自然災害と企業の賠償責任

悲劇

1.はじめに
 2016(平成28)年8月27日から29日にかけて日本に直撃した台風10号は、2016年9月1日現在、温帯低気圧に変わりましたが、各地に爪痕を残しました。この台風によって浸水や死亡等の痛ましい被害が発生しています。
 台風といった自然災害によって、従業員やお客様に被害が生じた場合、企業は何らかの責任を負わなければならないのか、考えてみたいと思います。


2.自然災害と賠償責任の例

(1)外部的な関係ーー消費者、取引相手等に対して
 消費者等その会社の外にいる人々に対して損害賠償責任を負うことがあります。
 ケースに応じて検討してみます。

・会社の看板が台風で飛ばされて通行人にぶつかった。
  民法717条は土地の工作物の設置・保存に瑕疵があった場合に損害賠償請求を認めています。
  看板は工作物に該当します。それでは、「瑕疵」とは何なのかが問題となります。
  「瑕疵」とは一般的にはキズや欠陥のことを言いますが、法律的には「通常有すべき安全性を欠いていたこと」を言います。
  したがって、上記の例では看板の設置について「通常有すべき安全性を欠いていた」かどうかによって結果が変わります。
  例えば、看板のネジがとれていたような場合には、「通常有すべき安全性を欠いていた」といえるので、損害賠償責任を負います。
  他方で、看板の点検はいつもやっていたのに、台風に飛ばされてしまったというような場合には損害賠償責任を負わないと考えられます。
  ただ、法律は冷酷ではないので、今までにないほどの大きな台風だったというような不可抗力の場合にまで責任を負わされることはないと思われます。

民法717条
台風の被害~誰の責任?

・老人ホームを経営していたら、災害時に入居者の避難が遅れ亡くなった。
  老人ホームに入居させ介護をするということは、民法上の賃貸借契約と準委任契約の複合契約です。
  そして老人ホーム経営者には契約上入居者や利用者に対して契約上の介護する義務のほか、信義則上、生命身体健康を害さないようにする義務が生じます。
  この義務を履行していないのですから、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生する場合があります。

複合契約の性質決定と解除の要件

・支払日なので取引先にお金を払おうと思ったら、地震で銀行等が取引業務を行っていなかった。
  どの企業にも契約書において不可抗力事項というものを設けていると思います。おおよその文面は、甲及び乙は、天災や内乱、戦争といった不可抗力による場合、その事由が解決するまでの間、相手方に対し履行遅滞責任を免責する。ただし、代金支払い義務はこの限りではない。
  といったものが多いと思われます。したがって、原則として代金支払いは支払日までに払わなければ、遅延損害金を支払わなければなりません。
  それでは、「ただし、代金支払い義務はこの限りではない。」という文言がなかった場合は、遅延損害金として払わなくて良いのか気になります。
  これについて、民法419条3項によって、「第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。」と定めているので、契約書に文言がなくても、履行遅滞に基づく損害賠償責任を負い、遅延損害金を支払わなければなりません。

民法419条3項
契約書の一般条項

(2)内部的な関係ーー従業員に対して
  企業は従業員等の労働者に対して安全配慮義務があります。
労働契約法5条

  安全配慮義務とは、その名の通り、従業員等の労働者にケガや病気が発生しないようにする義務をいいます。
  例えば、道路工事現場では従業員にヘルメットや安全靴を支給し着用させたり、上司にパワハラを受けて従業員がうつ病になってしまいそうなときは配置転換することが考えられます。
  天災のときも安全配慮義務が問題になります。
  例えば、強すぎる台風の直撃が予測できていたのに労働者を出勤させた結果出勤途中にケガをしてしまった場合、会社と周辺地域一体が停電なのに懐中電灯も貸さずに帰宅をさせた結果、暗闇で転んで骨折した等の場合には安全配慮義務を尽くしていないとして、損害賠償責任を負うと考えられます。

[PDF]損保ジャパン・自然災害の対応と安全配慮義務の関係


3.おわりに

  我が国は災害大国と呼ばれるほど、自然災害に見舞われます。そのような国に住む者として、経済活動をする企業としてどのように対策を立てることができるかが肝要になります。
  企業が損害賠償しなければならない場合とは、相手方に損害が発生したという事実だけではなく、その損害が発生するすることを予見できたときになります。
  損害賠償制度は、制裁ではなくあくまで損害を補うことにその趣旨があるからです。
  ですので、予見することができないほどのあまりにも大きな災害の時には、企業が何かしらの損害賠償責任を負うことはないのかもしれませんが、小規模の台風や地震の時には何らかの損害賠償責任を負うことも十分あり得ます。
  これを踏まえて、企業の法務部としては、消費者や取引相手等の外部的な関係に対しては日頃から施設・設備の安全チェックや支払日の確認を怠らないようにし、記録を残しましょう。
  従業員等の内部的な関係に対しては、安全配慮義務を尽くしたかどうかが大切なので、台風等の天災が予測されるときにはそもそも出社させないか始業時間を遅らせることをおすすめします。
  出社しても帰宅困難だと判断したときは企業としてはオフィスに滞在できるように水や休憩場所を用意して安全な場所を提供できるように社内制度を構築することをおすすめします。

以上

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約2年2ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
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