法務部の役割の重要性と発展性

1  はじめに

 近年、企業での法務部の役割が重要となってきており、 企業内において、法務部門が「重要視されている」(36.9%)あるいは「ある程度重要視されている」(54.9%)と考えている企業は91.8%にもなる(商事法務研究会 法務部門実態調査の調査結果2010年中間報告)。

 法務部とは、企業での法律関係の問題を処理する部門である。例えていうと、企業にとって法律面での「ホームドクター」にあたる役割を果たす業務をする部門であり、会社が紛争に巻き込まれたり、違法なことを行なったりしないように「未然に予防」することを主な業務としている。

 今回は、このような需要の伸びている法務業務の実態と今後の発展可能性について概観する。

2  企業における法務部の仕事

 企業法務の業務内容は、おおよそ次の4つがある。

 (1)契約・取引法務

 法務の仕事で主要なものが、契約・取引法務である。

 社内の各部門が作成する売買契約、業務委託契約、秘密保持契約などの契約に際してその条項に法的な問題がないかを審査する。契約文言が明確か、関係法令に抵触していないか、契約相手との関係で不合理なリスクを負う内容になっていないか、将来紛争の原因になるような点がないか等についてチェックをする。

 (2)組織法務

 株主総会、取締役会など、株式会社の意思決定機関の運営に関する業務や定款の変更の発行、資本金の減少等の会社組織事項の変更に関する業務を行う。最近では、新規事業の開拓で子会社の設立をすることも増えており、その際に子会社の設立手続を会社に則って行なうこと等も組織法務として重要である。

 (3)コンプライアンス法務

 コンプライアンス法務は、契約・取引法務と相互に補完しあう業務であり、個々の取引案件にとらわれることなく、社員が理解し、遵守すべき法律全般について、法務研修を実施したり、日常の業務に関する法律相談を受ける。各部門の業務の特性に合わせて、研修メニューを設定したり、マニュアル等を作成する。

 (4)紛争対応法務

 以上の3つの業務が紛争になる以前の法務業務であるのに対して、紛争対応法務は、起こった問題を事後的に解決していく臨床法務である。自社が原告として他の企業に対して訴訟を提起したり、反対に、提起された訴訟に対して対応をしていく。訴訟となった場合には、弁護士と協力して、証拠の収集、準備書面の作成や証人との調整等を行なう。また、問題が発生してしまった後も、訴訟に発展しないために相手方と交渉して訴訟を回避することも重要な役割である。

3  企業内弁護士について

 企業の弁護士の利用は10年前と異なり、漸次増加している状況である。ヤフー株式会社では17人、株式会社三井住友銀行では16人、株式会社ゆうちょ銀行では15人、野村證券株式会社では14人、KDDI株式会社では9人、ソフトバンクモバイル株式会社では8人と多数の企業において十数人単位の複数の弁護士を雇用している。

 企業外の弁護士の業務の内容が、訴訟の対応や苦情、トラブルなどの紛争解決という紛争発生後の事後的処理や債権の回収・保全、契約書の審査等の会社運営に必須の事務的業務や紛争発生を未然に防止するための法的審査業務であるのに対して、企業内の弁護士は、企画段階から参加し法的リスクだけでなく、ビジネスの内容にもアイデアを出す等企業のビジネスに積極的に関わる点で、企業外の法律事務所の弁護士とは異なった役割を担っている。

4  コメント

 上述の通り法務部の役割の重要性が増している。MS-JAPANによると、同社に寄せられている求人依頼件数は増加傾向であり、2015年上半期(4月~9月)の法務求人数は、2014年対比で約25%アップしている。ちなみに、2013年と比較すると38%アップと約4割という大きな伸びを見せている。法務職の平均年収の点から見ても、2009年における法務部平均年収が521万円であったのに対し、2013年では559万円と4年間で6.5%も伸びている。このような法務部の需要増加により、法務部の担う業務内容も今後広がっていくと思われる。

 また、昨今、新しい技術を使って今までにないビジネスを生み出していこうとする革新的な志をもった会社も存在している。

 そのような新しい分野に切り込んでいく場合には、これまでに似た案件や事例が存在しないため、既存のやり方や法的問題になった場合の裁判所の判断(判例)がない場合もある。 このような場合には、法務部としては、法令遵守(コンプライアンス)を行っていくことが重要であるのはもちろんのこと、企画の内容にも関わって法的リスクを含めながら他部署の人たちと協力して企画を作っていくことが必要となる。

 また、法律がある場合には、法律の解釈の幅を柔軟にとらえる等して、従業員が日々新たな考えを出し、それを実行していけるような方向で法的なサポートをしていくことが必要となると思われる。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年4ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] yoshizaki

