ソフトバンクが新株発行、社債型種類株式とは
2023/05/26 商事法務, 戦略法務, 会社法

はじめに
ソフトバンクは24日、最大で1200億円規模の募集株式発行を今年度内に行うと発表しました。議決権や転換権の無い社債型種類株式とのことです。今回はこの社債型種類株式について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ソフトバンクは今年度内に一般公募で最大1200億円分の社債型種類株式を発行し、東証プライムへの上場も申請するとされます。発行から5年間は固定配当となり年利2~4%で配当がなされるとのことです。調達資金の使途は通信・IT技術の高度化や次世代社会インフラに関連した成長投資の資金に充当するとされ、引受証券会社は野村證券とのことです。議決権が無いことから普通株の議決権の希薄化を生じさせることなく自己資金を拡充できるため多様な資金調達の手段につながるとしております。6月20日に予定されている定時株主総会で定款変更の承認決議を得る予定とされます。
社債型種類株式とは
通常優先株式は普通株式よりも優先して配当を受け取ることができる代わりに議決権が制限されていたりします。会社運営に関心が無く、もっぱら配当のみを重視する投資家などから資金調達を行う際に利用されます。しかし会社にとって優先配当は負担となり、また株主にとってもそのままでは売却などによる投下資本の回収が困難なことから優先株には普通株式への転換権が付されます。これに対し社債型種類株式は優先株と同様に優先配当と議決権制限が付いている一方で普通株式への転換権が付いておりません。そのため将来的に既存の普通株式の議決権が希薄化されることはありません。社債型種類株式の株主は社債と同様に会社から償還を受けることによって投下資本を回収することとなります。株式というよりも社債に近い性質を持つと言えます。これにより投資家は優先的な配当利益を受けられ、会社も普通株式への転換や議決権割合を考える必要がなくなります。
社債とは
ここで社債についても簡単に触れておきます。会社法2条23号によりますと、社債とは「会社が行う割当により発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、第676条各号に掲げる事項についての定めに従い償還されるもの」とされます。株式と異なり会社の支配関係に影響を及ぼさずに金融機関以外の公衆から多額かつ長期の資金調達を可能とするものと言われております。社債は償還時までに設定された利率に応じて利息が支払われ、この利率は会社の信用度に応じて設定されることが一般的です。社債の種類は普通社債、転換社債、ワラント債、劣後債、電力債などに分かれます。社債の発行は取締役会または取締役の決定によりなされます(362条4項5号、348条1項)。また社債管理者の設置や社債権者集会などが必要となってきます(702条、715条)。
種類株式発行手続き
種類株式にはいくつか種類があり、優先株(劣後株)、議決権制限株、譲渡制限株、取得請求権付株、取得条項付株、全部取得条項付株、拒否権付株、先任権付株などが挙げられます(108条)。種類株式発行の際にはそれぞれの種類株式の種類に従って定款に定める事項を決定することとなります。優先・劣後株では交付する配当財産の額や決定方法、議決権制限株では議決権を行使できる事項、譲渡制限株では譲渡による取得について会社の承認を要する旨などです。これら定款変更には株主総会特別決議が必要となります(466条、309条2項11号)。また公開会社が譲渡制限株式を発行する際には、発行済株式総数の50%を超える場合、譲渡制限株式の割合が50%以下になるよう必要な措置を取る必要があります(115条)。既に発行済の種類株式に譲渡制限を設ける際には当該種類株主総会での特殊決議も必要となります(111条2項、324条3項1号)。
コメント
本件でソフトバンクは1200億円規模の社債型種類株式発行を予定しております。発行から5年間は2~4%の固定金利で5年経過すると同社に買い戻す権利が生じるとされます。議決権も転換権も無いことからかなり社債に性質が近いものの東証プライムに上場させ広く一般に公募されます。なお株式市場に社債型種類株式が上場されるのは初とのことです。今回の社債型種類株式による公募増資は野村證券から提案を受けたとされます。以上のように金融機関からの借り入れ以外での資金調達方法としては従来から株式発行と社債が存在しますが、これら双方の中間に位置するとも言える社債型種類株式も存在します。近年では2022年にメイコーが発行しております。またこれに似たハイブリッド債といった社債も利用されることがあります。資金調達方法それぞれのメリットやデメリットを踏まえ、自社の現状に合った資金調達を柔軟に模索していくことが重要と言えるでしょう。
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