従業員から取得する誓約書のポイント
2019/09/19   労務法務, 民法・商法, 労働法全般

今回は弁護士法人内田・鮫島法律事務所の永島太郎弁護士に「従業員から取得する誓約書のポイント」について記事を執筆していただきました。

1.はじめに

現在、多くの会社が、自己の従業員から秘密保持誓約書を取得していると思います。
この誓約書について、①内容と②取得時期という、2つのポイントについてご説明します。

2.内容に関するポイント

(1)具体的な記載が重要であること
まず、誓約書の内容についてですが、その中心的内容とは、当然、秘密保持に関する規定です。
係る規定のポイントとして、秘密保持の対象となる情報につき、具体的な記載を追加することが重要です。
これにより、こういった情報が営業秘密に該当するといいやすくなるためです。

(2)営業秘密の秘密管理性要件
誓約書の内容が問題となるのは、従業員がこれに違反した場合であり、例えば、退職従業員が元の会社の情報を漏洩したときです。
会社がこの退職従業員の責任を追及する場合、いつくかの方法が考えられますが、漏洩された情報が営業秘密に該当するとして、損害賠償請求や差止請求を行うことが考えられます。
その前提として、営業秘密に該当するためには、①秘密管理性、②有用性、および、③非公知性の要件を満たすものでなければなりません(不正競争防止法2条6項)。

各要件のうち、裁判例で最も争われることが多いのは、①の秘密管理性の要件です。
経済産業省が公開している「営業秘密管理指針」(平成15年1月30日:全部改定平成27年1月28日)によれば、「秘密管理性要件が満たされるためには、営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある」とされています。
つまり、秘密管理性の要件が満たされるためには、従業員などがそれを見た時に、会社が秘密にしたい情報であると理解できることが重要です。

(3)秘密の対象となる情報の記載
誓約書の中に秘密保持の対象となる情報が具体的に記載されていれば、会社は、従業員は会社が秘密にしたい情報と理解できたと主張しやすくなります。
実際の裁判例の中には、この逆の例として、秘密保持誓約書の秘密情報として、具体的な情報の特定がなかったことを1つの理由として、秘密管理性、ひいては営業秘密該当性を否定したものがあります(東京地判平30・9・27 平成28年(ワ)第26919号および第39345号)。

この裁判例を踏まえ、簡単な事例を用いて具体的に検討してみたいと思います。
あなたの会社は特殊な製造方法を使って製品Aを製造しており、この製造方法は公には知られておらず、競合他社を含めて第三者には知られたくない情報であったとします。
従業員が退職後にこの情報を第三者に漏洩させた場合に、営業秘密としての保護を受けやすくするためには、上記製造方法を知る可能性のある従業員から秘密保持に関する誓約書を取得し、かつ、その中に、秘密保持の対象となる秘密情報として、「製品Aの製造方法」との記載を追加しておくことが考えられます。

3.取得時期に関するポイント

最後に、誓約書の取得時期ですが、一つのポイントは、入社時や入社後すぐなど、従業員の会社に対する忠誠度が高い時期に誓約書を取得しておく(署名・押印させる)ことです。
これは、退職間際の従業員から誓約書を取得しようとしても、すでに従業員の気持ちは会社から離れており、誓約書に署名等しないことも十分にありうるからです。

執筆者情報

永島太郎
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士

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永島 太郎ながしま たろう弁護士

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