役員登記と役員の責任について

はじめに

日経新聞電子版は6日、横浜の老舗菓子メーカー「アルベリ」が7月14日に破産手続開始決定を受けていた旨報じました。破綻の原因は大口受注者1社に依存しすぎたこととガバナンスの欠如にあると分析しております。同社では5年以上にわたり取締役会や株主総会が開催されず、役員の変更登記も放置されていたとのこと。今回は役員登記と役員の責任について見ていきます。

役員の選任解任について

取締役や監査役といった役員の選任および解任は株主総会の決議によって行ないます(会社法329条1項、339条1項)。役員の選任、解任などによって役員等に変更が生じた場合には、その変更の時から2週間以内に本店所在地において変更の登記をしなくてはなりません(915条1項)。しかし役員の員数が法律または定款に定めた数に満たなくなった場合には、退任する役員はなお「役員としての権利義務を有する」とし新たな役員が選任されるまで退任登記はできません(346条1項、最判昭和43年12月24日)。ここでなお役員としての権利義務を有することになる役員は任期満了退任か自ら辞任した場合であり、株主総会で解任されたり、欠格事由が生じた場合は該当しません。そういった場合にまで役員としての職務を行わせることは不適切だからです。この変更登記を怠った場合は100万円以下の過料となります(976条1号)。

退任登記未了の取締役の責任

役員等が職務上、過失などによって第三者に損害を与えた場合は、当該役員は第三者に賠償する責任を負います(429条1項)。ここで既に退任しているが、いまだ退任登記がされていない役員もその責任を負うのかが問題となりました。判例はこの点について、「不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情」がある場合でなければ責任を負わないとしました(最判昭和62年4月16日)。

名目取締役の責任

適法な選任手続きを経て本人も就任承諾をしているが、任務遂行はしなくてもいいとの合意をしている取締役を「名目取締役」と言います。この名目取締役も役員としての上記責任を負うのかが問題となりました。判例は名目的な取締役であっても取締役としての監視義務等を免れるものではないとして責任を認めております(最判昭和55年3月18日)。

登記簿上の取締役

適法に選任されていないにもかかわらず登記簿上取締役として登記されている者を「登記簿上の取締役」と言います。こういった取締役が責任を負うかにつき判例は、その取締役として登記されている者が登記をするにつき承諾を与えていた場合には責任を負うとしています(最判昭和47年6月15日)。会社法908条2項では故意または過失により不実の登記をした者は、不実であることをもって善意の第三者に対抗できないとしています。ここで承諾を与えた者も不実の登記をした者と同様であるとして同条類推適用により責任を免れないとしました。

事実上の取締役

適法な選任手続きもなく、取締役としての登記もされていないが事実上会社の業務執行を行っている者を「事実上の取締役」と言います。このような取締役ではないものの会社の重要事項について決定権を有する実質的経営者も429条1項が類推適用され取締役としての責任を負うとされております(東京地判平成2年9月3日)。

コメント

以上のように取締役でない者、既に退任した取締役が登記簿上取締役となっていたとしても、それは事実とは異なる登記であることから、「明示的な承諾」を与えていたりしない限りその者は原則として責任は負いません。しかしそれは裁判所がそのように判断するというだけであって、登記簿上そのように公示されている以上、第三者としてはその者も役員であると判断して責任追及してくる可能性は十分あります。役員を退任した場合は速やかに登記するべきと言えます。また退任したにもかかわらず会社が登記してくれない場合に、当該元役員は会社に登記手続きするよう求める訴えを提起し、判決による登記を行うことができるとの裁判例もあります。本件で「アルベリ」も5年以上も登記が放置されたとされております。破綻する企業の多くで会社法の不遵守やガバナンスの欠如があると言われております。なお12年間登記がなされていない会社は法務大臣による所定の手続きを経て解散したものとみなされることがあります(472条1項)。会社法等の手続きや登記を怠ると様々な不利益や責任が発生することになります。今一度コンプライアンス・ガバナンス体制を見直すことが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
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吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/米国IT会社法務部Contract Attorney

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
ニューヨーク州弁護士、法科大学院非常勤講師、数々の著書を執筆し、Apple, VMware, WeWork3社の外資系法務部長を経て、現在は米国IT会社法務部のContract Attorneyである吉川達夫氏を講師にお招きし、過去数年間にわたり毎年多くの方から東京ならびに大阪でご参加を頂いております「今さら聞けない英文契約書セミナー」を、 今回新たに午前に初心者向け「基礎から学ぶ英文契約書の読み方」と、午後に中級者向け「今さら聞けない英文契約書作成・交渉」として開催いたします。

午前の「基礎から学ぶ英文契約書の読み方」は、英文契約書を読んでみたい方、国際法務にこれから携わる方や弁護士の方、携わっているが改めて基礎を確認されたい方などご参加ください。
講義は英文契約書の読み方中心とします。
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2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
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法務コラム 法務ニュース 商事法務 会社法
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淵邊 善彦 アーロン・ペイシェンス
■淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

■アーロン・ペイシェンス
シモンズ&シモンズ外国法事務弁護士事務所代表 パートナー 外国法事務弁護士(英国法・ニュージーランド法)

10年以上日本に滞在、日本語が堪能で、TMT、ヘルスケア・ライフサイエンスを含む幅広い分野の、売却、買収、提携など、クロスボーダーM&Aを数多く手がけ、株式譲渡、事業譲渡、株主間契約、業務提携など、販売契約及びIPライセンスに関する契約書作成においても多数の案件実績を有する。
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■上田潤一
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/パートナー弁護士

01年東京大学法学部卒業
04年弁護士登録
12年米国Vanderbilt University卒業(LL.M.)
13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
労働法、社会保険・労働保険・年金に関連する法律、会社法、個人情報保護法等の法分野に関する業務を中心に、労働案件、一般企業法務の案件、紛争案件等を取り扱っている。
著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
働き方改革が進行する近年においても、メンタルヘルスに問題を抱える従業員は、依然として増加傾向にあり、企業においても対応に苦慮する場面が増えています。

メンタルヘルスの問題は長期化するケースも少なくないため、そのようなケースでは、企業は、メンタルヘルスに不調を抱えた従業員に対して、長期間に渡り継続的な対応を行う必要があります。
企業の事後対応も、メンタルヘルスの問題が発覚した時点、休職命令の発令時点、休職期間中、復職時点、労働契約の終了時点における各局面で、それぞれ検討すべき問題が異なります。

また、メンタルヘルスに不調を抱える従業員に対する対応を企業が誤ってしまうと、問題の解決を遅らせるだけではなく、症状の悪化等により問題が深刻化する可能性も否定できません。
そこで、企業としては、メンタルヘルスの問題が発生した場合には、対応を誤らないよう適切に対応することが、問題を長期化、深刻化させないため、特に重要になっています。

本セミナーでは、企業側弁護士としてメンタルヘルス案件の対応経験が豊富な講師が、実務上のノウハウを交えて、企業側で具体的にどのように対応すればよいかの手順を局面ごとに分けて、わかりやすく解説いたします。
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2019年11月26日(火)
19:00 ~ 21:00
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石田 宗弘
三宅坂総合法律事務所 パートナー弁護士

2004年 東京大学法学部卒業
2006年 東京大学法科大学院修了
2007年 弁護士登録

主に、企業の買収・統合・再編(M&A)、ファイナンス、ファンドの組成・運営等、会社法務全般、ガバナンス、不祥事対応、金融規制法、金融コンプライアンス等の業務を取り扱う。
また、自らも社外監査役や外部委員を務める。
セミナー(90分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「企業法務における有事対応と予防」です。
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