違法残業監視が強化、三六協定って何?

1 はじめに

 7月から厚生労働省により働き方改革の一環として残業に関する企業の監督体制を強化する動きがあります。
 そこで、本稿では「三六協定」とはそもそも何を指すのか、また今後「三六協定」を締結していない企業としてどのように対応していくべきかについて解説していきます。

2 「三六協定」とは?

(1)「三六協定」の中身
 「三六協定」とは、労働基準法(以下、「労基法」とします。)36条1項に定められている労使協定のことを言います。
 具体的には➀時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由、➁業務の種類、➂労働者の数、➃1日及び1日を超える一定の期間についての延長時間の限度(休日労働の場合は労働させることができる休日)について、労使間で協定を(労働基準法施行規則16条1項 )し、かつ行政官庁に届け出る必要がある(同規則17条1項)とされています(水町勇一郎『労働法』[第4版]282頁参照。以下、『水町・労働法』と表記します。)。

(2)「三六協定」の効果
 労基法36条1項によれば、使用者は、過半数の労働組合か労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、週40時間・1日8時間の法定時間を延長し、又は休日に労働させることができます。
 ただし、当該協定で労働時間の延長を定めるにあたっては、当該協定の内容が同条2項の定める基準( 労働基準法36条1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準 平成10.12.28労働省告示154号、最終改正:平成 21.5.29厚生労働省告示316号)に適合したものとなるようにしなければならないとされています(同条3項)。この基準に適合していない場合には、行政官庁によって助言・指導等が行われる可能性があります(同条4項)。

3 「三六協定」だけでは不十分!?

(1)労働契約上時間外・休日労働を行う義務の設定
 使用者が労働者に具体的に時間外・休日労働を命じるためには労基法上の要件を満たすことに加えて、労働契約上時間外・休日労働を行う義務の設定が要求されます。労基法上の要件の一つに36協定の締結・届出などがあります(『水町・労働法』284頁)。そのため、三六協定を締結するだけでは足りない可能性があります。
 ここで労働契約上時間外・休日労働を行う義務の設定について、学説上、労働者の個別の同意が必要とする個別的同意説や、就業規則等の包括的規定で足りるとする包括的同意説が対立しています。
(2)日立製作所武蔵工場事件判決(最判平成3・11・28民集45・8・1270)
 労働契約上時間外・休日労働を行う義務の設定について日立製作所武蔵工場事件判決が判示しました。
 すなわち、「使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする」と判示し、包括的同意説の立場を採ったとされています。
(3)トーコロ事件(東京高判平9・11・17:最2小判平13・6・22)
トーコロ事件では、電算写植機オペレーターが眼精疲労の状態にあり医師から時間外労働を控えるよう診断されていることは時間外労働命令を拒否することのできるやむをえない理由にあたる趣旨の判示をしています。上記最高裁における 労働契約上時間外・休日労働を行う義務が認められる場合は、例外的にその義務が認められることになるため、通常の場合以上に 労働契約上時間外・休日労働を拒絶し得るやむを得ない理由がないかという点を確認する必要があると見受けられます(『労働法』[第5版]浅倉むつ子他239頁)。

4 コメント

 厚生労働省における平成25年の調査(下記資料参照)によれば、「三六協定」を締結している事業所が全体の55.2%で、約45%もの事業所が「三六協定」を締結していないことになります。
 ここで、「三六協定」を締結していない企業のうち43.0%もの事業所が「時間外労働・休日労働がない」としています。
 しかし、例えば「時間外労働・休日労働がない」と回答する事業所も現実にはサービス残業や持ち帰って業務を行わせてしまっているケースも考えられないでしょうか。このようなケースの場合、上司・部下の間で時間外労働等を行われてしまい人事側でも把握しきれないことが考えられます。
 そのため、冒頭の働き方改革における監督の厳格化の方針をも踏まえると、現在「三六協定」を締結されていない企業においては、社内における残業の実態を把握するように努め、その結果を踏まえた上で三六協定の締結もご検討されてみてはいかがでしょうか。

