職場におけるスモークハラスメントのまとめ
2016/11/18 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
2016年から注目が増している「スモークハラスメント」。通称スモハラは、職場での受動喫煙によるトラブルが増えています。スモハラが原因のトラブルが増えたことで、厚生労働省は、受動喫煙の対応に動き始めており、今後の企業に対する禁煙対策が注目されます。
1 職場におけるスモークハラスメント
ア スモークハラスメント
職場などにおいて自己の意思に反して喫煙者が非喫煙者に対して喫煙することを強制したり、タバコの煙にさらされるなど、いわゆる「喫煙に関する嫌がらせ行為」のこと
をいいます。(スモークハラスメント 山本 由美子著)
イ ハラスメントになる根拠
受動喫煙とは、タバコを吸っている人の周りにいる人が、タバコの煙を吸うことをいいます。受動喫煙は、健康を害する"環境タバコ煙"を発生させることにより、周囲の人々に対して害を与えます。同時に、受動喫煙を強いることで、人々のタバコの煙にさらされない自由を侵害していることが、問題とされています。
条約では、「タバコ煙からの保護という義務は、基本的人権と自由に基づいたものである。(PDF WHO タバコ規制枠組条約第 8 条の実施のためのガイドライン「タバコ煙にさらされることからの保護」 )」とされています。
同条約については、日本も批准しています。そして、同条約における「タバコの煙にさらされることからの保護」は、基本的人権の範疇に属するものと捉えられていますが、未だ判例で認められたものではありません。
また、健康増進法第25条、労働安全衛生法68条の2では、施設管理者に受動喫煙防止の努力義務を課して、受動喫煙防止対策の徹底が、厚生労働省より求められています。(厚生労働省 タバコと健康に関する情報ページ)。
2 業務時間の喫煙について
業務時間とは、労働時間のことを指します。喫煙者は、労働時間中にタバコを吸いに行くことになります。喫煙時間は、実際には働いていないので、労働時間に入ると考えることは出来ないと思います。
また、非喫煙者としては、喫煙者がタバコを吸っている時間も労働時間として同じように扱うのは不公平だと感じることは、当然だと思います。
法律において労働時間とは、会社の指揮監督下に置かれている時間をいいます。
判例の中には、タバコを吸いに行っている時間も労働時間に含まれるとしたものもあり、タバコを吸いに行く時間が労働時間に含まれるかは場合によることになります(2009年8月25日大阪高判決平成21行(コ)7 療養補償給付不支給決定処分取消等請求控訴事件)。
労働時間内で許される喫煙に対する考え方のポイントは2つ。
①喫煙は、自分のデスクでお茶やコーヒーを飲みながら仕事をすることと同じであるということ。
②喫煙中でも何かあればすぐに対応できる状態にあるとすれば、労働から完全に解放されているわけではないということ。
3 職場におけるスモークハラスメント対策
労働安全衛生法が改正され、平成27年6月1日から、職場の「受動喫煙防止対策」が事業者の努力義務となりましたが、これもタバコを吸った人を処罰する法律ではありません。
しかし、受動喫煙によって周りの人々へ重大な健康被害が出るおそれがあることも事実ですので、喫煙者自身の配慮と会社で喫煙に関するルールを作るなど会社と喫煙者の協力が必要だと思います。
4 企業が行うべき受動喫煙対策の具体的な4つの内容
①自社の現状を把握する。
自社における喫煙者の割合から喫煙者の分布等に加えて、妊婦、未成年者等の受動喫煙で影響を受けやすい者がいるかどうか。影響を受けやすい者が受動喫煙しているかを把握することが重要です。
②管理職、従業員に受動喫煙に関する教育を行い、受動喫煙対策への協力を求める。
多くの企業では、喫煙者が禁煙することを目指しており、企業も非喫煙者も一体となって禁煙活動に協力しています。非喫煙者にも喫煙者同様に喫煙に対する問題意識をもってもらうために、禁煙セミナーに参加させているようです。企業は、禁煙補助薬の費用を禁煙の成否にかかわらず、補償しています。
③屋内全面禁煙、空間分煙、適切な換気措置等により、受動喫煙を防止する。
喫煙者の禁煙を目指すのではなく、非喫煙者の受動喫煙を防止することを目的としています。具体的には、非喫煙者が通るような通路、場所の近くに喫煙所を設けないことで、受動喫煙を防止することになります。
④職場の空気環境の測定を行い、浮遊粉じん濃度や一酸化炭素濃度が基準内であるかを確認する。
厚生労働省では職場の空気環境の基準を定めています。詳しい基準内容は省きますが、屋外喫煙所設置、喫煙室設置による空間分煙の場合、換気措置よる受動喫煙防止の場合の3つに分けて細かく基準を設けています。
以上の4つが、基本的な受動喫煙対策になります。受動喫煙対策を積極的に行っている企業は、受動喫煙を防止するだけでなく、禁煙活動のほうに力を入れています。そして、その禁煙は概ね成功しているところが多いようです。
5 終わりに
厚生労働省は、2016年10月公共施設での全面禁煙と飲食店での分煙を義務化し、違反者には罰則を与える法案を提出しようとしています。
これは、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)が、「タバコのない五輪」を目指していることも影響を受けています。日本は、現在受動喫煙対策について国際的にだいぶ遅れています。そのため、これから一層の受動喫煙対策が打ち出されることになるでしょう。これにより企業においても同様の対策が、求められることになると思います。
事実、多くの欧米企業では、禁煙が基本となっており、アジアにおいてもフィリピンでは禁煙法が成立しています。現在、世界では、国が主導し企業が続く形で禁煙に対する取り組みを行っています。日本でも国が、既に受動喫煙対策に動いている以上、企業も動かざるを得ない状況になっていると思われます。まだ受動喫煙対策を施していない企業は、可能な限り早く受動喫煙対策に着手したほうがいいかもしれません。
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