イグニス代表取締役が個人資産で広告、利益相反取引とは

はじめに

 スマホ用アプリの開発を手がけるイグニスは10日、同社の子会社が制作・運営するゲームの宣伝広告を同社の代表取締役である鈴木氏が個人資産で行う旨発表しました。これにより売上が向上した場合、鈴木氏が支出した分を上限として売上の一部を鈴木氏に支払うとのことです。今回は会社法が規制する利益相反取引について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、イグニスは2018年9月期の決算は先行投資などによって赤字となっており、2019年度は黒字化を計画しているもののこれ以上の広告宣伝への投資は難しい状況となっていました。そこで同社代表取締役でCTOの鈴木氏が同社の子会社であるスタジオキングが手がけるスマホ用ゲームの宣伝広告を自費で行う旨申し出たとのことです。広告期間は7月から12月でこれにより売上が向上した場合には、売上の一部を鈴木氏が負担した分を上限として支払うとしています。鈴木氏はイグニスとスタジオキングの代表取締役を兼任しており、今回の取引は形式上、会社法の利益相反に該当することから同社取締役会決議を取ったとされます。

利益相反取引とは

 会社法356条1項2号によりますと、取締役が自己または第三者のために会社と取引しようとするときは会社の承認を受けなければならないとしています。たとえば会社が取締役の所有する不動産を市場よりも高値で買い取るといった場合、会社の負担のもとに取締役が利益を得ているという状況になります。こういった取引を利益相反取引と言います。利益相反取引をする場合には取締役会決議、取締役会非設置会社では株主総会の承認が必要です。取締役は会社で強い権限を有していることから、その地位を利用して会社の財産を私物化したりすることを防止することがその趣旨と言えます。取締役の債務について会社が保証人になるといった場合も同様です(同項3号)。

利益相反取引の具体例

 利益相反取引の具体例としては、会社と取締役の間で行う売買や贈与、債務免除、利息付きの金銭の貸し借りなどが挙げられます。また判例では会社が取締役に手形を振り出す行為も該当するとしています(最判昭和46年10月13日)。そして注意が必要なのが会社同士の取引です。通常は利益相反に該当しませんが、相手会社の代表取締役と自社の取締役が同一である場合は自社の取締役と取引することと同視されます。相手の会社の株式を自社の取締役が100%保有している場合も同様です。相手会社の平取締役が自社の取締役である場合は該当しません。

利益相反取引の効果

 会社の承認を得ていない利益相反取引は会社と取締役との間では無効ですが、善意の第三者との関係では会社は無効を主張できないとされております(最判昭和46年10月13日)。そして利益相反取引により会社に損害が生じた場合は、たとえ承認を得ていたとしても取引をした取締役は会社に賠償責任を負います(423条3項)。またこの場合、承認決議に賛成した取締役も連帯して責任を負いますが無過失であることを立証すれば責任は免れます。なお直接取引を行った取締役本人は無過失を立証しても責任は免れません。

コメント

 本件で鈴木氏はイグニスと同社の子会社であるスタジオキングの代表取締役を兼任しております。同社グループが運営するスマホ用ゲームの宣伝広告を同氏が自費で行い、その支出分を限度として売上の一部を同氏に支払うとしています。正確な取引内容は不明ですが、実質的には両社に負担は無いものの、形式的には両者で利益相反に該当する可能性はあるといえます。このようにグループ会社内で役員を兼任している場合には、それらの会社同士での取引は利益相反となり会社の承認が必要となってくる場合があります。小規模な同族会社ほどこのような例は多いと考えられます。しかし一般的にはこの会社法の規制はあまり知られておらず、実際に紛争となってから問題となることも多いと言われております。自社の取締役や、取締役が代表取締役を兼任する他社と取引する場合には利益相反に当たらないかを慎重に判断していくことが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

企業 法務コラム 法務ニュース 総会対応 会社法
《名古屋会場》国際取引・海外展開の即戦力になるセミナー第4回 国際М&Aの基礎
2019年08月29日(木)
14:00 ~ 17:00
12,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第4回目のセミナー内容は国際М&Aの基礎(国際М&Aの手法及び海外関連会社の管理に関する注意点)です。
申込・詳細はコチラ
企業 法務コラム 法務ニュース 総会対応 会社法
《名古屋会場》国際取引・海外展開の即戦力になるセミナー第3回 国際紛争対応の基礎
2019年07月25日(木)
14:00 ~ 17:00
12,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第3回目のセミナー内容は国際紛争対応の基礎(国際裁判及び国際仲裁)です。
申込・詳細はコチラ
企業 法務コラム 法務ニュース 総会対応 会社法
《名古屋会場》第116回MSサロン 企業法務研究会「法務部門の創り方」
2019年08月08日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史 田代 洋介
■大久保 裕史
略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー

■田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
セミナー部分では法務担当者のための意見交換会を行いたく考えています。
今回のテーマは「法務部門の創り方」です。
申込・詳細はコチラ
企業 法務コラム 法務ニュース 総会対応 会社法
《東京開催》少人数法務の為の企業法務研究会
2019年08月09日(金)
19:30 ~ 21:00
無料
東京都渋谷区
講師情報
舩山 達 野村 亮輔 登島 和弘
■舩山 達
株式会社フルスピード(東証二部上場)
法務・総務部 部長

慶応義塾大学法学部法律学科卒
大阪市立大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了
従業員5人のベンチャー企業に就職。2回の転職を経て現職。

■野村 亮輔
弁護士(東京弁護士会)/株式会社レトリバ非常勤監査役

東京大学法学部卒
労働法/景品表示法を中心とした企業法務を広く取り扱う他、人事労務担当者との勉強会を8年以上主宰。
著書に「景品表示法の理論と実務」(中央経済社)、執筆記事に「基本用語と講習例でわかる!LGBT基礎知識」(月刊ビジネス法務・2017年3月号)等がある。
気さくな人柄とわかりやすさで社内講習/セミナー講師としても好評を博する。

■登島 和弘
サイネオス・ヘルス合同会社
アジア太平洋地域法務責任者

中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
少人数やノウハウの蓄積のないために業務の進め方に不安を持っている法務担当者のための意見交換会です。
今回のテーマは「人事と法務」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
企業 法務コラム 法務ニュース 総会対応 会社法
《東京会場》2020年1月に施行が迫るカリフォルニア州消費者プライバシー法の影響範囲の確定と施行までの実務対応
2019年08月01日(木)
13:30 ~ 16:30
20,000円(税別)
東京都港区
講師情報
石川 智也
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
EUにおける知的財産制度・競争法、EUデータ保護規則をはじめとする
グローバルベースでのデータ規制についても詳しい。

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
カリフォルニア州消費者プライバシー法(CaCPA)は、個人情報の定義と域外適用のスコープが広く、かつ、クラスアクションによる多額の損害賠償リスクを伴うため、多くの日本企業にとってグループレベルでの対応が必須といえます。

本セミナーでは、単に条文の内容を日本語にして伝えるだけではなく、日本企業が経験したGDPR対応・日本の個人情報保護法の下での態勢整備との差も意識しながら、ポイントを押さえる形でCaCPAの内容を説明した上で、今行うべきことと、今後の改正・規則策定を踏まえて行うべきこととを具体的に示し、CaCPAが施行される2020年1月までの具体的な作業手順を示します。
申込・詳細はコチラ
企業 法務コラム 法務ニュース 総会対応 会社法
《大阪会場》今さら聞けない英文契約書(講師著書付き)
2019年08月29日(木)
10:00 ~ 16:00
(午前)か(午後)のいずれか1つに参加の方:各回13,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:各回11,000円+税 (午前)と(午後)の両方に参加される方:22,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:20,000円+税
大阪府大阪市北区
講師情報
吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
ニューヨーク州弁護士、外資系会社VP, General Counselの吉川達夫氏を講師にお招きし、過去数年間にわたり毎年多くの方からご参加を頂いております「今さら聞けない英文契約書セミナー」を、初心者向けの午前の部(基礎編)と、中級者向け午後の部(英文契約書交渉とドラフティング編)として開催いたします。

(基礎編)は、英文契約書を読んでみたい方、国際法務にこれから携わる方や弁護士の方、携わっているが改めて基礎を確認されたい方など、この機会に是非ご参加ください(英文契約書の読み方を中心に解説)。

(交渉編)は、国際法務の実務を担当されている方、多少の基礎知識はあるが自己流で勉強された方や弁護士の方、発展的な学習をされたい方は奮ってご参加ください。

※当日は国際ビジネス法務(第2版)(第一法規株式会社/2018年3月発売 /2,800円+税)を教科書として使用します。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

近隣住民によるマンション建築確認の取消訴訟について... はじめに 世界遺産下鴨神社の隣接地で建設予定の分譲マンションを巡り、近隣住民など8人が京都確認検査機構を相手取り建築確認の取り消しを求める訴えを京都地裁に起こしていることがわかりました。建造物の建築に際して、処分の当事者以外の住民等から起こされる行政訴訟について見ていきます。 事件の概要 ...
裁判例に見るマタハラの違法性について... はじめに 報道によりますと、沖縄労働局では今年1月からの半年間でマタハラに関する相談が24件あり、そのうち16件が非正規雇用者だったとされております。マタハラについては今なお職場での認知度が低く、妊娠を理由に様々な不利益を受けている労働者が多いと言われております。今回はマタハラに関する法規制と...
企業の海外進出加速!!法務の明日は?!... ヤマトの海外進出とその人材戦略 ヤマトホールディングスが、香港やマレーシアなど、約10カ国で宅配便事業の計画を進めている。特に、上海などアジア沿岸部では、日本など外資系企業の進出が続いており、市民の所得も増えて宅配便需要が見込まれると判断したためである。 ヤマトホールディングスでは、上海で...