食品への異物混入に関する法律まとめ

1.はじめに

 神奈川県大磯町が昨年1月から業者が弁当を届けるデリバリー方式の学校給食を町立中学校2校で導入したところ、毛髪などの異物混入が計84件と相次いで発生したため、町議会は、給食の製造業者との契約を解除する方針を決めました。この件以外にも、カップ焼きそばにゴキブリ、フライドポテトにヒトの歯らしきものが混入していたなど、食品への異物混入問題は後を絶ちません。実際に、平成27年度の東京都福祉保健局の統計によれば、異物混入に対する苦情処理件数は全体の20.3%にも及び、平成23年度よりも約500件も増加しています。そこで、今回は、食品への異物混入に関する法律についてまとめました。

東京都福祉保健局HP「食品衛生の窓口」

2.関係法令の概観

 食品を製造・販売した場合の流通は、様々ではあるものの、一般的には、製造業者→卸業者→小売業者→消費者、といった流通過程になります。消費者が購入した食品から異物が発見された場合、各業者間で様々な法的問題が生じますが、今回は製造業者を取り巻く主要な法律関係について見ていきたいと思います。

3.製造業者と行政(保健所)

 製造業者と行政との関係では、食品衛生法第6条が問題となります。この点、食品衛生法上の「異物」とは、「食品又は添加物以外の物質で、人の健康を損なうおそれのあるもの」と解釈されており、そういったものに限って販売等が禁止されています。また、「人の健康を損なうおそれのある」か否かは、客観的に判断されることになりますが、「おそれのある」かどうかの判断が難しい場合も少なくなく、実務上は、どの程度の健康被害の発生リスクまで含まれるのか法的解釈が問題となります。そして、同条の違反行為に対しては、①廃棄命令、②危害除去のための必要な処置(回収命令・改善命令など)、③営業禁停止、④許可取消、⑤改善命令、及び⑥営業禁停止(許可営業者について)が行政処分として実施される場合があります(同法第54条、55条、56条)。

以下、食品衛生法第6条と同条違反の事例については、下記のサイトが参考になりますので、ご紹介させていただきます。

e-Gov法令検索「食品衛生法」
会社の製品に異物が混入してしまった場合,どんな罪に問われるの?(小林裕彦法律事務所コラム)

4.製造業者と卸業者

 製造業者と直接の売買契約を締結する卸業者との関係では、売買契約における債務不履行責任に基づく損害賠償(民法第415条)及び契約上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償などが問題となります。この点、製造業者が、故意又は過失により、卸業者に異物が混入した食品を供給することは、一般的には「債務の本旨に従った履行をしないとき」(同条)に該当すると思われ、債務不履行となることから、卸業者としては、製造業者に対し、瑕疵のない食品の供給のほかに損害賠償等の請求ができることになります(同条)。また、卸業者と製造業者との間の契約では瑕疵担保条項を定めることが通例であり、卸売業者は、製造業者に対し、異物が混入した食品には「瑕疵」があるとして瑕疵担保責任に基づき、損害賠償等の請求もなしえます。

以下、民法第415条と同条違反の事例については、下記のサイトが参考になりますので、ご紹介させていただきます。

e-Gov法令検索「民法」
瑕疵担保責任②(債務不履行責任、製造物責任との比較)(弁護士 日髙正人のブログ)

5.製造業者と消費者

 製造業者と消費者との関係では、製造物責任法(以下「PL法」という)第3条が問題となり、同条の「欠陥」については同法第2条に規定されています。製造物の欠陥には、①設計上の欠陥、②製造上の欠陥、③指示・警告上の欠陥の3種類に分けられます。特に食品では、②製造上の欠陥が問題となることが多く、例えば、製造過程において、食品に鋭利な金属片が混入してしまい、これを食べた消費者が口内に怪我をした場合には、この製造上の欠陥があるとして賠償責任が生じうることになります。製造機器の摩耗・経年劣化により金属片が混入する事故は、異物混入事故の中でもかなり多い類型となっています。また、今後、食品では、③指示・警告上の欠陥も問題とされる場合が増えることが予想されます。例えば、製造業者が安全確保上どうしても必要な事項を表示・警告書に書き漏らした場合、これは③指示・警告上の欠陥に該当することとなり、賠償責任を負う可能性があることには注意が必要です。

