音楽教室249団体がJASRACを提訴、著作権法上の争点について

はじめに

音楽教室等から著作権料を徴収することを決定しているJASRACに対し20日、ヤマハ音楽教室等249団体が著作権料の請求権不存在確認を求めて東京地裁に提訴しました。今回はJASRACと音楽教室側との間で問題となっている著作権法上の争点について見ていきます。

事案の概要

音楽著作権協会JASRACは音楽教室が音楽のレッスンの際に使用している楽曲について、年間受講料の2.5%に当たる額を著作権使用料として徴収する方針を決定していました。JASRACはこれ以前にも同様にカラオケ店やBGMを使用する美容室等でも同様に徴収する方針を固め法的措置を講じてきました。この方針に対しヤマハや河合楽器製作所などの音楽教室を運営する大手事業者を中心に249団体が「音楽教室を守る会」を結成し署名活動等の活動を行ってきました。そして今月20日、同会は音楽教室でのレッスンには著作権法の演奏権は及ばず、JASRACに徴収権限は無いとして東京地裁に提訴しました。

演奏権・上演権とは

音楽等、思想や感情を創作的に表現したものは著作物に該当し(著作権法2条1号)制作した時点で自動的に著作権が発生します。そして著作権者は複製権や貸与権、譲渡権、翻訳権などの多くの権利を取得しますが今回問題となっているのは演奏権・上演権です(22条)。22条によりますと「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、または演奏する権利を専有する。」としています。音楽を演奏したり脚本を舞台で上演する行為が該当します。著作権者以外の者がこれらを行う場合には著作権者の許諾が必要となってきます。

演奏権に関する争点

(1)「公衆」
音楽教室を守る会側の主張によりますと、まず音楽教室で行われるレッスンは1対1や講師1名と数名の生徒で行われる少数かつ教育目的のものであることから22条に言う「公衆」に該当しないとしています。著作権法制定当初から教室という閉鎖空間での演奏は公でない使用であるとの扱いがなされてきたとのことです。

(2)「聞かせることを目的として」
音楽著作物においては聞き手に官能的な感動を与えることが目的であるところ、音楽教室のレッスンは講師、生徒のいずれの演奏も演奏の練習が目的であることから22条に言う「聞かせることを目的」としたものに該当しないとしています。

(3)「公正な利用」
教育のための著作物の利用は1条の「文化的所産の公正な利用」に該当する。民間の音楽教室における教育なくして音楽文化の発展は有りえず著作権法の目的にも合致し、この趣旨に反する22条の解釈は許されないとしています。

類似事例の裁判例

本件と類似する事例として「社交ダンス教室事件」(名古屋高裁平成16年3月4日)があります。この事例は社交ダンスの練習のために音楽CDを再生して使用していた社交ダンス教室に対し、JASRACが著作権侵害であるとして訴えたものです。この事例での主な争点は38条1項の「料金を受けない場合」すなわち非営利目的であるかというものでしたが、「公衆」すなわち不特定多数の者を対象としていたかも含まれております。名古屋高裁が支持した地裁の判決では「著作物の種類・性質、利用態様を前提として」「社会通念」から判断するとしています。そして社交ダンスレッスンは楽曲の演奏が不可欠なものであること、受講者は入会金を支払えば誰でも入会でき、チケットを購入すればいつでも受講できることから社会通念上、不特定多数に当たるとしています。

コメント

以上のように、社交ダンス教室でのCD再生では著作権侵害が認められました。JASRAC側もこの裁判例を念頭に法律構成を行っているものと思われます。一方で本件ではダンスの練習のために音楽を流しているわけではなく、音楽そのものの練習の題材として楽曲を使用しているという違いがあること、また原告側が主張するように音楽の練習が音楽文化を発展させる面も少なからず存在することから1条の趣旨目的にも合致すると判断される可能性もあり、単純には上記裁判例のように判断されるとは限りません。今回の件で東京地裁がどのように判断するかは、音楽分野における著作権の取扱に大きな影響を与えるものと思われます。自社の店舗や教室、催しなどで音楽を使用する際には、これらの判例の動向を踏まえて著作権侵害とならないかに注意することが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年4ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 知的財産権 知財ライセンス 著作権法
第104回MSサロン(名古屋会場)
2018年11月07日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「国際取引契約の実務入門~英文契約を取り扱う際に最低限知っておくべきこと~」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 知的財産権 知財ライセンス 著作権法
《東京開催》少人数法務の為の企業法務研究会
2018年10月19日(金)
19:30 ~ 20:30
無料
東京都渋谷区
講師情報
舩山 達
株式会社フルスピード(東証二部上場)
法務・総務部 部長
慶応義塾大学法学部法律学科卒
大阪市立大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了
従業員5人のベンチャー企業に就職。2回の転職を経て現職。
少人数やノウハウの蓄積のないために業務の進め方に不安を持っている法務担当者のための意見交換会です。
今回のテーマは「契約書管理」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 知的財産権 知財ライセンス 著作権法
【名古屋開催】自動運転技術に関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第6回》
2018年11月22日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第6回目のテーマは自動運転技術に関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 知的財産権 知財ライセンス 著作権法
《東京開催》GDPR対応の実務 日本企業にとってのFAQと優先順位
2018年11月16日(金)
09:45 ~ 11:45
17,000円(税別)
東京都港区
講師情報
石川 智也
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
EUにおける知的財産制度・競争法、EUデータ保護規則をはじめとする
グローバルベースでのデータ規制についても詳しい。

