【法務担当者インタビュー】法務部門の組織(部門構成、業務分担、課題、効率化策等)について


今回は普段配信している法務ニュースとは趣向を変えて法務担当者のインタビューを配信したいと思います。

法務部の組織という観点から、滝川ビジネス契約コンサルティングの滝川宜信さんにインタビューをさせていただきました。滝川さんは、株式会社デンソーの法務部で部長を務めた一方、名古屋大学大学院法学研究科客員教授も歴任し、行政書士の資格も取得。現在は都内でコンサルティング事業を営みつつ、明治学院大学でも教授として教鞭を執っておられました。

デンソー法務部 最初は6人からスタート

―― もともと、法務部に入られたきっかけは何だったのでしょうか。

もともとは営業部にいたのですが、デンソーには法務部が無かったので、私たちが新たに立ち上げたんです。

―― そうだったのですか!

そのころ、名古屋で世界デザイン博覧会(1989年)が行われまして、私が出向でこのデザイン博に出展することになりまして、しばらくしてデンソーに戻ってきたら、「特許ライセンス部」という部署に配属されたのです。
当時はすでに、社内で法務部を新たにつくる構想が規定路線に乗っていまして、それで私たちが中心になって準備を進め、1991年12月1日に発足しました。

―― 法務部はどのようにしてできたのですか。部門構成についてお聞かせください。

最初のメンバーは6人でした。部長も含めて。私は課長で、その他担当者が4人という構成でした。

―― どういう分野をそれぞれ担当するか、などは決まっていたのですか。

とりあえず「法務部門をつくれ」ということでしたが、あえて言えば、うちはおおむね「国内」と「海外」で分かれていました。でも、細かい担当は5人で分担して回していましたね、最初のうちは。
おおまかには、契約書などを担当する、その他、独占禁止法などを担当する、そういった役割で分かれていましたね。
そのうち、海外部門はアメリカやヨーロッパ、中国など、地域別に分かれるようになりました。

私がデンソーの法務部長を離れる時点では、全体で25人ぐらいになっていました。

他社の法務部を採点する「ベンチマーク」

―― 法務部を立ち上げるにあたって、心がけたことや、他の企業で法務部を立ち上げるときに、心がけてもらいたいことなどがあれば教えてください。

私の場合、法務部立ち上げ時は、無我夢中で取り組んでいましたので、とにかく目の前のことをこなす感覚でした。法務部で大切なことについて落ち着いて考えられるようになったのは、数年経った頃ですね。

法務部は、普段何をどうしているのか、外から見てもよく分からない部署なわけですよ。営業部などでは売上げなど会社への貢献度が具体的な数字で出ますので、わかりやすいのですが、法務部で貢献度を数値化することは難しいんです。

ですから、その法務部がレベルが高いのか低いのかも、客観的には分かりづらいのです。

―― そうですね。法務部のようなバックオフィス部門の宿命かもしれませんね。

私は法務部のレベルを客観的に測定し、外部的に貢献度をアピールできる方策がないか、ずっと課題にして考えていまして、「5カ年計画」のようなものを立てたりもしていました。これが96年11月に出した「長期構想」というものです。

―― 具体的にはどのような計画なのですか。

他の大手他社の法務部のいいところを真似つつも、客観的に点数化していくわけです。あの企業の法務部は、この点において非常に強くて100点だけども、A社は90点だなとか。

―― 点数化できるものなのですか。

そこをあえて客観的に点数化しなければなりません。そこをためらっていると、法務部はいつまでも、営業部のように自部門のレベルや貢献度を数値でアピールすることができず、存在感を示せないのです。

優良企業の強みに学び、他社とも比較検討しながら、どのような点で優れているのかを分析するのです。さらには、どのぐらい優れているのかを測定可能なように定量的な評価をする必要があり、ベンチマーキングを行いました。

そして、このベンチマーキングをもとに、自分たちの法務部は今、何点なのかを出して、この点数を向上させていくためには何をどう改善し、どう取り組むべきかの計画を立てるのです。

―― ということは、法務部の理想の姿というものを思い描いていらっしゃったわけですね。他社に100点を付けられるということは。

100点を出すかどうかは別として、項目別に客観的な評価・比較をして、点数を付ける姿勢が大切です。この要素を満たしていれば5点、といったふうにあらかじめ決めて、加点していく。そのプロセスの中で、他社の法務部が優れていて、われわれの法務部が足りない点が、次々に見えてくるわけです。

