下請法 50年ぶり一部見直し

・はじめに

政府は年内をめどに「下請代金支払遅延等防止法」(以下、「下請法」とする。) の一部を約50年ぶりに見直すとの通達を発する予定です。本企業法務ナビサイトでもたびたび取り扱ってきた下請法の運用は今回の見直しによりどのように変わっていくのでしょうか。
参考サイト

・下請法の概要

下請法とは、簡潔に言えば、経済的に弱い立場の下請事業者(個人も含む)を経済的に強い立場にいる親事業者からの無茶な取引・要求から保護するための法律です。下請法の適用対象となるかは、①取引内容と②事業者(親事業者と下請事業者)の資本規模で決まります。
下請代金支払遅延等防止法 条文
①対象となる取引とは(下請法2条1項から6項)、製造委託(事業者が他の事業者又は個人に物品の製造や加工を依頼する場合等)、修理委託(事業者が他の事業者又は個人に物品の修理行為を依頼する場合等)、情報成果物委託(事業者が他の事業者又は個人にプログラムやデザイン作成を依頼する場合等)、役務提供委託(事業者が他の事業者又は個人に運送やビルの警備を依頼する場合等)です。
対象取引についての詳細と注意点
参考サイト   製造委託・修理委託
        情報成果物委託・役務提供委託 
②対象となる事業者とは、上記①の取引をする一定の資本規模を有する事業者であり、親事業者及び下請事業者共に資本規模の要件があります。詳細は下記の本企業法務ナビの記事を参照して下さい。
下請法について
以上の①②の要件を満たした際に、下請法の適用を受け親事業者は下請事業者が完成させた物品等を理由なく受取り拒否する行為等が禁止されます。また、親事業者は下請業者に依頼するときに発注書を交付する義務等も負いそれに違反した場合に公正取引委員会から勧告や指導等の措置を受けることになります。禁止行為・義務・取締り等の詳細を知りたい方は本企業法務ナビの以前の記事を参照して下さい。
下請法が適用された場合の禁止行為・義務・取締り等の詳細

・見直し内容とその経緯

1.支払いルールの厳格化
下請法が適用されると親事業者が禁止される行為は、買いたたき(下請代金を通常よりも著しく低い額で合意する)・下請代金の支払遅延(下請代金の支払いを先延ばしにする)・下請代金の減額(下請代金を一方的に減額する)等が挙げられます。今回、見直しが通達される予定なのは下請代金の支払遅延に関する部分で、同法で禁止する割引困難な手形(下請法4条2項2号)に関する期間の定義が変更されます。現在、割引困難な手形の期間に関しては繊維業が90日それ以外の業種は120日以内と定められていますが、これを60日に短縮するとの通達を年内に発するとしています。
現在の取扱い
更に下請事業者に対する支払いは、原則として手形ではなく現金とすることを親事業者に要請し、手形の場合でも、割引負担料を発注側である親事業者が負担するよう求めることになります。
2.行動計画策定の要請
併せて親事業者となる企業に、業種別に自主行動計画の策定を要請し、下請事業者が不利益を被らないように取引環境を改め、収益性の向上を後押ししつつ賃上げの環境整備を進めていく方針です。業種別の自主行動計画は、既に世耕弘成経済産業大臣が自動車業界に協力を要請し、これに加え素材系・建設機械・電機情報通信機器・繊維の4業界にも同様の自主行動計画の策定を要請しています。
以上より、変更点の要旨は、下請事業者への支払いルールの厳格化とより健全な親事業者と下請事業者の取引関係構築のための行動計画策定を要請している点です。
3.下請法の現状
そしてこのような見直しは度重なる下請法違反が発生し、それに対して公正取引委員会の指導が行われてきたという背景があるといえます。本企業法務ナビサイトでも下請事業者の窮状を紹介してきました。公正取引委員会の発表によれば、2015年度の下請法違反による指導件数は5980件であり、これは過去最多の指導件数を記録し(2016年6月1日発表)、このような状況に対処するために見直しがなされることになったと考えられるでしょう。
違反件数5980件で過去最多、下請法違反について
下請法違反でファミリーマートに勧告
情報サービス会社がヤマダ電機を提訴、下請法違反について

