福岡高裁が「永住資格を持つ外国人は生活保護の対象になる」と判示。
2011/11/16   訴訟対応, 民事訴訟法, その他

【福岡高裁】永住資格を持つ外国人は生活保護の対象になる。

福岡高等裁判所は今月15日、大分市が2008年12月に永住資格を持つ中国籍女性の生活保護申請を却下した事案につき、市の却下処分を取消す判決を下した。
古賀裁判長は、「永住資格を持つ外国人は日本人と同様の待遇を受ける地位が法的に保護されている」と、その判決理由を述べている。

なお、外国人に関しては、旧厚生省が1954年に出した「外国人に生活保護法を準用する」との通知に基づき、各自治体で生活保護法の適用の有無を判断しており、現状、多くの永住外国人が生活保護を受けている。
しかし、彼らが生活保護を受ける権利については、いまだ法的権利という形では保障されていない。

生活保護法と永住資格者

■生活保護法
第1条 この法律は、日本国憲法第二十五条 に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

このように、生活保護法では、その第1条で、生活保護の対象を「国民」に限定している。

■永住資格者
1.要件
永住資格を取得するには、大きく見て下記の3つの条件を満たしていなければならない。
(1)素行が善良であること
懲役、禁固又は罰金に処せられたことがあるか否か、少年法による保護処分下にあるか等が考慮される。
(2)独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
日常生活において公共の負担となっておらず、かつ、その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれること等が考慮される。
(3)その者の永住が日本国の利益に合すること
①長期間にわたり、我が国社会の構成員として居住していること、②公衆衛生上の観点から、その在留が有害となるおそれがないこと等が考慮される。

2.永住資格のメリット
永住者のメリットとしては、在留期間更新の手続きがなくなること、出国した場合の再入国許可の期限が3年もらえること、国内での活動に縛りがなくなること(他の在留許可で日本に滞在している外国人は、与えられた在留許可の種類に応じた活動しか出来ない)などがある。

3.帰化との違い
帰化と異なり、国籍の変更を伴わないが、その分、参政権がなく、また、一時的に日本を出国する際には、再入国許可がない限り入国が認められない。
さらに、場合によっては「退去強制手続」の対象となることがある。

雑感

言うまでもないことだが、帰化をした外国人は、「日本国民」という地位を法律上取得した者であるから、彼らが生活保護を受けることについては、法律上なんの問題も生じない。

一方で、永住資格者が法律上取得したのは、①審査なく日本に滞在し続ける権利、②長期の再入国許可の期限をもらう権利、③国内で自由に文化・経済活動等を行う権利に過ぎず、その他の部分では、他の在留資格を持つ外国人と変わらない。この点で、「日本国民」という法的地位を取得した外国人とは明確に異なるのである。

したがって、今回、「永住資格を持つ外国人は日本人と同様の待遇を受ける地位が法的に保護されている」と判示したことについては、やや早計だったのではと疑問を感じる。

永住資格を持つ外国人に生活保護を受ける権利を与えたいのであれば、やはり、法律でもって、これを明確に定めるべきではないだろうか。

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