濫用的会社分割についてのまとめ

1 はじめに

 企業が債務超過に陥った時に会社分割をして再建を図ろうとする場合があります。いわゆる濫用的会社分割です。以下では、濫用的会社分割の問題点や分割会社の債権者の対応策など濫用的会社分割を知る上で役立つホームページをご紹介します。

2 濫用的会社分割とは

 濫用的会社分割とは、債務超過に陥り実質的に倒産状態にある会社が、一部の債権者と協議し、会社分割によって新設した会社(設立会社)に採算部門や優良資産、一部の債務を承継させたうえで、不採算部門や不良資産を残した既存の会社(分割会社)を清算するという会社再建の手法のことを指します。
濫用的会社分割とは(まほろば不動産)

3 濫用的会社分割の問題点

 濫用的会社分割は、優良事業を一部に抱えながら債務超過に陥ってしまった会社から見れば、非常に簡易に事業再生を図ることができる手法といえます。それに対して、会社債権者から見れば、債務超過に陥った会社が、債権者の関与できないところで「会社分割」を行うことで、一方的に当該会社債権の価値を著しく毀損することになります。そして、当該会社債権者は、会社分割について異議申立てができないばかりでなく、事後的に会社分割の効力を争うこともできません(会社法828条1項9号10号、2項9号10号)。
会社分割を利用した実質的な債務の減免(濫用的会社分割)
濫用的会社分割に待った!(近江法律事務所)

4 濫用的会社分割に対しての従来(改正会社法施行前)からの対応策(分割会社の債権者側)

 濫用的会社分割が行われた際、分割会社の会社債権者が行える対応策は以下の5つが考えられます。
(1) 会社法429条1項による取締役への責任追及
 会社分割により、債権者の有する債権の価値が毀損されたとして、取締役に対し、会社法429条1項により責任を追求するものです。

(2) 会社法22条1項類推適用による責任追及
 設立会社・承継会社が分割会社の商号を続用している際には、会社法22条1項を類推適用して、債権者は債務の履行を分割後も請求できるとするものです。

(3) 詐害行為取消権の行使
 分割会社の会社債権者は詐害行為取消権(民法424条1項)を行使することで、濫用的会社分割の効果を取消し、自己の債権を保護を図るものです。
 そして、会社分割に対しては詐害行為取消権の行使を認める裁判例が出ています。(東京地裁平成22年5月27日判決(判例時報2083号148頁))本判例では、詐害行為取消の要件である詐害性、すなわち、「総債権者の共同担保となるべき債務者の一般財産が減少して債権者が満足を得られなくなること」という要件を満たすかが問題となりましたが、本判例では「一般財産の共同担保としての価値が実質的に毀損された」として、詐害性を肯定しました。
『濫用的会社分割と詐害行為取消権について』(三宅法律事務所)
濫用的会社分割と債権者の対抗手段(まほろば不動産)

(4) 法人格否認の法理の適用
 濫用的会社分割が行われた場合に、当該分割が分割会社と設立会社の法人格を同一とみることで、分割会社の会社債権者は、設立会社にも債務の履行を請求するものです。
 そして、福岡地判平成22年1月14日は、分割会社が自らの義務負担を免れようとする不当な意図・目的を認定して、設立会社と分割会社の異なる法人格であることを否認し、会社分割後の設立会社も分割会社の債務の履行を免れないと判断しました。

(5) 債権者申立による会社更生手続の利用
 会社更生手続きとは、再建型の手続であり、裁判所が関与しながら、経営が悪化した企業を破綻・清算させずに、事業を再生させる法的整理手続です。これを利用して会社の再建を図り債権を回収するというものです。

5 濫用的会社分割についての最高裁判例(平成24年10月12日判決)

 当該判例では、会社分割を詐害行為として取消すことができるのかが争点となりました。最高裁は、「新設分割設立株式会社にその債権にかかる債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる」と判断しました。
濫用的会社分割をめぐる問題 〜最判平成24年10月12日を中心として(中本総合法律事務所)

6 改正会社法の新制度

 最高裁判例(平成24年10月12日判決)を受け、平成26年の会社法改正では、残存債権者を保護する規定が設けられました。「残存債権者を害することを知って」会社分割を実施した場合には、残存債権者は、そのような会社分割がなされたことを知ったときから2年以内に、承継会社に対して、「承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。」と定められました(会社法759条4項本文、764条4項)。もっとも、吸収分割の場合には、吸収分割承継会社が、「残存債権者を害すべき事実」について知らなかったことを証明した場合には、かかる請求を免れることになります(会社法759条4項ただし書き)。
 なお、本件新制度は,現行民法424条の詐害行為取消権とほぼ同様の要件で,ほぼ同様の効果(価額賠償)を認めるものです。
濫用的会社分割と残存債権者の保護(ロア・ユナイテッド法律事務所)
改正会社法の濫用的会社分割への対応について(久保井総合法律事務所)
平成26年改正会社法の要点(会社分割における債権者保護規定の新設)(pdf)

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年8ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] chisaka

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略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
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2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
EUにおける知的財産制度・競争法、EUデータ保護規則をはじめとする
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野呂悠登
TMI総合法律事務所 弁護士

東北大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了

平成27年改正個人情報保護法の全面施行前後に、
個人情報保護委員会事務局において、
法令関係とデータの利活用関係を担当

近時の著書等には『個人情報管理ハンドブック[第4版]』(商事法務、2018)、
「AIによる個人情報の取扱いの留意点」(Business Law Journal、2018年6月号)、
「ビッグデータ・個人情報の利活用と先端ビジネス」(Business Law Journal、2018年8月号付録〔LAWYERS GUIDE〕)等がある。

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最近、AI関連技術の発展等により、AIの活用に対する期待が高まっており、ビジネスにおいて実際にAIの活用を始める企業が増えてきています。

AIを活用する場合、従来人間の脳が行っていた知的な作業をコンピュータに行ってもらうことになるため、従来想定されなかった様々な法的問題点が生じることが想定されます。
特に、機械学習を用いたAIを用いる際には、従来とは異なる方法で大量の情報を集積し又は処理を行うため、個人情報保護法やプライバシー権との関係が問題となりやすいと考えられています。

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法務NAVIまとめ 商事法務 会社法
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東京大学法学部卒
1999年弁護士登録(第二東京弁護士会)
カリフォルニア大学デービス校ロースクール修士課程卒(LL.M.)
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著作に「販売店契約の実務」(中央経済社・共著・編集担当)

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