ユーハイムが社会福祉法人と和解、商標権侵害について
2017/11/22   知財・ライセンス, 商標法

はじめに

洋菓子メーカー「ユーハイム」が特別養護老人ホーム「ユーハイム常陸太田」に対し商標権侵害で商標の使用差し止めと賠償を求めていた訴訟で21日、和解が成立していたことがわかりました。老人ホーム側は来年4月以降は同商標を使用しないとのことです。今回は商標権侵害が生じた際の主な争点について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、洋菓子メーカー「ユーハイム」(神戸市)は1900年代初めにドイツ人が創業し、バウムクーヘンなどで全国展開してきた老舗で、昭和28年1月に「ユーハイム」の名称で商標登録がなされております。一方の特別養護老人ホーム「ユーハイム常陸太田」は社会福祉法人「誠慈会」(茨城県常陸太田市)が平成26年以降、茨城県と福島県で運営しており、ユーハイムの名称の後に地名を付け、現在4ヶ所存在しているとのことです。ユーハイム側は同じ名前が使用されることで、同社が施設も運営していると誤認混同される恐れがあるとして商標差止と1千万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴していました。これに対して施設側は「ハイム」はドイツ語で家を意味し不動産会社等でも使用されていると反論していました。

商標権とは

自社の商品や役務について、商標の登録を行った場合、商標権者は登録の日から10年間、その商標を使用する権利を専有します(商標法19条1項、25条)。その登録商標と同一の指定商品・役務について同じ商標を使用された場合に商標権侵害となります。また指定商品・役務に類似する商品・役務について、類似する商標を使用する場合も同様に商標権侵害に当たります(37条)。侵害を受けた、または受けるおそれのある商標権者は差止を請求することができ(36条)、また損害の賠償を請求することができます。その際の損害の額については、侵害者が販売した商品の数量に商標権者が侵害が無ければ販売できていた商品の単位数量あたりの利益を乗じた額を損害額と推定することができます(38条1項)。

商標権侵害の争点

(1)類似性
商標権侵害でまず問題となるのが類似性です。これについては指定商品・役務についての類似性と商標についての類似性に分けることができます。指定商品・役務についての類似性に関しては、取引の実情を考慮して出所の混同が生じるかで判断されます。裁判例としては指定商品「建物」と「建物の売買」、指定商品「薬剤一般」と「健康補助食品」、指定商品「菓子、パン」と「洋菓子」などが類似性を肯定されております。商標の類似性については、外観、呼称、一般的な印象などを取引の実情を考慮して総合的に出所混同の恐れがあるかを判断します。肯定された裁判例としては、「大森林」と「大林森」、「SCIENCE DIET」と「SUNACE DIET」、「夢二」と「竹久夢二」などがあります。

(2)商標としての使用
他人の商標を使用する場合でも、商品や役務の付して、出所を混同させるような態様ではない場合は商標権侵害に当たらない場合があります。たとえば自社製品の広告やパンフレットに他社製品と比較する目的で、他社の登録商標を記載する場合や、自社製品に他社の製品が使用されていることを示す目的で商品に他社の登録商標を記載する場合などが挙げられます。こういった場合には裁判例でも商標権侵害に該当しないとしています(東京高裁平成13年5月29日等)。

(3)商標権者が使用していない場合
商標権は、継続して3年以上日本国内で商標権者が使用していないときは、誰でも商標登録の取り消し請求をすることができます(50条1項)。たとえば商標権者が商標権侵害を主張してきたとしても、その指定商品または役務において、3年間使用されていなかった場合は特許庁に登録取り消しの審判を請求し、それが認められた場合には侵害に当たらないことになります。

(4)先使用権がある場合
商標登録がなされても、その登録出願の前から他人がその商標を使用しており、そのことが需要者の間に広く認識されている場合は、その他人は以後もその商標を使用する権利を取得します(32条1項)。肯定された裁判例としては、関西地区や中央競馬ファンの間で周知とされた「競馬ファン」、関東甲信越で広く知られていた「ケンちゃん餃子」などがあります(大阪地裁昭和50年6月7日、大阪地裁平成21年3月26日)。商標登録はしていなくても、長年使用し需要者からも広く知られている場合は、その後他社に登録され訴えられたとしても使用継続が認められる場合があるということです。

コメント

本件で社会福祉法人側は「ハイム」はドイツ語で家を意味し、不動産会社等でも使用されていると反論していました。これは商標自体の類似性を否定しようとする反論に当たります。また洋菓子メーカー「ユーハイム」とでは指定商品・役務についての類似性について争いがあり得たと考えられます。本件では判決が出る前に両者間で和解が成立しましたが、商標権侵害を理由に訴訟となった場合、上記のようにそれぞれの争点で反論を試みることが可能と言えます。それ以外にも登録更新を失念している間に他社に取られた場合などのいわゆる公序良俗違反にあたる場合には商標登録の無効を主張することもありえます。自社の商標使用について問題が生じた場合は、商標自体が問題なのか、それとも指定商品または役務が類似しているのか、先使用権は生じないか、相手が3年以上使用していないといった事情は無いかなどを念頭に反論を組み立てることが重要と言えるでしょう。

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