そうして出した「長期構想」をもとにして、毎年PDCAをまわしながら、法務部のレベルアップを図ったことはあります。

充実した社内研修は、いい法務部の条件

―― どういう法務部に、いい点を付けるのか、具体的に教えていただくことはできますか。

たとえば、海外業務での法務対応ですと、現地の法律事務所との連携が優れているとか、部署内にLL.M.(法学修士)の学位を持っているスタッフがいるとか、そういった項目立てがありますね。

国内業務でも、1人あたりの業務量でどれほどこなしているか、労働生産性の問題とか、契約書のチェックが速くて正確とか、電話などでの対応がいいとか、業務マニュアルが十分に整備されているとか、社内研修が月に何回開催されているかとか、そういったことを聞き取った覚えがありますね。

―― 社内研修が多ければ多いほど、法務部として優れているわけですか。

たしかに、他社の研修の具体的な内容までは評価できないけれども、研修の頻度、つまり従業員のスキルアップの機会が多いほうが、法務部全体の学びにおいて充実していて、水準が高いといえるでしょうね。

そういえば、デンソー内では、研修を受けるたびに点数をカウントしたりして、部内で競争… 競争というよりも切磋琢磨させたりもしていました。

―― やはり、研修にも積極参加しているスタッフのほうが、必然的に人事評価も上がっていくのでしょうか。

スキルアップに時間を掛ける人材が評価されるべきですね。また、部内向け研修では、法務部員が講師役となって他の法務部員に教えることもさせていました。知識は、だれかに教えることによって体系的に整理されていくからです。

他の企業で法令遵守に関するトラブルが起きたら、法務部の若手にスライドを作らせて「コンプラ講座」をさせることもありました。このように発表の場を設けるほど、自分たちも法律に関する知識や理解が深まっていくわけです。これは重視していました。

また、私は研修に登壇するのが好きなので(笑) 私も頻繁に法務研修の講師を引き受けていました。若い人たちに手本を見せる意味もありました。

外部から講演依頼があっても、正直、私は内部の法務部向けの研修を優先させたい思いがありました。

弁護士よりも、法務部員に聞け!

―― ほかに何か、法務部を充実させたときに心がけていたことはありますか。

これも、ベンチマークの項目のひとつなんですが、トラブルが起きたときに円滑へ上層部と情報を共有できるしくみを整備する、これを心がけていました。

―― トラブルとは、自社の法的トラブルですか。

そうです。私が法務部長だったときには、これは具体的に名前を出すと怒られちゃうんだけれども(笑)法的トラブルが頻発していた企業の法務部と定期的に会合を持つなど、繋がりがありまして、そのときに具体的なトラブル処理の実例を聞き取って自社業務に活かした覚えがあります。

また、デンソーの法務部が恵まれていたのは、困ったときにはトヨタ自動車の法務部にいつでも問い合わせてアドバイスをもらえるという点でしたね。

―― マニュアルも、そういった具体的な対処法から学んで作れるわけですね。

そうなんです。もちろん、弁護士の先生に問い合わせることも出来るんですが、法律の一般論については回答をもらえても、具体的な企業法務については決して的を射る回答を得られないことがあるわけです。

ビジネス現場の実務として、何をどうすべきかは、現場を知っている他社法務部の方に尋ねて、学ぶのが一番です。

一方で、私は幸運にも他社の法務部の立ち上げや顧問として関わらせていただいたこともあります。例えば、たまたまある会社から「うちで、これから法務課を立ち上たばかりなので、アドバイザー、顧問として入ってもらえないか」と個人的に依頼されまして、そこでイチからコンプライアンス体制を整備したことがあります。

―― どのようにして整備するのでしょうか。

まずは「コンプライアンス規定」をつくり、さらにホットライン(内部通報)のしくみの整備、コンプライアンス委員会の設置、こういった取り組みから進めました。

―― コンプライアンス委員会とは、法務部とは別に設置するわけですか。

はい、たとえば法的トラブルなどの報告が上がってきたときに、客観的な立場からチェックする必要がありますので、法務部から独立している必要があります。この会社では専務取締役が委員長を務めていました。もちろん、委員長から社長へスムーズに報告が上がるようにしていました。

