音楽教室249団体がJASRACを提訴、著作権法上の争点について
2017/06/21   知財・ライセンス, 著作権法, エンターテイメント

はじめに

音楽教室等から著作権料を徴収することを決定しているJASRACに対し20日、ヤマハ音楽教室等249団体が著作権料の請求権不存在確認を求めて東京地裁に提訴しました。今回はJASRACと音楽教室側との間で問題となっている著作権法上の争点について見ていきます。

事案の概要

音楽著作権協会JASRACは音楽教室が音楽のレッスンの際に使用している楽曲について、年間受講料の2.5%に当たる額を著作権使用料として徴収する方針を決定していました。JASRACはこれ以前にも同様にカラオケ店やBGMを使用する美容室等でも同様に徴収する方針を固め法的措置を講じてきました。この方針に対しヤマハや河合楽器製作所などの音楽教室を運営する大手事業者を中心に249団体が「音楽教室を守る会」を結成し署名活動等の活動を行ってきました。そして今月20日、同会は音楽教室でのレッスンには著作権法の演奏権は及ばず、JASRACに徴収権限は無いとして東京地裁に提訴しました。

演奏権・上演権とは

音楽等、思想や感情を創作的に表現したものは著作物に該当し(著作権法2条1号)制作した時点で自動的に著作権が発生します。そして著作権者は複製権や貸与権、譲渡権、翻訳権などの多くの権利を取得しますが今回問題となっているのは演奏権・上演権です(22条)。22条によりますと「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、または演奏する権利を専有する。」としています。音楽を演奏したり脚本を舞台で上演する行為が該当します。著作権者以外の者がこれらを行う場合には著作権者の許諾が必要となってきます。

演奏権に関する争点

(1)「公衆」
音楽教室を守る会側の主張によりますと、まず音楽教室で行われるレッスンは1対1や講師1名と数名の生徒で行われる少数かつ教育目的のものであることから22条に言う「公衆」に該当しないとしています。著作権法制定当初から教室という閉鎖空間での演奏は公でない使用であるとの扱いがなされてきたとのことです。

(2)「聞かせることを目的として」
音楽著作物においては聞き手に官能的な感動を与えることが目的であるところ、音楽教室のレッスンは講師、生徒のいずれの演奏も演奏の練習が目的であることから22条に言う「聞かせることを目的」としたものに該当しないとしています。

(3)「公正な利用」
教育のための著作物の利用は1条の「文化的所産の公正な利用」に該当する。民間の音楽教室における教育なくして音楽文化の発展は有りえず著作権法の目的にも合致し、この趣旨に反する22条の解釈は許されないとしています。

類似事例の裁判例

本件と類似する事例として「社交ダンス教室事件」(名古屋高裁平成16年3月4日)があります。この事例は社交ダンスの練習のために音楽CDを再生して使用していた社交ダンス教室に対し、JASRACが著作権侵害であるとして訴えたものです。この事例での主な争点は38条1項の「料金を受けない場合」すなわち非営利目的であるかというものでしたが、「公衆」すなわち不特定多数の者を対象としていたかも含まれております。名古屋高裁が支持した地裁の判決では「著作物の種類・性質、利用態様を前提として」「社会通念」から判断するとしています。そして社交ダンスレッスンは楽曲の演奏が不可欠なものであること、受講者は入会金を支払えば誰でも入会でき、チケットを購入すればいつでも受講できることから社会通念上、不特定多数に当たるとしています。

コメント

以上のように、社交ダンス教室でのCD再生では著作権侵害が認められました。JASRAC側もこの裁判例を念頭に法律構成を行っているものと思われます。一方で本件ではダンスの練習のために音楽を流しているわけではなく、音楽そのものの練習の題材として楽曲を使用しているという違いがあること、また原告側が主張するように音楽の練習が音楽文化を発展させる面も少なからず存在することから1条の趣旨目的にも合致すると判断される可能性もあり、単純には上記裁判例のように判断されるとは限りません。今回の件で東京地裁がどのように判断するかは、音楽分野における著作権の取扱に大きな影響を与えるものと思われます。自社の店舗や教室、催しなどで音楽を使用する際には、これらの判例の動向を踏まえて著作権侵害とならないかに注意することが重要と言えるでしょう。

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