発表前の新車写真投稿で書類送検、営業秘密と業務妨害について

はじめに

昨年日産自動車がモデルチェンジした新車を発表する前に取引先の元社員がその写真をネットに投稿したとして、神奈川県警が不正競争防止法違反と偽計業務妨害の疑いで書類送検する方針を固めていたことがわかりました。今回は不正競争防止法上の営業秘密と偽計業務妨害罪について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、横浜市にある自動車部品メーカーに勤務してい30代の元社員は昨年8月、仕事で通っていた日産自動車の横須賀市内にある工場で人気の電気自動車「リーフ」の新型を撮影し、ツイッターに投稿したとされます。日産自動車はその翌月にフルモデルチェンジした同車を発表する予定でした。元社員はツイッターに「検査ラインで新型リーフを発見しました」などと書き込み、ネットで拡散したとのことです。これに対し神奈川県警は不正競争防止法違反と偽計業務妨害の容疑で書類送検する方針です。

不正競争防止法による規制

不正競争防止法では、営業秘密を不正に取得し、領得し、不正に使用・開示した場合10年以下の懲役、2000万円以下の罰金またはこれらを併科するとしています(21条1項1号~9号)。そして「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」としています(2条6項)。つまり秘密管理性、有用性、非公知性を満たす場合に営業秘密に該当することになります。

営業秘密

(1)秘密管理性
経産省が発表している秘密管理指針によりますと、秘密管理性が満たされるためには秘密保有企業の秘密管理意思が管理措置によって従業員等に明確に示され、認識可能性が確保されている必要があるとしています。具体的にはマル秘などの表示をしたり、金庫や施錠可能なキャビネットに保管、パスワードによる閲覧制限、関係者以外立入禁止の表示、写真撮影禁止の表示、営業秘密リストに記載するなどの措置が必要ということになります。

(2)有用性
有用性が認められるためには、その情報が客観的にみて、事業活動にとって有用であることが必要とされます。そしてその情報は公序良俗に反するものであってはならないとされております。脱税や反社会的勢力の情報などが該当するとのことです。基本的に秘密管理性、非公知性を満たす場合は有用性も満たされると言われております。

(3)非公知性
非公知性が認められるためには、一般的に知られておらず、又は用意に知ることができないことが必要とされます。合理的な努力の範囲内で入手できる刊行物に記載されていたり、一般的に入手できる状態にあってはならないと言われております。また特許法上の公然性の解釈とは一致せず、特許法上は守秘義務が無い特定の者が知れば公知となりますが、不正競争防止法上は事実上秘密を維持していればなお非公知とされます。

偽計業務妨害罪

「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。」とされております(刑法233条、234条)。偽計とは人を欺罔し、または人の不知、錯誤を利用することを言うとされます。他人の店舗に「本日休業」との張り紙をして客を帰らせたり、嘘の電話注文を行ったりすることが該当します。威力とは人の自由意思を制圧するに足る勢力の使用を言うとされます。判例ではデパートの食堂に蛇を撒き散らしたり、猫の死骸を机に入れる行為が当たるとされます。偽計と威力の区別は判例上明確ではなく手段の公然、非公然性の差しかないとも言われております。

コメント

本件で神奈川県警は、発表前の車の画像は営業秘密に該当し、写真を投稿したことは業務妨害に該当するとして書類送検する方針を固めました。自動車メーカーにとって新型車のデザインは厳重に漏洩が管理されており、事業活動にとって有用と言えます。また未発表であり一般には容易に知ることができないことから営業秘密に該当すると考えられます。また未発表の新車の画像をネットで公開することは偽計に該当すると判断される可能性は十分あると言えます。このように取引先でたまたま発見した新製品の情報を軽い気持ちでネットに掲載してしまうと本件のような違法行為に該当してしまうことがあります。本人だけでなく雇用している企業側にも賠償請求がなされることも考えられます。営業秘密は漏洩しないよう管理することは当然ですが、他社の営業秘密の扱いについても従業員に周知徹底することが重要と言えるでしょう。

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01年東京大学法学部卒業
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13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
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著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
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03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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