・おわりに

今回の記事で取り上げた見直しですが、支払いルールの厳格化に関してはあくまでも通達を年内をめどに発する予定であり、企業に対する自主行動計画策定に関しても単なる要請に過ぎないと感じるかもしれません。しかし、今年9月15日に経済産業大臣によって発表された「未来志向型の取引慣行に向けて」によれば、これから下請法の運用がより厳格化していくことが予想されます。企業の法務担当者としてはそのような変化に対応できるように準備しておくべきでしょう。
経済産業省 ニュースリリース
未来志向型取引慣行に向けて(PDF)

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年6日前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] uchiyama

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース コンプライアンス 下請法
第89回MSサロン(名古屋会場)
2017年11月14日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「モノづくり企業のためのIoT法務入門」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース コンプライアンス 下請法
第91回MSサロン(東京会場)
2017年11月22日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
近内京太
2006年の弁護士登録以来、丸の内総合法律事務所にて、企業の法律顧問業務のほか、M&A、株主総会、危機管理、海外取引、企業関係訴訟、その他の企業法務全般を取り扱う。
2003年京都大学法学部、2016年ワシントン大学ロースクール(LLM)卒。2017年ワシントン州司法試験合格。2011年1月~2012年6月預金保険機構、2016年8月~2017年7月米国シアトルのShatz Law Group勤務。
趣味は、ロングトレイルを中心にランニング全般。
[近時の著作]
「自動運転自動車による交通事故の法的責任~米国における議論を踏まえた日本法の枠組みとその評価[上]・[下]」(国際商事法務44巻10号1449頁・11号1609頁) (2016)
American Bar Association, Section of International Law, Regional and Comparative Law: Asia Pacific, 51 The Year In Review 579 (2017)
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「民法(債権法)改正の概要と約款取引について企業のとるべき対応」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース コンプライアンス 下請法
第90回MSサロン(大阪会場)
2017年11月15日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
井関勝守
CPJAPAN綜合特許事務所 所長弁理士

知的財産に関する実務経験約18年。
2001年弁理士登録。

国内企業のみならず、多くの海外企業の案件に関わり、権利化業務に留まらず、知財紛争に関する支援や、産学連携を含む技術移転の支援、知財に関する交渉、契約、知財情報の分析、知財を活用した事業戦略・海外展開に向けた相談業務など多面的な業務を経験する。
また、発明推進協会の模倣被害アドバイザー、中小機構の経営支援アドバイザー、中小企業等外国出願支援事業の審査員(大阪府)、大阪府「ものづくりイノベーションプロジェクト」評価協力員等の公的な業務にも選任され、これまで関わってきた。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「知的財産を含む契約における特有の留意事項~自社事業を円滑に進めるために~」です。
申込・詳細はコチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

【消費者庁】副業勧誘業者に対する注意喚起-副業に潜むリスク... 事案の概要  消費者庁は、先月30日、副業を希望する消費者に、ウェブサイトを利用した副業を勧誘し、多額の開設費用を振り込ませていた事業者名を、消費者安全法38条1項に基づき公表し、注意喚起を行った。  給料の上昇が、なかなか見込めない中で、副業を持ちかけて、消費者を騙すビジネスが横行しているよ...
2ちゃんねる 違法書き込み5000件放置-全体の9割占める... 事案の概要  インターネット掲示板「2ちゃんねる」が、昨年1年間に削除依頼を受けながら放置した違法な情報が5068件に上ることが警察庁の調べでわかった。前年の約2.8倍で、他のサイトも含めたネット上の全ての放置件数の9割を超えている。  警察庁では、ネット上の違法情報を、財団法人インターネット協会...
近隣住民によるマンション建築確認の取消訴訟について... はじめに 世界遺産下鴨神社の隣接地で建設予定の分譲マンションを巡り、近隣住民など8人が京都確認検査機構を相手取り建築確認の取り消しを求める訴えを京都地裁に起こしていることがわかりました。建造物の建築に際して、処分の当事者以外の住民等から起こされる行政訴訟について見ていきます。 事件の概要 ...