参考:
第104回労働政策審議会労働条件分科会資料

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] sugimoto

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 労務法務 労働法
《東京開催》GDPR対応の実務 日本企業にとってのFAQと優先順位
2018年11月16日(金)
09:45 ~ 11:45
17,000円(税別)
東京都港区
講師情報
石川 智也
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
EUにおける知的財産制度・競争法、EUデータ保護規則をはじめとする
グローバルベースでのデータ規制についても詳しい。

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
本講演では、多くの日本企業のGDPR対応をサポートしてきた講師が、その過程でよく質問を受ける事項を解説するとともに、
作業の優先順位を明確にして、日本企業がどのようにGDPR対応を行い、今後どのようにGDPRコンプライアンスを維持していくべきかについて解説いたします。

解説に際しては、欧州データ保護評議会(EDPB)が公表・承認しているガイドラインの内容を踏まえることはもちろんのこと、各国の監督当局が公表している情報・オピニオンや、
GDPR施行後の当局の執行状況を含め、現地の最新動向について、お話ししいたします。

また近時、M&Aのデューディリジェンスの過程で買収する会社のGDPRコンプライアンスが問題になることがしばしばありますので、その際のチェックポイントについても触れたいと思います。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 労務法務 労働法
《東京開催》「働き方改革関連法」の施行に向けて企業が準備すべきこと
2018年12月19日(水)
09:45 ~ 12:15
18,000円(税別)
東京都港区
講師情報
高仲幸雄
中山・男澤法律事務所 パートナー 弁護士

早稲田大学法学部卒業

2003年弁護士登録(第一東京弁護士会)、中山慈夫法律事務所(現中山・男澤法律事務所)入所
2009年以降、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師、現在に至る
主な取り扱い分野は、人事労務関係・会社法務・民事全般

著書(いずれも単著):
「人事労務制度使いこなしマニュアル」 中央経済社/「実務家のための労働判例読みこなし術」労務行政/「労使紛争防止の視点からみた人事・労務文書作成ハンドブック」日本法令/「有期労働契約 締結・更新・雇止めの実務と就業規則」日本法令など

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
本年6月に成立した『働き方改革関連法』によって、これから順次、様々な規制の施行日を迎えることになり、企業はその対応に追われることになります。
その中で重要なのは、「労働基準法等の改正による労働時間・休日・年休制度の見直し」と、「非正規社員の待遇改善(同一労働同一賃金)に関する法改正」です。

本講演では、まずは、施行日が迫る労働基準法の改正分野について、【労働時間・休日・年次有給休暇】の制度設計や運用の見直しを中心に、就業規則の見直し方法やアルバイト等のシフト勤務も視野に入れた実務レベルでの労務管理方法を解説します。

次に、「同一労働同一賃金」では、現状では様々な裁判例が相次いで出されており、情報が錯綜している中で優先して改善すべき待遇や手当、非正規社員から待遇差について説明を求められた場合の対応方法などを最新の情報をもとに解説します。

実務担当者はもちろん経営者・人事・労務・総務の各部門で人事制度や賃金制度を検討するにあたって必須の内容を盛り込みます。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 労務法務 労働法
《大阪開催》今さら聞けない英文契約書セミナー(英文契約書の基礎、英文契約書交渉)
2018年12月15日(土)
09:30 ~ 15:15
・(午前)か(午後)のいずれか1つに参加の方:各回12,800円+税(書籍代を含む)※書籍を購入済みで持参の方:各回10,000円+税 ・(午前)と(午後)の両方に参加される方:19,800円+税(書籍代を含む)※書籍を購入済みで持参の方:17,000円+税
大阪府大阪市
講師情報
吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒


編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年),『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年),『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など,著作・論文多数


