談合で課徴金ゼロ、現行法の問題点について

はじめに

東京都発注の防護服を巡る入札談合で独禁法違反に問われていた3社に対し、公取委は課徴金を課さないことが5日わかりました。談合を行った業者と入札業者が違うため規定の適用ができなかったとのことです。今回は独禁法の課徴金制度の問題点について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、東京都は2014年度と2015年度に新型インフルエンザが流行した際に感染症指定医療機関の医療従事者が身につける防護服やマスクを発注しました。入札談合を行ったのは丸紅、新成物産(東京都中央区)、センチュリーメディカル(品川区)、エア・ウォーター・メディエイチ(品川区)の4社で、4社は事前に話し合って落札業者を決め、4社とは別の2業者が落札しました。2業者は4社から入札価格について指示を受けていたものの、談合への参加は行っていなかったとされます。4社は2業者に関連商品を販売するなどして利益を得ていたとのことです。

不当な取引制限

独禁法は不当な取引制限を禁止しております(3条)。不当な取引制限とは「事業者が…他の事業者と共同して…相互にその事業活動を拘束し…一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことをいいます(2条6項)。つまり複数の事業者が「意思の連絡」のもとに互いに協定を守り、価格や数量を制限することで成立します。入札談合も不当な取引制限の一つの形態ですが、入札談合の場合は①基本合意と②個別調整からなり、①の基本合意を行った時点で成立するとされております(東京高裁平成20年9月26日)。基本合意とは、談合業者間で落札予定者をどのように決めるかの基本的取り決めを言います。たとえば希望者が複数の場合は工事場所や受注実績などを考慮して希望者どうしで話し合って決めるといった合意を予めしておくことです。そしてそれに従い実際に受注予定者を決定する行為を個別調整行為と言います。

課徴金の対象

上記不当な取引制限を行った場合、排除措置命令(7条)だけでなく課徴金納付命令が出されることがあります(7条の2)。課徴金制度は昭和52年改正で導入され、その対象は徐々に拡大されていき、現在では不当な取引制限、私的独占に加えて共同の取引拒絶、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用といった不公正な取引方法の一部にも課されることになります。この課徴金には減免制度(リニエンシー)があり、公取委が調査を開始する前に1位で申告した事業者は全額免除され、2位は半額、3位は30%免除となります(7条の2第10項以下)。

課徴金の算定方法と問題点

課徴金の算定は、違反行為に係る商品または役務の売上額に算定率を乗じる方法で行ないます。算定率は違反行為ごとに、また製造業、小売業、卸売業ごとに、さらに大企業か中小企業かで異なります。不当な取引制限の場合は製造業で10%、小売業で3%、卸売業で2%、中小企業の場合はそれぞれ4%、1.2%、1%となります。このように課徴金の算定は画一的なものとなっており、従来から多様化、グローバル化した日本の経済活動に柔軟に対応できないと批判されてきました。また外国企業等で日本国内で売上が生じていない場合には算定できないといった問題や、そもそも事業者の業種で算定率を分けることにも批判の声がありました。また更に行政手続による課徴金制度の合憲性といった課題もあります。

コメント

本件で実際に入札談合を行っていたのは上記丸紅等の4社ですが、実際に入札を行ったのは4社から指示を受けていた2業作で、その2業者が東京都に防護服を納入しました。4社はその2業者に関連商品を販売することによって利益を得ていたとされております。課徴金の算定の基礎となる売上は2業者が東京都に納入した防護服の売上が対象となるはずですが、この2業者は実際には談合行為を行っておらず、いわば丸紅等4社による間接的な談合行為ということになります。こういった場合、現行の規定では課徴金を課すことができない結果となります。なお丸紅は違反行為を自主申告したため、残り3社について排除措置命令を出す方針であるとのことです。上記の課徴金制度の問題点に加えて、また一つ問題点が露呈した形になります。現在公取委は次期通常国会への提出に向けて改正案を作成中です。本件のような間接正犯的類型への対処を含め、課徴金制度が大きく変更される可能性があります。今後の法改正に注視し、対処していくことが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務コラム 法務ニュース コンプライアンス 独占禁止法
『事例で学ぶ 労務問題解決のセオリー講座』~IRACをきちんと回して解決する労務問題~
2018年08月01日(水)
13:30 ~ 16:30
18,000円(税込)
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
サイネオス・ヘルス合同会社
アジア太平洋地域法務責任者

