JAL解雇無効訴訟に見る、整理解雇要件

はじめに

日本航空(JAL)から整理解雇された40代の元客室乗務員が解雇無効及び、未払い賃金の支払いを求めていた裁判で、3月24日大阪高裁は解雇を無効とした一審判決を覆し、解雇は有効であるとの判決を下しました。今回は整理解雇の要件について見ていきたいと思います。

事件の概要

会社更生法適用のもと経営再建中だったJALは2010年11月、休職や病欠から2010年9月末までに復職していれば整理解雇の対象から外すとの基準を示していました。当時皮膚疾患で2010年5月から休職していた40代の元客室乗務員である本件原告は10月に復職しましたが、整理解雇基準である9月末に復帰していなかったとして2010年末に解雇されました。原告は解雇無効と未払い賃金分の支払いを求めて大阪地裁に提訴しておりました。一審大阪地裁は原告の主張を認め解雇は無効であるとしていました。

整理解雇要件

整理解雇とは、業績が悪化した事業者が経営再建のための人員整理を目的として行う解雇のことを言います。従業員側の落ち度ではなく、事業者側の理由で一方的に行う解雇であることから、整理解雇を行うためには厳格な要件が課されております。整理解雇には人員整理の必要性、解雇回避努力の履行、解雇対象選定の合理性、解雇手続きの相当性の4つの要件を満たすことが必要です。
(1)人員整理の必要性
客観的に高度の経営危機であり、経営再建のために人員整理をする必要性が認められなければなりません。ただちに人員整理しなければ経営破綻が明らかに差し迫っているという場合には当然認められますが、経営が悪化し、このままではいずれ経営危機に瀕すると思われる場合でも認められる傾向にあります。判例によっては企業の合理的経営上やむを得ないと言える場合には広く裁量を認めているものも見られます。

(2)解雇回避努力の履行
整理解雇をする前に、事業者は従業員への影響の少ない他の手段を尽くしたと言えることが必要です。例えば役員報酬の削減、雇用調整助成金の活用、他部門への配転、時間外労働の中止、一次休暇の実施、希望退職者の募集といった他の手段により整理解雇を回避する努力を行うことが求められます。これらを行わずに整理解雇を行った場合には解雇権の濫用として解雇は無効と判断されることになります。判例では割増退職金を提案し、再就職のあっせんを行った事例で回避努力の履行を認めているものもあり、どの程度の経営努力を求めるかは事案によって分かれているようです。

(3)解雇対象選定の合理性
整理解雇の対象選定の基準も合理的なものであることを要し、その基準の具体的な適用についても公平で合理的なもであることが求められます。勤務地、担当業務、年齢、家族構成、会社への貢献といったことを考慮して公平公正に解雇対象を選定しなくてはならないということです。判例では、単に労働条件の切り下げに従わない者は解雇するといった基準は合理性が無く無効としているものや、一方の従業員には他部署に移動できると通知し、他方では解雇の言い渡しのみの通知といった選定は平等性を欠き無効としているものが見られます。

(4)解雇手続きの相当性
整理解雇を行う上で、従業員と十分に協議し、整理解雇の必要性等を十分に説明し納得を得る手順を踏むことが求められます。このような手続きを踏まずに抜き打ち的に行うことは認められません。裁判例でも使用者は解雇の必要性と時期、規模、方法について説明し協議すべき信義則上の義務を負っており、整理解雇が避けられないほど経営危機に陥っていたとしても、そのことをもって義務が免れるものではないとして解雇が無効であるとしているものも見られます。

コメント

本件JALの整理解雇訴訟では、2010年9月末までに復職していない者は整理解雇の対象となるとの基準が上記(3)の整理解雇対象選定基準として認められるかが主な争点となっていました。一審大阪地裁は、基準日をさかのぼって設定したことは合理性を欠くとして無効としました。何月何日までに復職しなければ整理解雇の対象とするというものではなく、既に経過した期日をもって、その日までに復職していなかった者は対象とするというものは従業員にとって酷であり不合理であると判断されたと言えます。しかし二審大阪高裁は一転して基準を有効としました。基準設定には会社の裁量が認められ、裁量を濫用したとは言えないとしています。このように整理解雇についての裁判例は事案によって一定しておらず、要件を厳格に審査した例もあれば、緩やかに判断した例もあります。また厳格に4要件を満たすことが求められるのは主に大会社であり、中小企業ではそこまで厳格には求められていない傾向にあるようです。いずれにしても整理解雇が必要な場合には従業員に対して誠実に協議し理解を求める努力が必要であると言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年4ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《名古屋会場》ITビジネス法務勉強会第4回 アプリ開発における法律問題の基礎
2019年09月11日(水)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第4回目のテーマはアプリ開発における法律問題の基礎 アプリ開発に関わる法律及び契約の解説です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《名古屋会場》国際取引・海外展開の即戦力になるセミナー第4回 国際М&Aの基礎
2019年08月29日(木)
14:00 ~ 17:00
12,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第4回目のセミナー内容は国際М&Aの基礎(国際М&Aの手法及び海外関連会社の管理に関する注意点)です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《東京会場》第117回MSサロン
2019年09月03日(火)
15:30 ~ 18:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
河瀬 季
弁護士
東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻修了