以下、PL法第3条と同条違反の事例については、下記のサイトが参考になりますので、ご紹介させていただきます。

e-Gov法令検索「製造物責任法」
ジュースの中の異物による負傷と製造物責任(独立行政法人国民生活センターHP)

6.おわりに

 人の手を介して製造している以上、食品への異物混入の危険性は常にあります。一方で、世の中の食品への安全・安心の要請は高まっております。特に、給食など子どもの食べる食品へのそれは顕著なものとなっております。食品への異物混入を防ぐためには、製造現場におけるマネジメントシステムを作る必要があります。また、実際に異物混入が起きてしまった場合、再発防止のため、製造現場の従業員とコミュニケーションを取り、原因究明、マネジメントシステムの改善などにつなげていくことも必要となってきます。健康について人々の関心が高まっている昨今の状況をみても、マネジメントシステムの構築は、企業側にとっても消費者側にとっても早急に求められていることのように思います。

「(PDFファイル)食品事業者の法務(1)~異物混入と法的責任~(松田綜合法律事務所)」
「食品製造現場における総合的な異物混入対策の考え方と進め方」(イカリ消毒株式会社)

関連業務タグ:
関連法律タグ:,
 
[著者情報] watanabe1

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務NAVIまとめ コンプライアンス 民法・商法 製造物責任法
第89回MSサロン(名古屋会場)
2017年11月14日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「モノづくり企業のためのIoT法務入門」です。
申込・詳細はコチラ
法務NAVIまとめ コンプライアンス 民法・商法 製造物責任法
第91回MSサロン(東京会場)
2017年11月22日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
近内京太
2006年の弁護士登録以来、丸の内総合法律事務所にて、企業の法律顧問業務のほか、M&A、株主総会、危機管理、海外取引、企業関係訴訟、その他の企業法務全般を取り扱う。
2003年京都大学法学部、2016年ワシントン大学ロースクール(LLM)卒。2017年ワシントン州司法試験合格。2011年1月~2012年6月預金保険機構、2016年8月~2017年7月米国シアトルのShatz Law Group勤務。
趣味は、ロングトレイルを中心にランニング全般。
[近時の著作]
「自動運転自動車による交通事故の法的責任~米国における議論を踏まえた日本法の枠組みとその評価[上]・[下]」(国際商事法務44巻10号1449頁・11号1609頁) (2016)
American Bar Association, Section of International Law, Regional and Comparative Law: Asia Pacific, 51 The Year In Review 579 (2017)
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「民法(債権法)改正の概要と約款取引について企業のとるべき対応」です。
申込・詳細はコチラ
法務NAVIまとめ コンプライアンス 民法・商法 製造物責任法
第90回MSサロン(大阪会場)
2017年11月15日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
井関勝守
CPJAPAN綜合特許事務所 所長弁理士