1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業双方で通算30年以上の企業法務・国際法務の経験を有する現役の企業法務責任者です。
当社は、東京にて、企業法務パーソン(企業法務担当者・インハウスローヤー等)のためのビジネススクールを運営しています。
企業法務にまつわる「知識」を学ぶ研修・講座は世の中に数多くありますが、当社が運営するリーガルビジネススクール(LBS)は、
法務担当者としての「思考方法」や「仕事術」を学ぶことに焦点を当てています。

今回は、『事例で学ぶ 労務問題解決のセオリー講座』を開催いたします。

★「休業手当は平均賃金の60%でいいんじゃないの?100%払えって、弁護士名で手紙が来たけど。。。!!」
★「先日入社したAさん。実は逮捕歴があったらしいの。そんなこと、人材紹介業者は何も言ってなかったけど、どうしよう。」
★「裁判所から“債権差押命令”っていうのが来たけど、どうすればいいの?ウチの社員に給料を払っちゃいけないらしんだけど、ホント?」
★「この間辞めた営業部長、ライバル会社で働いているらしいけど、それって問題ないの?」
★「Bさんともう3日連絡が取れていません。電話してもでないし、メールも返信なし。自宅に直接行っても誰もでない。どうすればいい?」

なくなってほしいけれど、そう簡単になくならないのが労務問題。企業が人の集団である以上、労務問題から解放されることはおそらくないでしょう。
そうであるならば、法務担当者や人事担当者は、勘や経験のみに頼ることなく、こうした問題への適切なアプローチを理論として学ぶことがとても重要だと考えます。

本講座では、人事部長も務めたことのある現役の企業法務責任者が講師として、上述の事例をベースに、IRAC* (*Issue, Rule, Application and Conclusion)の手法を用いて、
企業における労務問題への適切なアプローチ ー解決に向けて踏むべきステップー を解説し、またこうした問題への予防策にも言及してまいります。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース コンプライアンス 独占禁止法
第101回MSサロン(名古屋会場)
2018年08月02日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「取引基本契約書 ~ その作成・交渉の実務及び民法改正に対応する場合の留意点」です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース コンプライアンス 独占禁止法
【名古屋】共同開発契約/ライセンス契約《法務担当者のための英文契約セミナー:第6回》
2018年07月25日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第6回目のセミナー内容は共同開発契約/ライセンス契約です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース コンプライアンス 独占禁止法
【名古屋】ジョイントベンチャー契約/株主間契約《法務担当者のための英文契約セミナー:第7回》
2018年08月08日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第7回目のセミナー内容はジョイントベンチャー契約/株主間契約です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース コンプライアンス 独占禁止法
【名古屋】AIに関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第3回》
2018年08月09日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第3回目のテーマはAIに関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

経営トップの健康状態も法的リスク!? 米電子機器大手アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏が5日死去した。56歳だった。同氏は、2000年にアップルの最高経営責任者(CEO)に就任した後は、2001年発売の斬新なデザインのパソコン「iMac」、07年発売のスマートフォン「iPhone」、10年に発売したタブレット端末「iPad」を大...
事例から考える、フランチャイズ・システムと優越的地位の濫用該当の可能性... 1 はじめに  本記事では、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当する場面について、近年のフランチャイズ・システムに関する大手コンビニチェーン店の事例を中心に見ていこうと思います。 2 フランチャイズ・システムとは  フランチャイズ・システムとは、一般的には、本部(フランチャイザー)が加盟者...
米アップルが中国でiPhone5発売も、シェア拡大には中国移動との提携不可欠... 概要 米アップルの新型スマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)5」が14日、中国で発売になる。 中国のスマホ市場は今年、米国を抜いて世界最大になるとみられているが、アップルのシェアは低下している。アップルは現在、iPhoneを直営店7店・再販業者、中国連合通信(チャイナ・ユ...