主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
ニューヨーク州弁護士で、外資系会社VP, General Counselの吉川達夫氏(元Apple Japan 法務本部長、VMware Japan法務本部長、2社合計15年以上)を講師にお招きし、東京において過去数年間にわたり毎年多くの方からご参加を頂いております「今さら聞けない英文契約書セミナー」を、初心者向けの午前の部(基礎編)と午後の部(交渉編)に分けけて初めて大阪にて開催いたします。

基礎編は、英文契約書を読んでみたい方、国際法務にこれから携わる方や弁護士の方、携わっているが改めて基礎を確認されたい方などに、この機会に是非ご参加頂きたい内容になっております(英文契約書の読み方を中心に解説します)。

交渉編は、国際法務の実務を担当されている方、多少の基礎知識はあるが自己流で勉強された方、弁護士の方、発展的な学習をされたい方などにお勧めです。

当日は講師著書の国際ビジネス法務(第2版)(第一法規株式会社/2018年3月発売 /2,800円+税)を教科書として使用します。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 労務法務 労働法
《名古屋開催》自動運転技術に関する法律問題(ITビジネス法務勉強会:第6回)
2018年11月22日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第6回目のテーマは自動運転技術に関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 労務法務 労働法
《12月 東京開催》AIによる英文契約翻訳システム T4OO事例セミナー
2018年12月11日(火)
15:30 ~ 17:00
無料
東京都新宿区
講師情報
大手通信メーカーの国際法務担当者
外資系金融機関、世界的アパレルメーカーの法務部門を経て、創業100年を超える大手通信メーカーの法務部長(現職)の方が講師を務めます。

長年の英文契約、国際交渉等の経験から国際法務に精通しています。
AIによる英文契約翻訳システム T4OOを導入している企業の法務担当者が講師を務め、実際の活用事例をご紹介いたします。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 労務法務 労働法
《11月 東京開催》AIによる英文契約翻訳システム T4OO事例セミナー
2018年11月26日(月)
13:30 ~ 15:00
無料
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
サイネオス・ヘルス合同会社
アジア太平洋地域法務責任者

1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業双方で通算30年以上の企業法務・国際法務の経験を有する現役の企業法務責任者です。
AIによる英文契約翻訳システム T4OOを導入している企業の法務担当者が講師を務め、実際の活用事例をご紹介いたします。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 労務法務 労働法
《東京開催》少人数法務の為の企業法務研究会
2018年11月28日(水)
19:30 ~ 20:30
無料
東京都渋谷区
講師情報
舩山 達
株式会社フルスピード(東証二部上場)
法務・総務部 部長
慶応義塾大学法学部法律学科卒
大阪市立大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了
従業員5人のベンチャー企業に就職。2回の転職を経て現職。
少人数やノウハウの蓄積のないために業務の進め方に不安を持っている法務担当者のための意見交換会です。
今回のテーマは「弁護士の選び方、活用方法」です。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

近時の企業カルテルの様相が語るものとは。... 事案の概要  先月末から、企業カルテルに関する公正取引委員会の審決・告発が相次いでいる。 眠れる官庁と揶揄されていたのも今は昔。近年、公取委はカルテルについても積極的な取締活動を展開している。 1、溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯の製造販売業者による価格カルテル  6月13日、公取委は、A社に対して...
会社法改正で新設された「監査等委員会設置会社」とは?... はじめに 4月25日、日本経済新聞電子版は監査等委員会設置会社に移行する企業が6月末までに累計600社に達する見通しであると報じました。急速に導入されている監査等委員会設置会社について見ていきます。 監査等委員会設置会社とは 昨年5月に施行された改正会社法で新設されたのが監査等委員会設置会...
日本IBM元従業員が業績不良を理由とする解雇は不当として提訴... 事案の概要 日本IBMの元従業員3名が、具体的な理由を示さずに「業績不良」として一方的に解雇したのは不当として、解雇の無効や賃金の支払いを求めて東京地裁に提訴した。 提訴した3名は、40歳から53歳の男性で、営業支援業務等に従事していたが、今年7から9月に上司に突然呼び出され「業績の低い状態が...