ブラック企業名を公表、厚労省の新公表基準

法務担当者が“法務”を語る新しいWEBメディアはコチラ

はじめに

厚労省は19日、棚卸し代行業「エイジス」(千葉市)の複数の事業所で違法な長時間労働をさせていたとして是正勧告を行っている旨公表しました。今回が初適用となる新公表基準とその問題点について見ていきたいと思います。

事件の概要

株式会社「エイジス」はジャスダックに上場している棚卸し代行業者で、従業員数は700人以上、全国50ヶ所に営業拠点を置き昨年度の売上は約180億円にのぼる大手企業です。厚労省によりますと、エイジスは月100時間を超える違法な残業をさせていた営業所が4ヶ所あり、63人の従業員が過重労働を強いられていました。そのうち最長の労働時間であった従業員の時間外労働は月約197時間にのぼっていました。厚労省はこの一年間でこれら4つの営業所に4回行政指導を行っていましたが改善が見られず5月19日企業名の公表に踏み切りました。これを受けエイジスは同日、厚労省より是正勧告を受けた旨、第三者を交えて長時間労働是正に向けたプロジェクトチームを立ち上げた旨発表しました。

これまでの公表基準

従来、企業の違法な長時間労働に対しては、是正勧告を経て、書類送検がなされた場合に限り企業名が公表されていました。労働基準監督官は労働基準法101条に基づき事業場を臨検し、書類の提出を求め、使用者を尋問することができます。それにより労働関係法令に違反する事実が見つかった場合には是正勧告がなされます。これはあくまでも行政指導であることから、それに従うかは任意であり直接の強制力はありません。しかしこれに従わなかった場合、監督官は102条に基づき司法警察官として書類送検を行うことになります。この段階で初めて公表されることになりますが年間是正勧告がなされる件数は約10万件にのぼり、実際に書類送検されるのは1000件程度となっております。つまり全体の99%は送検・公表に至らず是正勧告の実効性は乏しいとされていました。

新公表基準

厚労省は昨年5月ブラック企業名公表の新しい基準を発表しました。それによりますと、①労働基準法違反があり、一ヶ月当たりの残業や休日労働が100時間超えであること②一つの事業所で10人以上の労働者に違法な長時間労働があること③一年間に3ヶ所以上の事業所で違法な長時間労働があること④労働基準監督官から是正勧告を受けた大企業であること、これらの要件に該当する場合に公表されます。新基準における最も重要な変更点は行政指導である是正勧告を受けた時点で公表できるということです。これまでは是正勧告を無視し続け、書類送検にまで至らなければ公表されなかったことからすると公表要件は格段に下がったと言えます。しかし一方でその対象は大企業のみとなっており中小企業は含まれておりません。

コメント

エイジスは4つの営業所で時間外労働が100時間を超える従業員が10人以上あり4回にわたって是正勧告を受けていたことから上記の要件を満たすことになります。昨今、行政上の義務履行の確保手段として「公表」が注目されていることについては以前にも取り上げました。企業にとって数100万円の罰金や数ヶ月の懲役刑を課されるより社会的な評価や信用が低下するほうがダメージが大きく実効性が高いということです。そしてこういった社会的制裁によるダメージは大企業ほど大きいと言えます。厚労省の新公表基準が大企業のみを対象としているのもそういった意味合いがあるものと思われます。しかし違法な長時間労働は大企業に限ったことではなく、むしろコンプライアンス体制が脆弱な中小企業にこそ多いとも考えられ、公表の対象外となった中小企業は安心して労基法違反を行えるということにもなりかねず、長時間労働撲滅という目的からは疑問であると言えます。今回、新基準が発表されて1年が経過し、初めての公表となりましたが、厚労省はこの1年で要件に該当したのが幸いにも1件だけだったとしています。労働問題の専門家等からは「氷山の一角であり違法な長時間労働の企業が1件ということは考えにくい、むしろ実効性が下がったのでは」との声も上がっています。一方で時間外労働が月80時間になれば調査されるようになったので一定の抑止力にはなっているとの声もあります。労働問題の是正に向けて、今後は、こうしたペナルティ制度の充実と並行して、企業にとって改善のインセンティブを与えるような政策も必要となって来るのではないでしょうか。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年9ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

コンプライアンス
《大阪会場》第125回MSサロン(企業法務研究会)「弁護士との付き合い方:顧問弁護士編」
2020年02月25日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
溝上 絢子
大阪教育大学附属高等学校池田校舎卒業
大阪大学法学部卒業
大阪大学大学院法学研究科修士課程修了

2003(平成15)年04月
司法研修所入所(57期)
2004(平成16)年10月
大阪弁護士会に弁護士登録 当事務所入所
2008(平成20)年04月 - 2010(平成22)年9月
大阪大学高等司法研究科(ロースクール)非常勤講師
2011(平成23)年04月 - 2012(平成24)年03月
大阪弁護士会 常議員
2017(平成29)年07月 - 現在
吹田市立男女共同参画センター運営審議会委員
大阪弁護士会 高齢者・障害者総合支援センター運営委員会委員
大阪弁護士会 男女共同参画推進本部委員
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
セミナー部分では法務担当者のための意見交換会を行いたく考えています。
今回のテーマは「弁護士との付き合い方:顧問弁護士編」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
コンプライアンス 労働法
《東京会場》2020年の注目すべき法改正と法務トピック
2020年02月25日(火)
13:30 ~ 16:30
22,000円(税込)
東京都港区
講師情報
淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
2020年は改正民法、改正独禁法、働き方改革関連法など重要な法改正が施行され、個人情報保護法などの改正も予定されています。

本セミナーは、これらの法改正の概要とそれがビジネスにどのような影響を与えるかを具体的に解説します。

重要な法改正の動きを俯瞰的に把握するとともに、各法改正が実務に与えるインパクトを理解することにより、社内においてメリハリがついた対応策を検討したり、社内研修を行ったりするための参考にしていただきたいと思います。

また、今年特に話題になりそうな法務トピックを取り上げ、その最新の状況をご紹介し、自社の法務部門の今後を考えるきっかけとしてもご活用いただける内容になっています。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