今国会に提出される見込みの労働基準法改正案のポイント
2015/02/04 労務法務, 労働法全般, その他
労働基準法改正案が今国会に提出へ
安倍政権が掲げる「働き方改革」の柱となる労働基準法改正案の具体的な内容が明らかになってきました。厚生労働省は、今月6日をめどに開く労働政策審議会(厚生労働省の諮問機関)の分科会において、労働基準法改正案の報告書に以下の内容を盛り込んだ報告書案を提示し、今月内に労使の意見をまとめた上で、今通常国会に改正案を提出する見込みです。この改正案が通過すると、2016年4月に施行されます。それでは、具体的な内容をみてみましょう。
企業に対する社員の有休消化・年5日の義務付け
厚生労働省によれば、有休を取得できる日数のうち、実際に有休を消化した割合を表す有休取得率は、2013年度の調査では48.8%と5割以下に留まっています。これは、現在の日本における有休制度が、「社員から休みたい時期を指定して請求する仕組み」となっているため、社員が職場に遠慮をしてしまい、なかなか有休の取得を申請しにくいことが原因と考えられています。
そこで、今回の労働基準法改正案では、管理職を含む全ての正社員に年5日分の有休取得時期を指定することを企業に対し義務付けます。この「企業による有休取得時期の指定」については、「自分が休みたいときに休みをとる」という有休休暇のメリットがなくなってしまうという懸念や反発もありましたが、今回の改正案では、例えば、社員が自ら2日の有休を取れば、企業の指定義務は残り3日分にする、といった具合で、上記労働者の懸念に配慮すると共に、既に有休消化に取り組んでいる企業の負担が増えないようになっています。なお、この対象は年10日以上の有休をもらえる人に絞られ、フルタイムで働く人は全員対象となります。一方、パート社員については、元来働く時間が短いため、もともと有休日数が少なく、かつ過労になるリスクが小さいということで、週4日、3年半以上働く人のみが対象となります。
中小企業の残業代の引き上げ
今回の労働基準法改正案では、中小企業の残業代の引き上げも盛り込まれることになりました。現在、中小企業の残業代は25%増しということになっていますが、改正案では、月60時間を超える残業には、通常の50%増の賃金が支払われることになります。これにより、中小企業の経営者に、社員の過労対策に積極的に取り組んでもらうことが狙いです。ただし、これについては、トラック運送業界等、残業の多い業界からの反対があるため、その施行は2019年4月からとなる模様です。
フレックスタイム制の拡充
さらに、今回の改正案では、出退勤の時間をずらすことができるフレックスタイム制の拡充に関する内容も盛り込まれます。具体的には、働く時間を3ヶ月単位で調整できるようにし、ある月は多めに働き、またある月は短めに働いても、3ヶ月の範囲で労働時間の帳尻が合えば、残業代は発生しない仕組みとなります。
この仕組みには、3ヶ月の範囲で多めに働く期間と短めに働く期間を作ることで、労働時間を短めにする期間中に、労働者が家庭や趣味に使う時間を増やすことができるというメリットが、一方で、繁忙期には長時間労働が続くリスクがあります。そこで、これを防ぐために、1ヶ月の労働時間が1週間あたり50時間を越えるときには残業代が発生するものとして企業が支払う人件費を増やす仕組みとすることで、労働者が働きすぎになることがないよう経営者に工夫を促します。
最後に
2014年に日本労働組合総連合会が20歳~59歳の正規労働者及び非正規労働者の男女3000人を対象にした調査によれば、「サービス残業(賃金不払い残業)をせざるを得ないことがある」と答えた雇用労働者は42.6%(正規労働者に限れば51.9%)、そしてその平均サービス残業時間は18.6時間/月(課長クラス以上では28・0時間/月)でした。
今回の労働基準法改正案では、社員が有給休暇を取りやすい仕組みを取り入れたり、フレックス制の導入により、社員が家庭や趣味にあてる時間を持ちやすくするなど、労働者が働きすぎることなく、柔軟に時間をやりくりできるような内容になっています。しかし、一方で、上記連合の調査によれば、労働者が残業及びサービス残業を行う原因は、第1位が「仕事を分担できるメンバーが少ない」、第2位が「業務量が多い」となっており、そもそも会社内における仕事の量に対して人手が不足していると考える労働者の方も多いようです。
“働きすぎず、柔軟に時間をやりくりできる環境”の実現には、有休取得やフレックス制の導入のみならず、このような根本的かつ慢性的な“人手不足”への対応も企業には求められているといえるでしょう。
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