モノリス法律事務所(東京)の代表弁護士としてIT企業の顧問弁護などを行う一方、自らもイースター株式会社の代表取締役を務める。
企業経営者やベンチャー執行役員の経験から企業法務、元ITエンジニアの経験からIT/ネット関連の事件に専門性を持っている。
元ITエンジニア・ライター。

東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、約60社の顧問弁護士等、イースター株式会社の代表取締役、株式会社KPIソリューションズの監査役、株式会社BearTailの最高法務責任者などを務める。JAPAN MENSA会員
「デジタル・タトゥー」執筆、NHK土曜ドラマ「デジタル・タトゥー」原案。
セミナー(90分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「デジタルタトゥー/インターネット誹謗中傷・風評被害事件-事例から学ぶネットでの誹謗中傷等への企業の対応方法」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《大阪会場》今さら聞けない英文契約書(講師著書付き)
2019年08月29日(木)
10:00 ~ 16:00
(午前)か(午後)のいずれか1つに参加の方:各回13,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:各回11,000円+税 (午前)と(午後)の両方に参加される方:22,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:20,000円+税
大阪府大阪市北区
講師情報
吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
ニューヨーク州弁護士、外資系会社VP, General Counselの吉川達夫氏を講師にお招きし、過去数年間にわたり毎年多くの方からご参加を頂いております「今さら聞けない英文契約書セミナー」を、初心者向けの午前の部(基礎編)と、中級者向け午後の部(英文契約書交渉とドラフティング編)として開催いたします。

(基礎編)は、英文契約書を読んでみたい方、国際法務にこれから携わる方や弁護士の方、携わっているが改めて基礎を確認されたい方など、この機会に是非ご参加ください(英文契約書の読み方を中心に解説)。

(交渉編)は、国際法務の実務を担当されている方、多少の基礎知識はあるが自己流で勉強された方や弁護士の方、発展的な学習をされたい方は奮ってご参加ください。

※当日は国際ビジネス法務(第2版)(第一法規株式会社/2018年3月発売 /2,800円+税)を教科書として使用します。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《東京会場》ハラスメントが疑われる事案が発覚した場合の対応策 ~2019年改正法によるパワハラ防止対策の義務化を踏まえて~
2019年08月27日(火)
13:30 ~ 16:30
20,000円(税別)
東京都港区
講師情報
上田 潤一 荻野 聡之
■上田潤一
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/パートナー弁護士

01年東京大学法学部卒業
04年弁護士登録
12年米国Vanderbilt University卒業(LL.M.)
13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
労働法、社会保険・労働保険・年金に関連する法律、会社法、個人情報保護法等の法分野に関する業務を中心に、労働案件、一般企業法務の案件、紛争案件等を取り扱っている。
著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
2019年5月29日、労働施策総合推進法の改正法が成立し、パワハラ防止対策が法制化されました。同法では、パワハラ防止のための雇用管理上の措置義務等に違反し勧告に従わない場合には企業名が公表されるなどのサンクションも定められおり、企業として、ハラスメントの防止対策を適切に講じる必要性も高まっています。

本セミナーでは、企業側弁護士としてハラスメント案件の対応経験が豊富な講師が、2019年の法改正を踏まえ、実務上のノウハウを交えて、企業側で具体的にどのように対応すればよいかの手順を時系列に沿って、わかりやすく解説致します。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《東京会場》スタートアップ企業・ベンチャー企業との間のアライアンス ~大企業がアライアンスを成功させるための契約交渉~
2019年08月28日(水)
13:30 ~ 16:30
20,000円(税別)
東京都港区
講師情報
淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
近年大企業が、スタートアップ企業・ベンチャー企業の技術力や成長力を取り込むため、アライアンス(資本業務提携)を行うケースが増えています。
大企業同士のアライアンスと違って、これらの企業を相手方とする場合には特有の留意点があり、それらを契約書に反映していく必要があります。

本セミナーでは、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』の編著者である講師が、契約書の条項例に基づいて交渉のポイントを解説するとともに、過去の成功事例や失敗事例を参考にして、大企業がこれらの企業とのアライアンスを成功させるための留意点を検討します。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

政府、中小企業の海外展開を支援へ 概要 政府は2日、中小企業の海外展開や経営基盤強化の促進を後押しする中小企業経営力強化支援法案を閣議決定した。 日本政策金融公庫の債務保証や日本貿易保険の支援を拡充するなど、中小企業の海外子会社が現地の金融機関から資金調達しやすいように支援する。また地域金融機関や税理士などを中小企業の経営相談...
米最高裁がGMの訴えを棄却、米連邦倒産法11章とは... はじめに 米最高裁は、米ゼネラル・モーターズ(GM)がエンジン点火スイッチの欠陥を放置していた問題で、米連邦倒産法11章の適用を受けたことにより民事制裁金が免除されるとの主張を24日、棄却していたことがわかりました。日本の民事再生法に当たる米連邦倒産法11章。今回はその概要を見ていきます。 ...
夫婦同姓の不都合な点と選択的夫婦別姓の問題点... 選択的夫婦別姓とは 現行民法は、夫婦が婚姻前に決めた夫又は妻の氏を称することとしている(変更はできない)(民法750 条)。そのため、夫婦の別姓は原則できない。 しかし、選択的夫婦別姓は、夫婦が、婚姻の時に①夫又は妻の氏を称する(同姓)か、②各自の婚姻前の氏を称するかを決めて、夫婦の氏について夫...