愛知県警が総会屋警戒本部を設置、会社法の利益供与について

はじめに

 愛知県警は7日、「株主総会特別警戒本部」を設置していたことがわかりました。6月に集中する定時株主総会を前に「総会屋」の取締りを強化することを目的としております。今回は総会屋と会社法の利益供与禁止について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、愛知県内に本社を置く上場企業のうち143社が6月に定時株主総会を開くとされ、5月開催を入れると県内の7割の企業がこの時期に定時総会を開くとのことです。特に6月27日は約30社が予定しております。それを受け愛知県警では捜査員140人体制で会場の警備や総会屋による企業への恐喝といった不法行為を取り締ります。また同様に三重県警でも担当者160人体制で株主総会特別警戒本部が設置されております。

総会屋とは

 総会屋とは株主総会において株主としての権利行使を濫用し、会社から金品の収受や要求を行う者を言います。大声で質問や異議を唱えたり、議事進行を妨害し会社側がこれを防ぐために金銭等を供与するといった例が典型例と言えます。構成員の大部分は暴力団関係者と言われ、最も多かった昭和50年台には8000人を超えていたとされます。その後の商法改正で単位株制度の導入や利益供与禁止の制度が導入され、また企業側も株主の質問に対する一括回答方式を導入するなどして官民をあげた総会屋対策で急速にその数を減らしていったとされます。以下会社法上の利益供与禁止を具体的に見ていきます。

会社法の利益供与禁止

 会社法120条1項によりますと、「株式会社は、何人に対しても、株主の権利…の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない」としています。そして会社が特定の株主に対して無償または著しく少ない対価で財産上の利益を提供したときも利益供与と推定されます(同2項)。利益供与を行った取締役および関与した取締役は連帯してその価額を会社に返還する義務を負います(同4項)。また株主はそれらの役員等に対し株主代表訴訟を提起することもできます(847条1項)。

利益供与に関する罰則

 利益供与に関しては会社法に罰則規定が置かれております(970条)。まず利益供与をした者、利益供与を受けた者、利益供与を第三者にさせた者、または利益供与の要求をした者は3年以下の懲役または300万円以下の罰金となっております(同1項、2項、3項)。利益供与の要求に際して威迫した場合には5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはそれらの併科となります(同4項)。

利益供与に関する裁判例

 利益供与に該当するかが争われた事例として特定の株主から株式を買い取った例があります。この事例で最高裁は会社にとって好ましくない株主が議決権の行使等をすることを回避する目的で行われた供与行為であって利益供与に該当するとしました(最判平成18年4月10日)。また株主に対し会社側の提案に賛同し議決権を行使した場合には500円分のQuoカードを提供するとした事例でも「権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的」によるものとは言えず利益供与と認めました(東京地裁平成19年12月6日)。それに対し従業員持株会会員への奨励金は福利厚生の一環として否定した事例もあります(福井地裁昭和60年3月29日)。

コメント

 会社から株主への利益供与は会社法の規制の強化により相当減少してきたと言われております。現在の規制では利益供与の要求を行っただけで3年以下の懲役、威迫行為が伴った場合には5年以下の懲役とかなり厳しいものとなっております。そのため総会屋自体は激減したと言われております。しかし一方で会社内部での支配権争いなどで株主の賛同を得るために金銭等が提供されるといった場合も同様に利益供与に該当し得るという点にも注意が必要です。利益供与の禁止は会社運営の健全性と会社財産確保といった目的もあるからです。間もなく突入する定時株主総会の季節に備え、総会屋対策だけでなく、どのような行為が違法な利益供与となるのかを予め正確に把握しておくことが重要と言えるでしょう。

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01年東京大学法学部卒業
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13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
労働法、社会保険・労働保険・年金に関連する法律、会社法、個人情報保護法等の法分野に関する業務を中心に、労働案件、一般企業法務の案件、紛争案件等を取り扱っている。
著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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