居酒屋に偽予約で逮捕、No Showの法的問題について

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はじめに

居酒屋にうその宴会予約をしたとして警視庁は11日、偽計業務妨害の疑いで無職小林恒夫容疑者(59)を逮捕しました。

同じ日に4店舗で同様の予約を入れていたとのことです。
今回は予約がなされたのに客が来ない、いわゆるNo Showの法的問題について見ていきます。

事件の概要

報道などによりますと、小林容疑者は6月26日、東京都千代田区の居酒屋に1人1万3千円で17人分の宴会を同月28日の午後8時から予約する電話をしておりました。

また同日他の4店舗でも同様の電話を入れ、計58人約30万円分の予約をしていたとされます。
その際小林容疑者は同じ自分の電話から「スズキ」との偽名を使用して電話していたとのことです。
これらうその電話により居酒屋側に料理を準備させるなど業務を妨害したとして警視庁は偽計業務妨害罪の容疑で逮捕しました。

刑事責任について

最初から利用する意思がないにも関わらず虚偽の予約電話を入れる行為は偽計業務妨害罪という犯罪に該当する可能性があります。
刑法233条によりますと、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて業務を妨害した場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。

虚偽の風説とは「あの店で食中毒が出たことがある」「あの会社は不渡りを出した」などのうその情報を流すことを言います。
偽計とは人を欺いたり、誘惑、または人の錯誤や不知を利用する行為です。

裁判例では数百回と無言電話をかける行為や海底に障害物を沈めて漁網を破る行為、他人を名乗って虚偽の電話注文をする行為などあらゆる行為が偽計と認められております。

民事責任について

上記のように業務妨害罪には当たらなくても、民事上の責任が発生することは有りえます。

一般的に内容が確定していれば、予約の方法を問わず契約は成立していると言われております。
No Showなど一方的なキャンセルによって店側に損害が生じた場合には債務不履行による損害賠償請求ができると考えられます(民法415条)。
その際の損害としては原材料費や仕込みなどの人件費、食材廃棄費用、逸失利益などが考えられます。
また契約の内容が確定していない場合であっても不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます(民法709条)。

考えられる対応策

経産省の対策レポートによりますと、店舗側の対応策として①予約の再確認(リコンファーム)の徹底や、②顧客がキャンセル連絡をしやすい仕組みの整備、③キャンセル料の明示、④事前決済や預り金の徴収などが挙げられております。

ネットによる予約システムでの確認やキャンセル方法の整備、キャンセルした場合のキャンセル料の明示などは特に重要と思われます。
また大口の予約については事前決済などのシステムを導入することも効果的と考えられます。

コメント

本件で小林容疑者は5つの店舗に対し同時に75人分の予約を入れていた容疑が持たれております。

実際に利用する可能性は無く最初から業務の妨害が目的であったものと思われ悪質であったことから警察による捜索、逮捕にいたったものと考えられます。

以上のように予約の一方的キャンセルやNO Showは刑事的、民事的に責任が生じると言えます。
しかし実際にはこれらの法的責任の追求は簡単ではなく、相手を特定し、訴訟を提起するにはコストも時間もかかります。

また本件のような悪質な場合でなければ刑事責任の追求も難しいと言えます。
経産省の試算ではこういったキャンセルにより年間2000億円の損害が生じているとされます。
上記の対応策などを踏まえ、自社の店舗にあったシステムの構築を検討していくことが重要と言えるでしょう。

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[著者情報] mhayashi

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