―― 委員会に報告をして、何かフィードバックをもらうのでしょうか。

そうです。報告をして承認をもらうとかね。

しかし、最も大切なのは、社長などの上層部にコンプライアンスに関する理解を求め、具体的な行動を起こしてもらわなければ、何も始まらないという点です。いくら、法務部内でしくみを整備したところで、トップがコンプライアンスに無理解であれば、うまくいきませんよ。

社内の不祥事に気づいて、せっかく内部通報していた人がいても、その通報を聞いた窓口の担当者、あるいは通報者本人が突然異動させられたりして、上層部による揉み消しが図られれば何にもなりません。トップの意識が低い企業のコンプライアンスは、絵に描いた餅にしかなりませんよ。

ですから私は顧問として、その企業の社長とお会いして、コンプライアンスに関する説明をさせていただきましたし、取締役会にも定期的に出席し、繰り返しコンプライアンスや法律に関するお話をさせてもらいました。

もっとも、そこは上場会社でしたからね。そもそもコンプライアンス体制が整備されていなければ、株主が黙っていません。ですから、経営陣も意識を高く持たざるをえないでしょうね。

もし、非上場会社なら、「コンプライアンスの徹底を図ることで、働きやすい社内環境が整備され、ひいては会社の発展に繋がる」と、法務部長や私のような外部顧問が上層部を説得する必要が生じるのではないかと考えています。

―― そうでしょうね。上場会社でも、コンプライアンスが単なる形式だけで、株主に対する目くらましにすぎず、実際には不正なことが横行していては何にもなりませんからね。

そうなんですよ。「内部通報した人が馬鹿を見る」、そんなホットラインでは長い目で見て会社のためになりませんので、粘り強く、コンプライアンスの大切さを伝えることが重要です。

契約書のリーガルチェックを効率化させるには?

―― 業務の効率化についてお尋ねしたいのですが、法務部は特に契約書のチェックなど、間違えたり見落としたりしてはいけない部署ですので、効率化と信頼性の両立が課題かと思います。どのようにして、業務効率を保ちながら正確性も確保なさっていたのか、そのあたりのお話も伺いたいです。

デンソーの法務部では、年間で千単位の契約書をチェックしてきましたが、正確にリーガルチェックをする支援システムを導入していました。チェックすべき契約書が法務部へ送られてくるたびに、誰の担当でいつまでに済ませるべきか、上長が適切に振り分けて、納期に遅れた場合は上長に自動的に通知がいくしくみになっていました。

一部の担当者に負荷がかかりすぎているかどうかも、客観的にわかります。リーガルチェックの難度は契約書の通数やページ数だけでは測れないことがありますので。

また、契約書のリーガルチェックは法務部だけの問題ではなく、取引先との信頼関係や営業部の成果にも繋がりますので、会社全体でフォローアップしていく体制作りが重要になると考えています。

―― 本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

まとめ

・立ち上げ時に、人数が少なくても、業務分担を意識しよう
・他の法務部を「採点」しながら、いいところを吸収しよう
・社内研修を充実させよう
・コンプライアンスのしくみは、実質を伴うように整備しよう
・契約書チェックはひとりの責任でなく、組織全体の責任。フォローし合うことで効率化と正確性を両立させよう

 
 
インタビュアー
                長嶺 超輝

1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。
九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。
その後、執筆活動を開始。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書13冊。
法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。

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愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
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略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
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東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻修了

モノリス法律事務所(東京)の代表弁護士としてIT企業の顧問弁護などを行う一方、自らもイースター株式会社の代表取締役を務める。
企業経営者やベンチャー執行役員の経験から企業法務、元ITエンジニアの経験からIT/ネット関連の事件に専門性を持っている。
元ITエンジニア・ライター。

東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、約60社の顧問弁護士等、イースター株式会社の代表取締役、株式会社KPIソリューションズの監査役、株式会社BearTailの最高法務責任者などを務める。JAPAN MENSA会員
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吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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2019年08月27日(火)
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東京都港区
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上田 潤一 荻野 聡之
■上田潤一
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/パートナー弁護士

01年東京大学法学部卒業
04年弁護士登録
12年米国Vanderbilt University卒業(LL.M.)
13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
労働法、社会保険・労働保険・年金に関連する法律、会社法、個人情報保護法等の法分野に関する業務を中心に、労働案件、一般企業法務の案件、紛争案件等を取り扱っている。
著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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