【子供を会社に連れてきていいの?】会社と育児の関係

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「会社に託児所を作って欲しい!」と言われた場合

1、会社は託児所を作る義務があるか
 現状では産後休暇は8週間(労働基準法65条2項)、育児休暇は1年である(同法67条1項、2項)。もっとも、乳幼児の間は特に手がかかるし熱を出すこともある。そこで託児所が社内または近隣にあれば、都合が良いのは間違いないだろう。それでは、会社は託児所を作る義務はあるか。
 まず使用者は当該建物について、所有権に基づいて施設管理権を有する。同時に、使用者は労働者に対して、「仕事と生活の調和にも配慮 」すること、つまりワークライフバランスに配慮することが求められる(労働契約法3条3項)。ではこの規定によって施設管理権が制約され、会社が託児所を作る義務を負うか考えてみよう。まず、そもそもこの規定は「配慮」を求めているだけであり、「調和」を求めるとは書いていない。さらに抽象的な規定ゆえに、一般に法的拘束力を持つとは考えられていない。つまり企業の規模も大手企業からワンルームの企業まで様々であるから、「配慮」の仕方も多様で一概に論じられないと言うことである。となると、施設管理権を制約するほどの法的根拠とはならないと考えられる。当然といえば当然と言えよう。
2、次に仮に作ったとして、気をつけるべきポイントは何か
 まず託児所とは、児童福祉法の「保育所」(39条1項)に当てはまる可能性が高い。ここでのポイントは、「保護者の委託」、「乳児または幼児」を対象にしていることである。そして保育所には、認可保育所と認可外保育所がある。認可保育所の場合は、都道府県知事の認可(同法35条4項)がいる。認可外保育所の場合は、都道府県知事への届出(同法59条の2第1項本文)がいる。認可と認可外の違いは、認可外の方が基準が緩い分だけ、補助金が少ない。また、認可と認可外どちらであっても、「保育所」にあたれば都道府県の知事の指導を受ける(同法58条、59条1項本文)。そして認可を受けない、届出をしない時には50万円以下の過料(同法62条の4)が科せられるリスクがある。
 そして仮に児童がそこで怪我をした場合、どのような法的問題が生じうるか。保育所と保護者の契約を考えると、保育とは子供の面倒を見て下さいとの「法律行為でない事務の委託」と言える。したがって準委任契約であろう(民法656条)。さらにこの準委任契約は有償・無償を問わず、自己に対する義務より厳格である、善管注意義務(同法656条、644条)を負う。乳幼児が目を離した隙に転んだ等で怪我をすれば、善管注意義務違反による損害賠償(同法415条)の対象となりうる。
 また、子供同士で怪我をした場合、保育所は責任無能力者の監督者として、不法行為に基づく損害賠償請求(同法714条1項)をされる可能性もありうる。
*参考:幼稚園・保育園の責任(追記)鬼ごっこで園児が怪我(弁護士 松下孝広士さんのブログ)

