日通元社員が提訴、無期転換ルールに対する企業の対応は

1.はじめに

 大手物流業者日本通運で有期労働契約を締結していた労働者が、無期労働契約への転換を申請できる時期の直前に会社が雇止めを行ったことは不当として、7月31日、横浜地方裁判所川崎支部に訴えを提起しました。2012年に改正された労働契約法は、契約期間5年を超えた有期契約社員に、無期契約への転換を申し込むことができるとしており、これに伴う諸問題は「2018年問題」の一つとして既に議論となっております。この「無期転換ルール」の適用を回避するための雇止めは効力を否定されるおそれがあり、また予定外の契約社員の「無期化」は、会社の人材配置計画や労務管理に混乱を引き起こすおそれがあります。今回は、上記紛争と関連して「無期転換ルール」と雇止めにかかる問題を確認し、企業としていかなる対応をとるべきか考えたいと思います。
 ※参照:「自動車大手が無期雇用転換を回避へ、2018年問題について」

2.「無期転換ルール」と有期契約労働者の雇止め

 労働契約法18条は、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、当該労働者は会社に対して無期労働契約への転換を申し込むことができると規定しております。会社はこの申込みを拒絶することも、転換の申込みをしないとの事前の合意をすることもできません。これが2012年改正によって定められた「無期転換ルール」です。
 会社がこの「無期化」を回避したいと考える場合、有期契約社員が契約期間5年を超える直前に契約の更新を拒絶する、いわゆる雇止めを行う可能性があります。しかしここで問題となるのが、労働契約法19条に規定されているいわゆる「雇止め法理」です。同条項は、有期契約の期間満了時、労働者に契約更新につき合理的な期待がある場合には、使用者の契約更新拒絶は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合でなければ認められないと規定しています。これまで契約が更新されてきた有期契約社員に対し、単に「無期化」の回避を理由して雇止めを行うことは、有期契約社員の契約更新への「合理的な期待」を裏切ることになり、雇止めが無効とされるおそれがあります。この場合、契約は更新されたとみなされ、結果として5年を超えて契約が更新されたとして無期転換がなされる可能性があります。
 企業としては、人員コストの増大を回避し、かつ労使間の紛争発生を防止するために、こうした問題への適切な対応が求められると思われます。

3.企業に求められる対応

 企業としては、上記のような問題が発生することを防止するために、明確なルールと合意に基づく制度運用が求められます。
 有期契約社員の無期化を許容する場合には、対象となる社員の人数や契約更新期間・回数を十分に把握し、社員区分や労働条件等のルールを事前に準備する必要があると思われます。ただし、無期化した社員の取扱いは、必ずしも正社員と同様ということではないことに留意すべきです。
 無期化を予定しない場合には、以下のように有期雇用制度と契約更新ルールに注意すべきであると思います。
①有期契約社員の契約期間制限、更新上限規制を明確かつ厳格に運用すること。
 個別の労働契約書や就業規則には、不更新の定めや更新の上限を明確に示す必要があります。またそれだけでなく、こうした規制が厳格に運用されなければならないと思われます。不更新条項や更新上限の定めがあったとしても、例えば会社の上司が有期契約社員に、契約更新がありうることを期待させるような言動をした場合には、契約更新への合理的期待があったとして更新を拒絶できなくなるおそれがあります。また更新回数が多い有期社員を認めることも同様です。
②契約更新の際のルールを厳格に運用すること。
 更新を行う場合には更新契約書を作成することが求められます。また更新事由がある場合には明確かつ厳格に運用されることが求められます。
③雇止めを行う際には、合理的理由をもって相当な態様で行うこと。
 更新を継続して行った後、能力不足等を理由として雇止めをせざるを得なくなった場合でも、判例や労働契約法に従えば、合理的理由を明確にし、社会通念上相当であることが求められます。単に無期転換ルールの適用を回避する目的は、雇止めの合理的な理由にはならないとされています。また、社会通念上相当な処分の一例として、可能な限り雇止めを回避する努力を行うことが挙げられます。
④定期的な雇用を繰り返す場合には、契約のない一定の空白期間を設けること
 繁忙期等に一時的に有期雇用を行いたい場合には、同一の社員を雇う場合でも、契約のない一定の空白期間を設けることで無期化を避けることができます。労働契約法18条は一定のクーリング期間を設けて、契約と契約の間に一定の契約のない空白期間があれば通算期間をリセットする規定を設けています。ただしこの場合でも、空白期間内に委託や請負の形式で実質的な業務を行わせていたり、もっぱら無期化回避の目的で退職と一定期間後の再雇用の確約を繰り返したりすることは、脱法的な行為として紛争の原因となるおそれがあります。

4.まとめ

 有期契約社員の無期転換ルールは、増加する有期契約労働者の雇用安定化を目的としたものではありますが、企業にとっても事業の安定をもたらしうるものと考えられます。この新しいルールに対応するために必要なことは、まず有期雇用契約の更新ルールを明確化することだと思います。

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[著者情報] toshikawa

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2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー    
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設

弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員 

企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士

主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
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