知的財産に関する実務経験約18年。
2001年弁理士登録。

国内企業のみならず、多くの海外企業の案件に関わり、権利化業務に留まらず、知財紛争に関する支援や、産学連携を含む技術移転の支援、知財に関する交渉、契約、知財情報の分析、知財を活用した事業戦略・海外展開に向けた相談業務など多面的な業務を経験する。
また、発明推進協会の模倣被害アドバイザー、中小機構の経営支援アドバイザー、中小企業等外国出願支援事業の審査員(大阪府)、大阪府「ものづくりイノベーションプロジェクト」評価協力員等の公的な業務にも選任され、これまで関わってきた。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「知的財産を含む契約における特有の留意事項~自社事業を円滑に進めるために~」です。
申込・詳細はコチラ
民法・商法
《緊急セミナー》改正債権法に基づく契約書作成実務
2017年10月13日(金)
14:30 ~ 17:30
15,000円(資料代・消費税を含む)
東京都品川区北品川
講師情報
滝川 宜信
(行政書士滝川ビジネス契約コンサルティング代表〔特定行政書士〕・明治学院大学非常勤講師)
◆中央大学大学院法学研究科博士後期課程中退
◆㈱デンソー法務部課長~部長および名古屋大学大学院法学研究科客員教授、明治学院大学法科大学院教授(会社法・商法担当)、株式会社トーカン顧問を歴任。
・この間、中部経済連合会法規委員会専門委員長、経団連経済法規委員会企画部会委員・消費者部会委員、名古屋工業大学・名城大学法学部・中京大学法学部・南山大学法学部・法科大学院の非常勤講師を歴任。
◆日本私法学会会員、金融法学会会員
◆主な著書
『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『実践企業法務入門(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)、『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)
『内部統制対応版企業コンプライアンス態勢のすべて〔新訂版〕』(共著・きんざい)、『リーディング会社法〔第2版〕』(単著・㈱民事法研究会)、『企業法務戦略』(共著・㈱中央経済社)、『社外取締役のすべて』(共著・東洋経済新聞社)など
改正民法施行は、2020年1月または4月と見込まれていますが、今から契約書の準備をすることが必要です。
本セミナーでは、『取引基本契約書の作成と審査の実務』など契約書の審査と実務シリーズ(民事法研究会・刊)の著者が、企業法務の担当者を対象に、直接、わかり易く丁寧に解説します。
滝川宜信・著『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会・刊)に掲載の請負契約書ひな型・委任契約書ひな型に基づき具体的に条文の変更例を示し解説します。
※変更例および主旨は、他の契約にも応用が可能です。
※本セミナーは、本年7月19日に、名古屋・愛知県弁護士会ホールで行った内容と基本的に同じです。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
民法・商法
《緊急セミナー:名古開催》改正債権法に基づく契約書作成実務
2017年11月24日(金)
14:30 ~ 17:30
15,000円(資料代・消費税を含む)
名古屋市中区栄
講師情報
滝川 宜信
(行政書士滝川ビジネス契約コンサルティング代表〔特定行政書士〕・明治学院大学非常勤講師)
◆中央大学大学院法学研究科博士後期課程中退
◆㈱デンソー法務部課長~部長および名古屋大学大学院法学研究科客員教授、明治学院大学法科大学院教授(会社法・商法担当)、株式会社トーカン顧問を歴任。
・この間、中部経済連合会法規委員会専門委員長、経団連経済法規委員会企画部会委員・消費者部会委員、名古屋工業大学・名城大学法学部・中京大学法学部・南山大学法学部・法科大学院の非常勤講師を歴任。
◆日本私法学会会員、金融法学会会員
◆主な著書
『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『実践企業法務入門(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)、『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)
『内部統制対応版企業コンプライアンス態勢のすべて〔新訂版〕』(共著・きんざい)、『リーディング会社法〔第2版〕』(単著・㈱民事法研究会)、『企業法務戦略』(共著・㈱中央経済社)、『社外取締役のすべて』(共著・東洋経済新聞社)など
改正民法施行は、2020年1月または4月と見込まれていますが、今から契約書の準備をすることが必要です。
本セミナーでは、『取引基本契約書の作成と審査の実務』など契約書の審査と実務シリーズ(民事法研究会・刊)の著者が、企業法務の担当者を対象に、直接、わかり易く丁寧に解説します。
滝川宜信・著『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会・刊)に掲載の請負契約書ひな型・委任契約書ひな型に基づき具体的に条文の変更例を示し解説します。
東京開催(10月)の満員の盛況を受け、このたび名古屋開催を決定しました。
※変更例および主旨は、他の契約にも応用が可能です。
※本セミナーは、本年7月19日に、名古屋・愛知県弁護士会ホールで行った内容をバージョンアップし、3時間で解説するものです。
申込・詳細はコチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

民法改正と企業法務への影響まとめ 民法改正と企業法務への影響    民法改正の話が出てからずいぶん経ちますが、2015年3月31日に民法改正案が国会に提出され、法務省によると、今秋の臨時国会で実質的審議が開始される見込みのようです。  そこで来たるべき民法改正にむけて企業法務における影響について改めてみていきたいと思います。  民...
勤怠管理に関する法的トラブルまとめ...  近年、勤怠管理は、多くの企業において重要視されている。実際、従業員の勤怠管理が充分でないと、業務の遂行が不効率になるおそれがある。そこで、勤怠管理のありかたについて、みてみたいと思う。 勤怠管理とは  勤怠管理とは、企業が従業員の出勤時間や退勤時間、欠勤状況、休暇の取得状況などを正確に把握し、...
「営業秘密」の侵害類型まとめ モノとインターネットがつながるIoT技術などで使われるビッグデータに関して、経済産業省と特許庁が、26日、「営業秘密」として保護を強化するべく、次世代に向けて知的財産制度を見直すための検討会を設置すると発表したことは、先日、法務コラムにて紹介した(AIを「営業秘密」として保護強化、経産省が検討会を設...