架空取引で投資ファンドIDIの元代表を逮捕、特別背任とは
2024/10/30 コンプライアンス, 危機管理, 会社法

はじめに
架空の業務委託費を支出させて会社に損害を与えたとして、東京地検特捜部が29日、会社法違反などの疑いで投資ファンド「IDIインフラストラクチャーズ」の元代表を逮捕していたことがわかりました。特捜部は資金の流れを捜査しているとのことです。今回は会社法の特別背任について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、IDI社の元代表取締役は平成30年6月、部下らと共謀してIDI社から架空の業務委託費2160万円を知人のエネルギー関連会社に支出させたほか、令和元年11月には取締役だった外国法人にも業務委託を装って約2100万円を同じエネルギー関連会社に支出させ損害を与えたとされております。エネルギー関連会社に支出された資金は実質的に同容疑者が管理するシンガポールの企業などに送金された疑いがあるとのことです。東京地検特捜部は会社法の特別背任などの疑いで逮捕するとともに関係先などを家宅捜索して資金の流れを追っております。
背任と特別背任
刑法247条によりますと、他人のためにその事務を処理する者が、自己または第三者の利益を図りまたは本人に損害を加える目的でその任務に背く行為をし、財産上の損害を加えたときは5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処するとされております。これを背任罪と言います。これは法律上または事実上の信頼関係により事務処理を任されている者がその信頼を裏切って本人に損害を与えたりした場合に処罰される規定です。このような規定は会社法にもあり、取締役や監査役など会社の役員が背任行為を行い会社に損害を生じさせた場合には10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(会社法960条、961条)。これが会社法の特別背任です。会社の役員等は株主総会で選任され、会社のために忠実義務・善管注意義務を負うなど強い信頼関係の下、業務執行などを委任されております。そのため通常の背任罪に比べ相当罰則が重く規定されております。以下具体的に要件を見ていきます。
特別背任の要件
特別背任の対象とされる者は、発起人、設立時取締役、設立時監査役、取締役、会計参与、監査役、執行役、民事保全法による職務代行者、一時取締役等、支配人、使用人、検査役、清算株式会社の清算人、清算人の職務代行者、一時清算人等、清算人代理、監督委員、調査委員、代表者債権者、決議執行者となっております。およそ会社に関連するあらゆる役職の者が対象となっております。これらの者が自己もしくは第三者の利益を図り、または会社に損害を加える目的(図利加害目的)をもって任務に違背する行為が必要です。自身の利益を目的としていなくても、第三者の利益を目的としていたり、会社に損害を与えることを目的として任務に背く行為をすると成立します。しかし任務違背行為があっても自己または第三者の利益を図る意図はなく、会社の利益のためであった場合は成立しません。特別背任の典型例としては、不正融資や不良貸付、会社に企業秘密の漏洩などが挙げられます。
業務上横領とは
背任罪に似た行為として業務上横領があります。業務上横領は、自己が業務上占有する他人の物を領得した場合に成立し、10年以下の懲役とされております(刑法253条)。集金してきた現金を使い込んだり、管理している口座の預金を引き出して自己のものとするといった行為が該当します。そしてこの横領と背任は重なり合うことが多く、両方に該当することがあります。このような場合は横領罪が優先的に適用され、それ以外の場合に背任罪が適用されるとされております。また特別背任は上でも触れたように対象者が取締役などに限定されているのに対し、横領罪は特に制限は無く、他人の物を占有している者が対象となります。横領罪には背任罪のような図利加害目的といった主観的要件も存在しません。
コメント
本件でIDIの元代表は架空取引で業務委託費を会社に支出させ、その資金を自己の管理する企業に送金させた疑いが持たれております。これが事実であった場合、自己の利益を図る目的で会社の代表取締役が任務に背く行為をしたと言え、特別背任に該当する可能性が高いと言えます。本件容疑はIDI社の内部調査で不正流用が発覚したとされ、同容疑者は既に代表取締役を解任されており、損害賠償を求め東京地裁にも提訴されております。以上のように取締役等の会社役員が自己または第三者の利益のため、または会社に損害を与える目的でこのような行為をした場合は会社法の特別背任に当たります。通常の背任罪と比べて法定刑も倍と、非常に厳しいものとなっております。どのような役職の者が対象となるのか、どのような行為が該当するのかを社内で周知し、予防していくことが重要と言えるでしょう。
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