新潮社に賠償命令、名誉毀損の要件について

はじめに

週刊新潮の新聞などに出した見出し広告で名誉が毀損されたとして、小池都知事が新潮社に賠償を求めていた訴訟で17日、東京地裁は名誉毀損を認め250万円の支払いを命じました。見出しが社会通念上許容できる範囲を逸脱したものであるとのことです。今回は書き方一つで民事上も刑事上も問題となる名誉毀損の要件について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、昨年5月、新潮社は新聞や電車の釣り広告に週刊新潮の広告を掲示しておりました。その広告では「小池都知事は公金1100万円を横領した!」との見出しが記載されていたとのことです。実際の週刊新潮の記事内容は小池氏が特別顧問を努めていた「都民ファーストの会」の当時の代表である野田氏が公金を横領した疑いがあるというもので小池氏についてものもではなかったとされます。広告の見出しは小池都知事の文字の4分の1程度の大きさで「都民ファーストの会」代表という文字も記載されていたとのことです。

名誉毀損とは

人の社会的評価を失墜させる内容を摘示するなどの行為は名誉毀損となることがあります。この名誉毀損行為は一般的に民事上、刑事上双方で問題となります。刑事上の名誉毀損に該当した場合は刑事罰が適用されることになり、民事上の場合は損害賠償などが命じられることとなります。いずれかに該当したからと言って他方にも当然に該当することなるわけではありませんが、双方が認められることもあり得ます。以下要件について見ていきます。

刑事事件としての名誉毀損

(1)公然性
刑法230条1項によりますと、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」としています。「公然」とは不特定多数の者が認識しうる状態を言います。伝えた相手が少数でも、多人数に拡散する可能性があれば公然性は認められます。街頭でビラを配ったり、拡声器で演説することも該当します。

(2)事実の摘示
「事実を摘示」するとは、人の社会的評価を害するような具体的な事実を示すことが必要です。単に「馬鹿」などと罵倒する言葉では具体性はありません。この「事実」は既に公知の事実となっているものでも該当します。さらに知らない人に知らせる可能性があるからです。そしてその「事実」の真偽も問題となりません。

(3)名誉を毀損
「名誉を毀損」するとは人の社会的評価を低下させることを言います。実際に低下したかどうかは問題とならず、低下させうるような事実を公然と摘示した時点で成立することになります。実際に低下したかどうかを判断することは実際上不可能だからです。

(4)特例
一定の場合に名誉毀損的な表現が許されることがあります。①公共の利害に関するものであり、②目的が専ら公益を図ることであり、③真実であることを証明できた場合には罰しないとされております(刑法230条の2)。政治家や公務員の不祥事に関する記事など公共性が高く、公益目的でなされたものは例え名誉毀損の要件に該当しても許されるということです。これは人の名誉と表現の自由を調整した規定ということになります。

民事事件としての名誉毀損

名誉毀損的な行為は民事上は不法行為として扱われます(民法709条)。同条では「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」場合に賠償責任を認めており、名誉毀損は「法律上保護された利益」を侵害することになります。要件は基本的に上記刑事上の要件と同じです。認められた場合は原則金銭賠償となりますが、名誉毀損の場合は別に「名誉を回復するのに適当な処分」を命じることもあります(723条)。たとえば謝罪広告の掲載などがあたります。

コメント

本件で問題となった週刊新潮の広告見出しは「小池都知事は公金1100万円を横領した!」と記載されたものであり、小さく本来の記事内容である「都民ファーストの会代表」の文字が添えられておりました。公金横領は「事実」にあたり、新聞や釣り広告に掲載することは「公然」と「摘示」することに当たります。今回特に問題になった点は本来関係がない小池氏があたかも横領したかのような記載となっていた点です。東京地裁は「体裁上の工夫として社会通念上、認容される範囲を逸脱する」とし名誉毀損を認めました。小池氏が行ったような表現が仮になかった場合には公共の利害に関する事実として違法性が無い記事と認められる可能性もあったと言えますが、今回は誇張が過ぎたものと判断されたものと言えます。以上のように広告見出しを掲載する際にはどのような場合に違法な名誉毀損となるかを把握して慎重に行うことが重要と言えるでしょう。

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[著者情報] mhayashi

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