ASPJapanに排除措置命令、抱き合わせ販売とは
2024/05/02   行政対応, 独禁法対応, 独占禁止法, 医療・医薬品

はじめに

公正取引委員会は医療機器販売をめぐり、独禁法違反があったとして「ASPJapan」に対し排除措置命令を出す方針を固めました。内視鏡洗浄器で抱き合わせ販売があったとのことです。今回は独禁法の抱き合わせ販売について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、医薬品販売大手「ジョンソン・エンド・ジョンソン」(米国)の日本法人(千代田区)と医薬品販売「ASPJapan」(港区)の2社は遅くとも2017年頃から取引先の医療機器会社が製造する内視鏡の洗浄器で、自社が製造販売する消毒液しか使えない仕様にしたり、自社の消毒液を使用することを条件として病院と保守サービス契約を締結していた疑いがあるとされます。公取委は独禁法が禁止する取引妨害や抱き合わせに該当する疑いがあるとして2022年12月に立入検査を行っており、ASPJapanに排除措置命令を出す方針を固めたとのことです。なおジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人はASP側に事業譲渡をして撤退しており同社への排除措置命令は見送られております。

 

抱き合わせ販売とは

 独禁法の一般指定(昭和57年6月18日公取委告示15号)10項によりますと、「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ」ることを抱き合わせ販売と言うとされます。抱き合わせ販売は不公正な取引方法の一つとして独禁法で禁止されており(19条)、違反した場合には排除措置命令の対象となっております(20条)。現時点では課徴金納付命令の対象とはなっておりません。売れ行きの悪い不人気商品の在庫を処分するために、人気商品とセットで販売するといった行為が該当します。相手方に不当に不必要な商品やサービスを購入させる点がポイントです。相手方の自由な商品選択を阻害し、事業者の健全な競争も阻害する行為として禁止されております。以下具体的に要件を見ていきます。

 

抱き合わせ販売の要件

 抱き合わせ販売の要件は、(1)抱き合わす商品または役務である「主たる商品」と抱き合わされる商品または役務「従たる商品」が別個の商品であること、(2)従たる商品購入の強制があること、(3)不当であることと言われております。まず人気商品である主たる商品とそれに合わせる従たる商品が別個独立した物であることが必要です。たとえば歯ブラシと歯磨き粉をセットにして旅行用パックとして販売する場合はこれで1つの商品となっていることから該当しません。主たる商品に併せて従たる商品の購入を強制したと言えるためには主観的に強制されたかではなく、客観的に主たる商品を購入するために従たる商品の購入を余儀なくされているかで判断されます(審決平成4年2月28日)。そして不当性は公正競争阻害性とも呼ばれ、価格・品質・サービスを中心とする能率競争の観点からみて不公正であること、また従たる商品市場における自由競争の減殺を意味するとされます。

 

抱き合わせ販売の具体例

 これまで抱き合わせ販売に当たり違法であると判断された例として、人気ゲームソフトと在庫ソフト(藤田屋事件審決平成4年2月28日)、エレベーターの部品と取替工事(東芝昇降機事件大阪高裁平成5年7月30日)、表計算ソフトとワープロソフト(日本マイクロソフト事件審決平成10年12月14日)、融資と農業機械(斐川町農協事件審決昭和51年3月29日)、教科書と普通図書(長野県教科書供給所事件審決昭和39年2月11日)などが挙げられます。これに対し該当しなかった例として、アイドルグループのCDと握手会に参加できるチケットがあります。これについては過去何度か問題に上がりましたが結局抱き合わせ販売に該当するとは判断されませんでした。従たる商品である握手会チケットは本来単体で販売されるものではないことが理由と考えられております。

 

コメント

 本件でジョンソン・エンド・ジョンソンとASPJapanは内視鏡洗浄器で自社が製造販売する消毒液しか使えない仕様にしたり自社の消毒液を使用することを条件として病院と契約を締結するなどしていたとされます。病院としては同社の消毒液を使用せざるを得ず、能率競争によるものでなく、また消毒液市場においても競争の減殺を招き不当と判断されたものと考えられます。以上のように特定の商品またはサービスの提供に際して、独立した他の商品またはサービスの購入を強制した場合、独禁法違反となる可能性があります。特に自社製品を使用する際にその付属品も自社製品でなければ動かないといった仕様にする場合も注意が必要です。また抱き合わせ販売とは別に優越的地位の濫用に該当すると判断される場合もあると言えます。自社の取引状況を今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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