独占禁止法改正への動きについて

はじめに

 日経新聞電子版は10日、公取委が2019年通常国会提出を視野に再び独禁法改正に向けて動き出している旨報じました。公取は今年1月の通常国会で裁量型課徴金制度を導入する改正案を提出予定でしたが見送っております。今回は現在の独禁法改正に向けた動向について見ていきます。

現行法上の課徴金制度

 現行独禁法上課徴金制度の対象となっているのは私的独占、不当な取引制限、そして不公正な取引方法のうち共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用となっております(7条の2第1項、2項、4項、20条の2~6)。課徴金は罰金とは違い、違法な行為で得た利益を剥奪するという趣旨からその算定方法は売上額にそれぞれの算定率を乗じた数字となります。場合によっては相当高額となり過去の例では200億円を超えるものもあります。また算定方法はかなり画一的で公取委のさじ加減で増減するといったことができない制度となっております。

救済措置

 現行法で認められている救済措置として課徴金減免制度(リニエンシー制度)があります(7条の2第10項~12項)。これは違反している事業者に自主的に違反事実の申告を促し、迅速に全容解明することを目的としています。減免率は一番最初に申告した事業者は全額免除、2番目は50%免除、それ以下は30%となります。公取委が調査を開始した後の場合は、公取委が把握していない事実に関して申告した場合順位に関係なく30%免除となります。この減免制度の他に、来年から導入予定の「確約手続」というものもあります。これについては以前にも取り上げましたが、事業者が自主的に是正計画を策定し公取委が認定した場合には排除措置・課徴金納付命令等の手続を行わないというものです。

裁量型課徴金制度

 現在公取委が導入を目指している裁量型課徴金制度は現行法の硬直的な課徴金制度を見直し、違反事業者の調査協力の度合いなどを加味して柔軟に課徴金額を決定できる制度です。現行課徴金制度は上記のとおり売上に決まった算定率を掛けるだけというシンプルで柔軟性に欠けるものであり、課徴金適用が決まってしまえばいくら協力しても変わらないというものでした。裁量課徴金制度の導入によって事業者に調査協力へのインセンティブを与え、また非協力への抑制につなげる狙いです。欧米での独禁法では広く取り入れられている制度です。

秘匿特権とは

 公取委の目指す独禁法改正案に対し、経団連が求めているのが「秘匿特権」です。これも欧米では取り入れられている制度ですが、企業の法務部と弁護士が独禁法に違反しないか等を相談し、それが文書として残っている場合に公取委の調査時に証拠として採取されることを拒める制度です。具体的には公取委の調査時に事業者側が弁護士との相談内容が記載されている旨主張すると、その文書は封筒に入れられて封印され、公取委の別の部署で審査され、弁護士との相談内容であれば事業者に返還されるというものです。これにより事業者は独禁法違反のおそれがある場合に安心して弁護士とやりとりができることになります。

コメント

 公取委は経団連側が求める秘匿特権の導入に関しては慎重な姿勢を見せてきました。この制度により談合やカルテルの摘発の妨げになるおそれがあるからとされております。特に弁護士とのやり取りが記載された書面に決定的な事実が含まれている場合には捜査に大きな障害となりうるからです。日経新聞によりますと、公取委はこういった書面を即時に差し押さえずに、秘匿扱いを認めるかを判断する専門部署を設ける構想を打ち出し、一つの落とし所として来年に改正案を提出する姿勢とのことです。これが実現した場合、課徴金制度は大きく変わり、企業の独禁法対策も変わってくるものと思われます。今後も独禁法の改正の動きに注視しつつ、独禁法の規制を内部で周知していくことが重要と言えるでしょう。

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2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
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同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
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2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)
2009年弁理士登録
2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向

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専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。
長年の実務経験をもとに、法理論と実務が相まった解りやすい解説は定評がある。
国際取引法学会理事、企業法学会理事、(一社)GBL研究所理事。東京大学商法研究会所属。

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■淵邊 善彦(ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士)

1987年東京大学法学部卒業。
89年弁護士登録。
95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。
00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)。
16年より18年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授。
19年ベンチャーラボ法律事務所開設。
主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『AI・IoT時代の企業法務 』(共著)、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。


■柴野 相雄(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

『IoT・AIビジネスに関するデータ保護と独禁法上の留意点』(Business Law Journal、18年4~6月号)、『[座談会]AIの活用と今後の労務管理上の課題』(労務事情、18年1月合併号)など著書多数。


■白石 和泰(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

98年司法書士試験合格。
03年弁護士登録。
13年ワシントン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
13~14年Dorsey & Whitney LLPおよびBracewell LLPで研修。
14~15年外務省経済局政策課専門員。
第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会委員、情報ネットワーク法学会会員。全銀協オープンAPI推進研究会元メンバー。無人航空従事者試験(ドローン検定)1級。

『AI・ロボットの法律実務Q&A』(勁草書房、19年2月)、『個人情報管理ハンドブック〔第4版〕』(商事法務、18年3月)、「Japan chapter of Getting The Deal Through」(Cybersecurity)(18年1月号)など編著書多数。


■阿部 豊隆(TMI総合法律事務所 パートナー弁理士・カリフォルニア州弁護士)

96年弁理士登録。
国内及び海外における特許出願、ライセンスや特許売買等のトランザクションや侵害訴訟、包括的な知財戦略支援等に従事。電気情報や機械制御等の技術を主に扱う。
97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
翌年、創英の米国オフィスをシリコンバレーに開設。07年米マイクロソフト本社知的財産部に入社。
11年アジア地区特許ディレクター兼日本マイクロソフトの知的財産部長に就任。14年TMI総合法律事務所入所。出版、講演多数。

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レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
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大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
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熊木 明
弁護士・カリフォルニア州弁護士
スキャデン・アープス法律事務所 パートナー弁護士
2000年 東京大学経済学部卒業
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