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

企業 法改正
《緊急セミナー:名古開催》改正債権法に基づく契約書作成実務
2017年11月24日(金)
14:30 ~ 17:30
15,000円(資料代・消費税を含む)
名古屋市中区栄
講師情報
滝川 宜信
(行政書士滝川ビジネス契約コンサルティング代表〔特定行政書士〕・明治学院大学非常勤講師)
◆中央大学大学院法学研究科博士後期課程中退
◆㈱デンソー法務部課長~部長および名古屋大学大学院法学研究科客員教授、明治学院大学法科大学院教授(会社法・商法担当)、株式会社トーカン顧問を歴任。
・この間、中部経済連合会法規委員会専門委員長、経団連経済法規委員会企画部会委員・消費者部会委員、名古屋工業大学・名城大学法学部・中京大学法学部・南山大学法学部・法科大学院の非常勤講師を歴任。
◆日本私法学会会員、金融法学会会員
◆主な著書
『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『実践企業法務入門(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)、『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)
『内部統制対応版企業コンプライアンス態勢のすべて〔新訂版〕』(共著・きんざい)、『リーディング会社法〔第2版〕』(単著・㈱民事法研究会)、『企業法務戦略』(共著・㈱中央経済社)、『社外取締役のすべて』(共著・東洋経済新聞社)など
改正民法施行は、2020年1月または4月と見込まれていますが、今から契約書の準備をすることが必要です。
本セミナーでは、『取引基本契約書の作成と審査の実務』など契約書の審査と実務シリーズ(民事法研究会・刊)の著者が、企業法務の担当者を対象に、直接、わかり易く丁寧に解説します。
滝川宜信・著『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会・刊)に掲載の請負契約書ひな型・委任契約書ひな型に基づき具体的に条文の変更例を示し解説します。
東京開催(10月)の満員の盛況を受け、このたび名古屋開催を決定しました。
※変更例および主旨は、他の契約にも応用が可能です。
※本セミナーは、本年7月19日に、名古屋・愛知県弁護士会ホールで行った内容をバージョンアップし、3時間で解説するものです。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
企業 法務コラム 法務ニュース コンプライアンス 法改正
第91回MSサロン(東京会場)
2017年11月22日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
近内京太
2006年の弁護士登録以来、丸の内総合法律事務所にて、企業の法律顧問業務のほか、M&A、株主総会、危機管理、海外取引、企業関係訴訟、その他の企業法務全般を取り扱う。
2003年京都大学法学部、2016年ワシントン大学ロースクール(LLM)卒。2017年ワシントン州司法試験合格。2011年1月~2012年6月預金保険機構、2016年8月~2017年7月米国シアトルのShatz Law Group勤務。
趣味は、ロングトレイルを中心にランニング全般。
[近時の著作]
「自動運転自動車による交通事故の法的責任~米国における議論を踏まえた日本法の枠組みとその評価[上]・[下]」(国際商事法務44巻10号1449頁・11号1609頁) (2016)
American Bar Association, Section of International Law, Regional and Comparative Law: Asia Pacific, 51 The Year In Review 579 (2017)
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「民法(債権法)改正の概要と約款取引について企業のとるべき対応」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)

あわせて抑えておきたい関連記事

個室経営のネットカフェ・漫画喫茶はなくなる?... 個室経営のネットカフェ・漫画喫茶はなくなる? ネットカフェや漫画喫茶が定番の存在となったのがいつ頃か自分ではよくわからないが、便利なものとして利用されている方は多いのではないかと思われる。その利点の一つとしてプライバシーが保たれた個室が用意されているということが挙げられるのではないだろうか。た...
最高裁が「有効」判決、残業代差し引く歩合制賃金規則について... はじめに タクシー運転手ら14人がタクシー会社に対し、歩合給から残業代を差し引く賃金規則は労基法に反し無効であるとして未払い賃金の支払を求めていた訴訟の上告審で28日、最高裁は無効ではない旨の判決を言い渡しました。今回はタクシー業界等で採用されている歩合制賃金での割増賃金について見ていきます。...
コンサル元社長ら逮捕、福先物取引で詐欺容疑... 事案の概要 海外先物取引を巡り顧客から多額の投資金をだまし取ったとして、福岡、宮城両県警は14日、福岡市の投資コンサルタント会社、ワールドゲートカンパニー(破産手続き中)の元社長ら9人を詐欺容疑で逮捕した。  両県警は同社が九州や東北、関西の高齢者ら約850人から約42億円を違法に集めたとみて...