6月から酒類安売り規制強化、改正酒税法について

はじめに

日経新聞電子版は6月1日から施行される改正酒税法と酒類業組合法によってビール類の店頭価格が軒並み値上がりしている旨報じました。酒類については安売り規制の強化で独禁法の不当廉売よりも厳しい規制のもとに置かれることになります。今回は改正法のポイントと独禁法との違いを見ていきます。

事案の概要

日経新聞によりますとこれまでスーパーで1000円以下で販売もされていたビールの6缶パックが1200円程度にまで上がる可能性があるとのことです。ビールや発泡酒はスーパーでの集客の目玉商品として日常的に安売りがなされてきました。その背景にはメーカーがスーパーや量販店に支払うリベートがありました。メーカーにとっては少しでも多くのビール類を販売してもらい、またスーパーもそれによって安売りが可能となり集客に利用できていたということです。各メーカーでは今年6月1日からの改正法の施行に先立ってリベート支払の削減に乗り出していました。改正法では原価を割る販売がなされた場合、国税庁は行政指導が行えるようになり、最悪酒販免許の取消等につながるようになります。不当な安売りに対してはこれまでも独禁法による規制がなされてきましたが、改正酒税法のそれは独禁法よりも厳格なものとなっております。

改正のポイント

昨年6月3日に公布された改正酒税法と改正酒類業組合法のポイントは大きく分けて酒類の公正な取引基準の策定と酒類販売管理研修の義務化が挙げられます。具体的にはまず①財務大臣による「公正な取引の基準」の策定・公示、②基準を遵守しない業者への行政指導と行政処分、③国税庁による質問検査権の拡充、④公正取引委員会との連携強化となっております。以下それぞれについて見ていきます。

(1)公正な取引の基準
公正な取引の基準とは次の通りです。酒類業者は「正当な理由」なく、酒類を総販売原価を下回る価格で「継続して販売する」取引であって、かつ自己又は他の酒類業者の酒類事業に相当程度の影響を及ぼすおそれがある取引を行ってはならない。総販売原価とは現行法では仕入れ値に運送費を含めたものとなっておりますが、6月1日からはそれに人件費等を加えたものとなります。メーカーからのリベートが削減されればその分仕入れ値が増加することになります。

(2)正当な理由
ここに言う正当な理由とは、国税庁の指針によりますと、季節限定商品でその期間が過ぎたものや、ラベルに汚損がある等の理由で通常の価格で販売することが困難であると認められる場合を言うとしています。期間限定商品の在庫処分や見切り品としての処分、また傷物や半端物といった訳あり商品の処分などは原価割れしていても問題はないということです。

(3)継続して販売
継続して販売するとは、相当期間に渡って繰り返して販売することをいい、例えば、毎週、毎月、週末や特定の日等に限って銘柄等を買えて販売する場合であってもこれに該当するとしています。回数、頻度が低くても繰り返し行えば基準に抵触するということです。1回限りであれば該当しないと言えます。

独禁法との比較

独禁法の不当廉売(2条9項3号)では「供給に要する費用を著しく下回る対価」で継続して供給した場合に該当することになります。具体的には商品を供給しなければ発生しない費用、すなわち「可変的性質を持つ費用」を言います。この可変的性質を持つ費用とは、人件費や不動産の地代といった常に生じる固定費とは違い、製品を供給しなければ発生せず、また供給量に比例して増えるものをいいます。つまり製造原価や仕入れ原価、運送費は該当することになります。人件費等も含める酒税法に比較すると要件は緩やかと言えます。

コメント

酒税は国の税収上重要な位置を占めていることから酒類の公正な取引を図り、適切な税収を確保することが今回の法改正の趣旨となっております。そして一般的にはその販売に要する費用に利潤を加えたものが適正な販売価格であるとしています。その観点から人件費も含めた総販売原価を下回る販売は不当とされるようになりました。しかしビール類を集客材料と割り切って利潤を削ってきた小売店からは厳しすぎる規制との声が上がっております。また人件費を店全体で管理していることから、酒類だけを抜き出して人件費を計算することは困難であり価格設定ができないとの声も上がっております。施行後はスーパーや小売店は、これまでの独禁法や景表法、不正競争防止法に加えて、酒税法上の価格設定にまで注意を要することになります。どの範囲までがどの法律に触れるのかを正確に把握し周知することが重要と言えるでしょう。