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
本講演では、多くの日本企業のGDPR対応をサポートしてきた講師が、その過程でよく質問を受ける事項を解説するとともに、
作業の優先順位を明確にして、日本企業がどのようにGDPR対応を行い、今後どのようにGDPRコンプライアンスを維持していくべきかについて解説いたします。

解説に際しては、欧州データ保護評議会(EDPB)が公表・承認しているガイドラインの内容を踏まえることはもちろんのこと、各国の監督当局が公表している情報・オピニオンや、
GDPR施行後の当局の執行状況を含め、現地の最新動向について、お話ししいたします。

また近時、M&Aのデューディリジェンスの過程で買収する会社のGDPRコンプライアンスが問題になることがしばしばありますので、その際のチェックポイントについても触れたいと思います。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 知的財産権 知財ライセンス 著作権法
《東京開催》企業におけるAI活用と個人情報保護・プライバシーの留意点
2018年11月07日(水)
14:00 ~ 16:30
18,000円(税別)
東京都港区
講師情報
野呂悠登
TMI総合法律事務所 弁護士

東北大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了

平成27年改正個人情報保護法の全面施行前後に、
個人情報保護委員会事務局において、
法令関係とデータの利活用関係を担当

近時の著書等には『個人情報管理ハンドブック[第4版]』(商事法務、2018)、
「AIによる個人情報の取扱いの留意点」(Business Law Journal、2018年6月号)、
「ビッグデータ・個人情報の利活用と先端ビジネス」(Business Law Journal、2018年8月号付録〔LAWYERS GUIDE〕)等がある。

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
最近、AI関連技術の発展等により、AIの活用に対する期待が高まっており、ビジネスにおいて実際にAIの活用を始める企業が増えてきています。

AIを活用する場合、従来人間の脳が行っていた知的な作業をコンピュータに行ってもらうことになるため、従来想定されなかった様々な法的問題点が生じることが想定されます。
特に、機械学習を用いたAIを用いる際には、従来とは異なる方法で大量の情報を集積し又は処理を行うため、個人情報保護法やプライバシー権との関係が問題となりやすいと考えられています。

本セミナーでは、平成27年の個人情報保護法の全面施行前後において、同法を所管する個人情報保護委員会にて法令の担当者を務めた講師により、
AIを活用することを検討している企業の担当者向けに、企業におけるAI活用と個人情報保護・プライバシーの留意点を具体的な事例を基に解説します。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 知的財産権 知財ライセンス 著作権法
《東京開催》海外企業との販売店契約/ディストリビューション契約 -豊富な実例に基づく、各条項の検証-
2018年11月06日(火)
09:30 ~ 11:45
17,000円(税別)
東京都港区
講師情報
豊島 真
小島国際法律事務所
パートナー 日本及びカリフォルニア州弁護士

東京大学法学部卒
1999年弁護士登録(第二東京弁護士会)
カリフォルニア大学デービス校ロースクール修士課程卒(LL.M.)
国内外の販売店契約に関する取扱い案件多数
著作に「販売店契約の実務」(中央経済社・共著・編集担当)

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
販売店契約(ディストリビューション契約)は、サプライヤーの商品を、販売店(ディストリビューター)の販売チャネルを通じて販売するための契約です。
本セミナーではかかる販売店契約を取り扱いますが、その意義・目的は以下のとおりです。

①実際の事例の紹介を多く行います。よく見かける契約書の条項の一言一句の大切さは、実際に問題が起こってから初めて思い知らされることが多いものです。
実際に起こった問題に触れながら、これまで見過ごしていたかもしれない各条項の重要性について見ていきます。

②販売店契約は、企業間取引で最も頻繁に使われる契約の1つであり、英文契約の入門科目として最適と言えます。

これから英文契約について本格的に学びたいという方にも役立ちます。
(参考資料として、英文販売店契約のひな型をお配りします。)
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

建設労働者アスベスト訴訟 原告が全面敗訴... 事案の概要  アスベスト(石綿)による健康被害を受けたのは、国などが危険性を認識しながら必要な措置をとらなかったのが原因として、県内の建設労働者と遺族計87人が、国と建材メーカー44社に対し、計約29億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、横浜地裁(江口とし子裁判長)は25日、国に違法は認められず、メ...
東芝の不正会計問題について 1 事件の概要 総合電機メーカーの東芝は、過去五年間過大に利益を計上し、不正な会計処理を行った。自動車のETCの受注をはじめとしたインフラ事業を中心に548億円の過大計上や、半導体やパソコン事業などでも合わせて1000億円以上の利益がかさ上げされていた。 2 追及されうる責任 (1)刑事...
「オレオ」から考える商標とライセンス契約... ヤマザキナビスコはモンデリーズ・インターナショナル社との商標ライセンス契約が終了することに伴い、平成28年8月31日付けで看板商品である「リッツ」、「オレオ」等の4品目の販売を終了します。それにより、年間売上高の約4割に当たる150億円もの商品を失うことになります。そこで、今一度商標やライセンス契...