長時間労働との関連は?定額残業代制度とは

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はじめに

毎日新聞は28日付で定額残業代制度が過労死の原因となる長時間労働の温床になっている可能性がある旨報じております。現在多くの企業で取り入れられている定額残業代制度。今回はその概要と要件等について概観したいと思います。

労基法上の時間外労働規制

労働基準法32条では労働時間は1日に8時間、週に40時間が限度とされており、それを超える時間外労働を行わせるためには会社が労働組合と協定を締結し労基署に届ける必要があります(いわゆる三六協定、36条)。そして時間外労働の場合は通常の賃金の25%~50%、時間外労働時間が月60時間を超えた場合には50%以上の割増賃金を支給する必要があります(37条)。さらに午後10時以降となると深夜労働としての割増分25%が追加されることになります。残業代は時間単位で計算されますが、15分や30分といった1時間未満の残業分は1ヶ月分で合計して計算することになります。その場合には30分未満の端数は切り捨てることができますが、日々の端数分を切り捨てることはできません。

定額残業代制度とは

以上のように残業代は毎月残業時間数に応じて支払われますが、毎月の残業代を一定額に固定することも可能です。これを定額残業代制度と言います。労働基準法等の労働関連法に規定はありません。この制度を導入することにより、月ごとに残業時間を集計して個別に残業代を計算する必要がなくなります。また月の残業時間を一定の時間に定めることによってできるだけ労働時間をこの範囲に収めようとする意識が働き、長時間労働を抑制する効果も期待できます。定額残業代制度を導入することによって月の残業代を固定することができますが、これは規定残業時間を超えた分は残業代を支払わなくてもよいというものではありません。超過部分については別途支払う必要があり、支払わない場合は違法となります。実際に定額残業代を採用した労働契約が無効とされた判例が多数出ております。

定額残業代制度の要件
(1)明確な賃金区分
近年定額残業代が違法とされた裁判例が増えております。これらの裁判例から見た定額残業代が適法とされるための要件としてまず明確な賃金区分が挙げられます。就業規則や労働契約書によって固定残業代が支払われる旨、そして月の給与の内の基本給部分と残業代部分の額が明示されていることが必要です。

(2)残業時間の明示
次に規定された固定残業代が何時間分の残業に相当するかを明示する必要があります。たとえば「基本給のうち6万円は50時間分の残業代とする」といったように固定残業代とそれに対する時間を具体的に明示しなければなりません。ここで営業手当や職能手当といった名称を使っていた場合は実質的に固定残業代に該当するかが判断されることになります。実際に一定の残業時間に対する賃金として支払われている必要があります。

(3)超過分の支払い
固定残業代とそれに対応する残業時間を定めていても、実際にはそれを超える残業を行っていた場合には、その超過部分については別途残業代を支払う必要があります。残業時間を超過した場合はその分も別途支払う旨の合意がなされていなければなりません。この合意が無く、残業時間も大幅に超過しており、その分の残業代が支払われていない場合は労基法違反が強く疑われることになります。

コメント

定額残業代に関しては平成24年3月8日の最高裁判決補足意見があります。それによると、労基法上残業代の不払いに対しては6ヶ月以下の懲役、30万円以下の罰金とされており(119条1号)支払ったか否かは罰則の要件であることから残業時間とそれに対する残業手当の額が明確に示されていることは法の要請である。超過分に対しては別途支払うことも明示されていなければならない。法定労働時間を超えても時間外手当が不要な場合は変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制に限られ要件も相当厳格であるとしています。そして厚労省の通達では過労死と認定される基準として月80時間の残業が定められております。これらを前提とすると固定残業代に対応する残業時間として80時間や100時間といった設定は許されないと言えるでしょう。三六協定で定めた残業時間に合わせるのが無難と考えられます。以上のように定額残業代制度は従業員に支払う残業代を節約し、無支給で長時間労働をさせることを許容する制度ではありません。裁判所や労基署も労働関連法の趣旨から見ても望ましい制度とは考えていないと言えます。人件費削減や計算の手間を省くといった目的から安易に導入することは避けたほうが良いと言えます。既に導入している場合や、これから導入を検討している場合には上記要件を踏まえて慎重にチェックすることが重要でしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年2ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] mhayashi

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2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
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