 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務コラム 法務ニュース コンプライアンス 不正競争防止法 景品表示法 独占禁止法
【国際法務入門】M&A 合弁会社設立
2017年07月19日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、
を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業両方での国際法務経験が有り、両者の観点から国際法務
について指導を行います。
国際法務入門者向けの契約法務習得セミナーになります。
当日は、下記の流れで、こちらで用意したビジネスシチュエーションを題材に、
国際法務経験豊富な講師との双方向でのコミュニケーションを行い、
ときに、少人数のグループでのディスカッションを織り交ぜながら、
参加者が思考しアウトプットするプログラムとなっております。

売買契約・共同開発契約の審査や作成に必要な「知識」を習得するのはもちろんのこと、
一方的に話を聞くセミナーとは異なり、各契約を検討する上での「思考法・仕事術」などの
実践的な能力を習得出来るのが特徴です。

【講師からケースの説明】→【グループディスカッション】→【各グループの発表】→【講師レビュー】

★「体験講座」(2月15日開催)の参加者の声★
・書籍等では実務に近い情報が無い為、講座で具体的なケースを想定し仕事の進め方を理解出来てる内容がとてもよかったです。
・少人数で法務業務を担当している為、自分自身の経験、知識、感覚で仕事をしてしまう事が多く、
法務業務をする上で大事な思考のフレームワークを学べて良かったです。
・講義内容はもちろんですが、他社の法務担当の意見を聞く事が出来て、とても参考になりました。

★今回のテーマ★
「M&A 合弁会社設立」
日本の製薬企業が豊富なノウハウと経験を有する自社のIT部門を独立させ、自社を含む他の製薬企業向けに幅広くITサービスを提供できる企業を設立しようとするとき、同社にメインフレームを提供している米国のコンピュータ会社の協力を仰ごうとするケースを題材に、企業間における事業協力の形態を検討します。
※ こちらで事前課題を用意し、受講前にケース理解を深めていただきます。
※ 本講座は「リーガルビジネススクール 国際法務担当者育成コース(全六回)」の第五回講座を兼ねております。そのため、そちらの申込者と一緒に本講座を受講いただく形となります。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務コラム 法務ニュース コンプライアンス 不正競争防止法 景品表示法 独占禁止法
第85回MSサロン(東京会場)
2017年07月26日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
大東泰雄
のぞみ総合法律事務所 弁護士

平成13年慶應義塾大学法学部卒業,平成24年一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。
平成14年弁護士登録。
平成21年4月から平成24年3月まで,公取委審査局審査専門官(主査)として,独占禁止法違反被疑事件の審査・審判実務に従事。

公取委勤務経験を活かし,独禁法違反事件対応(リニエンシー申請,社内調査,公取委対応,審判等),企業結合審査対応,独禁法関係民事訴訟,下請法,景品表示法等に関する業務を主軸とし,その他企業法務全般を扱っている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「下請法運用強化と対応のポイント」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)

あわせて抑えておきたい関連記事

企業における実質的な奨学金肩代わり制度と法的リスクについて... 1、奨学金返済の肩代わりによる人材確保  奨学金の返済を肩代わりして人材確保につなげる企業や自治体が増えています。 低価格めがねチェーンのオンデーズも社員の奨学金返還を実質的に肩代わりする制度を導入していると12月19日付日本経済新聞電子版が報じました。  奨学金を借りる学生の実情とオンデーズ...
ANAなど航空会社が価格カルテルで提訴される... 事案の概要 国営ドイツ鉄道は8月19日に、航空会社の価格カルテルによって同社の貨物輸送事業が打撃を受けたとして、全日本空輸(ANA)など複数の企業に対してアメリカで訴訟を提起したことを明らかにした。 航空会社の価格カルテルは7年前に発覚した。欧州連合(EU)では合計8億ユーロ、アメリカでは計1...
西武大久保前コーチ解雇問題(2) 不当解雇で仮処分申立て... 西武ライオンズの大久保博元前2軍打撃コーチは、解雇が不当なものであるとして、11日に東京地裁に対し地位保全の申し立てを行った。球団側は、選手に対する暴力行為など不適切な行為があったことを理由に大久保氏を解雇したが、大久保氏側は不適切な行為はないと主張しており、両者の主張は真っ向から食い違っている。 ...