理性を欠き、社会通念上相当とも認められないとした裁判例があります(宇都宮地裁令和2年6月10日)。また不更新条項が盛り込まれた契約書に署名押印がなされても、労働者の自由な意思に基づくものと認められる合理的理由が無い場合は違法とされております(東京地裁令和2年10月1日)。

 

コメント


本件で東海大学の非常勤講師ら8人が雇い止めされたとして東京地裁に提訴しております。8人は通算5年を超えて有期雇用されているとされ、無期転換を主張しております。一方で大学側は特例に該当するとして無期転換に必要な10年は超えていないと反論しております。8人は大学の講師であることから特例に該当する可能性は高いと考えられますが、無期転換とは別に雇い止めには労働契約法19条の雇い止め法理をクリアする必要があり、それらについても争点となってくるものと考えられます。以上のように無期転換ルールには、研究・教育の分野で一定の特例があり5年が10年に伸長されております。該当する労働者を雇用する際にはそれらの点を踏まえて十分に説明した上で、契約締結をしていくことが重要と言えるでしょう。

 

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