「会社に託児所は作れないにしても、会社に連れてきたい!」と言われた場合

 まず先にも書いたように、「保護者の委託」と「乳児または幼児」がポイントである。乳児は1歳まで、幼児は1歳から小学校入学までを一般に指す。この年代の子供を会社に連れてきて、同僚等に面倒を見ることを頼むと保護者の委託による「保育」にあたる可能性がある。
 子供を隣の部屋に置いて、かつ、誰にも頼まない場合、保育にあたらない可能性がある。もっとも、子供が一人で遊んでいて怪我をした場合、もし会社の建物の不備を原因とすれば工作物責任を負う可能性がある(民法717条1項但書)。また子供同士の遊びから怪我を負った場合、怪我をさせた子供の親は、責任無能力者の監督者として損害賠償責任を負う可能性もある(同法714条1項)(先にあげた弁護士さんのブログ参照)
 この問題の解消には、以下の対策が考えられる。例えば、子供に怪我があった場合でも、原則として会社は責任を負わないというルール。また、子供同士の関係か怪我が生じた場合も、原則として加害者側は責任を負わない等のルールである。ルール整備でポイントになるのは、連れてきて良い子供の年齢、他の社員の予測可能性を担保するための事前申請の有無、社内での場所の確保であろう。
 社内に子供を連れてくることについて、リーディングケースとなる会社がいくつかある。例えば、栃木県にある有限会社「モーハウス」は授乳服メーカーであるが、子供を原則として乳児(2歳程度)に限定している。そして母親は勤務しながら授乳もできるように、全従業員を女性としているようである。
 一方で、東京都にあるIT系の株式会社「サイボウズ」は、小学生の壁に対応している。そのため子供の年齢を小学生以上に設定して、事前申請制を採用し、大きいイベント・セミナーのない日に、ラウンジ、セミナールーム等を当てているようである。この会社の場合は小学生を対象にしているので、「乳児または幼児」に当たらず児童福祉法の「保育」の問題は生じない。あとは就学児童であっても、低学年等では先にも述べたように子供は活発に動きまわったり、静かな空間に耐えられなかったり、怪我をすることもありうる。この問題に対処することになる。サイボウズでは在宅勤務で対応できない場合に、従業員が申請を出すようである。

コメント

 労働者は何のために労働しているのか。率直にいって、金銭ややり甲斐の為であろう。その金銭ややり甲斐をなぜ求めるかと言えば、自分の為、家族の生活の為であろう。そう考えると、法的に会社が制度を整える義務はなかろうとも、働きやすい職場の方が従業員のモチベーションも上がると言える。幼い子供の調子が悪いときに、親としては可愛い自分の子が気になって仕方ないはずである。それはあなたが代表取締役だろうが、役員だろうが、平社員だろうが、変わらないことである。そう思いを巡らすと、会社に子供を連れて来て、すぐに様子をうかがえることは制度として望ましいであろう。
 しかしながら同時に、子供は騒がしいこともあれば、予測困難な突飛な事もする。時にパソコンのコードを抜くかもしれないし、大人は何でもないコードで転ぶかもしれないし、ホワイトボードのマジックを口に運ぶかもしれない。
 もしもの問題が生じる可能性を、否定できないのも事実である。そして問題が生じた場合に、「子供のすることですから」と寛容な者もいれば、「これは大問題ですよ」と強く憤る者もいるかもしれない。会社には子供を可愛いと思う者もいれば、可愛くないと思うものいる。さらに可愛いと思う者の中にも、問題が起きた時の捉え方は上記の様に対立することもある。全従業員が子育てについて共通の考えを持っている職場なら良いが、そうでければ事前のルール整備はやはり必要であろう。このルール整備は簡単にはいかないかもしれない。しかし簡単にいかないからといって放置していれば、やっぱり何も変わらない。最近は子育て含め、ワークライフバランスを図る企業が評価されやすい流れが生じている。この流れの中で「従業員には賃金を払っているので十分」と考えていると、労働者の定着は難しくなっていくのかもしれない。子連れを認めることだけがワークライフバランスではないが、会社の規模、社風に合わせて、各々の会社なりのワークライフバランスを図って欲しいと考える。

関連法令

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(通称:男女雇用機会均等法)
労働基準法
労働契約法
児童福祉法

関連サイト

平成26年10月23日  最高裁判所第一小法廷  判決  破棄差戻
最高裁が初判断 妊娠を理由とした降格は均等法違反(法務ニュースナビ)
東京都福祉保健局 認可外保育施設に対する指導監督要綱
「労働法」第5版(水町勇一郎、有斐閣)
幼稚園・保育園の責任 (追記)鬼ごっこで園児が怪我(弁護士 松下孝広士さんのブログ)
有限会社「モーハウス」HP
「茨城の社長TV」 有限会社モーハウス 光畑 由佳
株式会社「サイボウズ」HP
おっぱいと仕事の両立はどうする? ──授乳服のパイオニアが語る母乳育児と子連れワークスタイル(サイボウズ式 2013年9月25日)
子連れ出勤しています!──「小1の壁」に直面した社員発、新しいワークスタイルの試み(サイボウズ式 2014年9月3日)

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本記事は、約5年5ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
 
[著者情報] tkondo

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