歩合給から残業代差し引き、差し戻し審で有効判決
2018/02/20 労務法務, 労働法全般

はじめに
タクシー会社「国際自動車」(東京都)の運転手14人が、歩合給から残業代を差し引く賃金規則は無効であるとして、未払賃金の支払いを求めた訴訟の差し戻し審で東京高裁は15日、賃金規則は有効との判断を下しました。無効判決から一転、原告敗訴となりました。今回は労基法上の割増賃金制度について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、kmタクシーで知られる国際自動車は賃金規則上、形式的には時間外手当が支給されておりますが、発生した時間外手当分、歩合給を減額して合算しており実質的に時間外手当が支払われていないとされます。残業代がいくらになっても合計支払額が変わらないとのことです。同社運転手14名はこのような賃金体系は労基法に違反し無効であるとして提訴しました。一審二審は労基法37条の趣旨に反し無効とし原告側が勝訴しました。最高裁は無効とまでは言えず審理不十分として差し戻しました。
労基法上の規制
労働基準法37条によりますと、使用者は法定時間外労働をさせた場合や休日労働、深夜労働をさせた場合には割増賃金を支払う義務があります。具体的には1ヶ月の時間外労働が60時間以内の分については25%以上、60時間を超える分については50%以上となります。休日労働については35%以上となります(平成6年1月4日政令第5号)。午後10時から翌朝午前5時までの時間帯に労働させた場合には深夜割増として25%となります(37条4項)。なお通達によりますと、36協定が無いなどの、そもそも違法な時間外労働であったとしても割増賃金の支払い義務は免れないとされております(昭和63年3月14日基発150号)。
割増賃金の算定方法
割増賃金の具体的な算定方法は、通常の労働時間の賃金に上記割増率を掛けて算出することになります。通常の賃金の総額を1ヶ月の平均所定労働時間で割り、1時間あたりの賃金を算定します。そこに割増率を掛け、さらに時間外労働時間を掛けることによって割増分の賃金が出て来るということです。歩合給制や出来高払制の場合も同様に計算します。たとえば月の通常の賃金が30万円とし、月の労働時間が200時間、その内残業が30時間であったとします。この場合30万円を200時間で割り25%を掛け、さらに時間外労働時間30時間を掛けた分1万1250円が月の割増賃金ということになります。
企業独自の賃金制度
上記労基法上の割増賃金制度とは異なる賃金体系を定めていた場合、たとえば定額残業代、みなし残業代などの制度を定めていた場合の有効性はどうなるのでしょうか。これについて判例は「基本給の内割増賃金に当たる部分が明確に区分さえれ合意され、かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を…支払うことが合意されている場合」には有効であるとしています(最判昭和63年7月14日)。つまり労基法上定められた割増賃金分の支払いが確保されているのであれば、それと異なる賃金制度を採用しても有効であるということです。
コメント
本件で国際自動車は時間外労働分の残業代は支払われておりましたが、その額に相当する分を歩合給から控除しておりました。つまり何時間残業してもその分基本給が減ることから総額は同じということになります。一審二審は労基法の趣旨および公序良俗に反し無効としました。しかし最高裁は残業分を歩合給から控除する通常の賃金分の算定方法は無効とまでは言えないとし、また通常の賃金と割増部分を明確に判別できるか否か、できる場合に労基法所定の割増額を下回らないかの審理が十分に行われていないとして差し戻しました。つまり上記判例の基準にそった有効性の審理が十分に尽くされていないと判断されたものと考えられます。それを受け差し戻し審では合理性が認められ有効としました。従来の判例の考え方に則った判断と言えますが、基本給の算定については判断がいまだ不明確さが残っております。固定残業制など特殊な賃金体系を採用している場合は、上記判例に留意しつつ、訴訟の行方に注意していくことが重要と言えるでしょう。
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