転職と競業避止義務について
2015/08/26 労務法務, 不正競争防止法, 労働法全般, その他
1 概要
情報の価値が高くなっている現代社会では、企業の情報防衛の必要性が叫ばれている。その一方で、雇用が流動化しており、企業の秘密情報に接した従業員が競合他社に転職するということも、珍しいことではない。そこで、企業としては、従業員の転職に際して、企業が従業員に「競業避止義務」を負わせる契約をさせ、同じ業種の企業への転職を禁止する例が一般的になってきている。以下では、競業避止義務と法的問題について取り上げる。
2 競業避止義務について
競業避止義務とは、退職した社員に同業他社への就職を禁止することを内容とする義務である。在職中はもちろん、退職後も、ライバル会社に勤めることを禁止する内容になっていることが多い。なお「不正競争防止法」にも、営業秘密の不正使用や不正な開示を禁止したり、不正手段で取得した営業秘密の利用や開示を禁止する条文がある(不正競争防止法2条1項4号・7号)。このような義務を課す契約は、就職時に誓約書という形でサインさせられたり、就業規則で決められていることが多い。
3 競業避止義務有効性の判断
競業避止義務が有効となるためには、まず、競業避止義務契約が労働契約として、適法に成立していることが必要である。次に、判例上、競業避止義務契約の有効性を判断する際にポイントとなるのは、①守るべき企業の利益の有無、②利益の大小を踏まえつつ、競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっていることである。そして、②契約内容の合理的な範囲を判断するために(ア)従業員の地位、(イ)地域的な限定の有無、(ウ)競業避止義務の存続期間の長短や(エ)禁止される競業行為の範囲についての必要な制限の有無、(オ)代償措置の有無・内容を考慮する。もっとも、裁判所は、個別の事実を重視しているので、どのような規定ぶりであれば競業避止義務契約が有効となるかについては一概に言えない。そこで、このような点を留意して競業避止義務の内容に関するルール作り(例えば、管理職であり、勤続年数~年なら、代償措置~円、競業避止義務の存続期間~年とする)をし、契約内容に取り込んでいくべきである。
4 コメント
競業避止義務を課す契約については、従業員が、就職時に拒否することはほとんど考えられず、また、就業規則に定められていれば、個々の従業員の意思に関係なく適用される。そのため、従業員にとって在職中は義務を負うことは問題にならないことが多い。しかし、辞めた後まで会社に対して競業避止義務を負わせることは行き過ぎとも思える。各個人には職業選択の自由があるだけでなく、多くの方が、会社を辞めたら、これまでの知識や経験を最大限活用して次の仕事を選ぶのが一般的と言えるためである。そのように考えると、企業側は、競業避止義務の内容に関するルールを作成する際には、労働者の働く権利を侵害しすぎない範囲に限定して、裁判所の判断を踏まえて自らの利益を守れる必要最小限度の内容にするよう考慮していくべきであろう。
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