社員教育はどこまで許されるのか。JR西日本の日勤教育への賠償命令を期に考える。
2011/08/02 労務法務, 労働法全般, その他

日勤教育でJR西日本に賠償命令
先月7月27日、JR西日本の運転士など250人余りが、ミスをした際に課せられる社内の日勤教育で不当な扱いを受けたと訴えた裁判で、大阪地方裁判所は61人の原告について「草むしりをさせるなど行き過ぎた内容があった」として、合わせて620万円の賠償をJRに命じた。この判決を期に、社員教育がどこまで許されるのかを考えてみたい。
原則
・原則
社員教育には、OJT(業務遂行の過程内)とOff-JT(業務遂行の過程外)がある。そして、会社は原則として、そのどちらも業務命令により強制することができる。その法的根拠は、労働契約から生じる業務命令権にある。また、「社員は、会社の行う研修を受けなければならない」という旨の就業規則も、社員教育を強制させる法的根拠となりうる。就業規則は、合理的なものならば法的規範性が認められ、同意の有無や不知にかかわらず、社員はその適用を受ける(最判昭43.12.25)。
例外
もちろん、社員教育には一定の制約もある。社員教育の目的は、人材の育成に他ならない。育成には、職務に関連した技術的なものから、職務とは直接の関係ない精神的なものなども含まれる。したがって、社員教育の範囲は必然的に広くなる。例えば、ここ最近、新入社員教育の一環として、民間企業で取り入れられている自衛隊への体験入隊などがある。自衛隊での訓練は、職務と直接関連のない場合も多いだろうが、精神面や規律面の訓練ととらえれば、社員教育の目的の範囲に含まれ、合法といえるだろう。
しかし、その一方で、禅寺などで座禅の修行を強制することは、精神修養のためとはいえ違法の可能性が高い。その理由は、思想良心の自由(憲法19条)の制約につながるからである。法的な構成としては、憲法を民法90条などを通して、私人間にも憲法の規定を間接適用する。とすれば、企業が社員教育のためといえども、社員の人権を制約することは当然許されないことになる。しかし、現実には、禅寺での研修を受け入れているところもあり、社員教育を行っている企業もあるだろう。
総評
現在、餃子の王将など、企業独自の社員教育がテレビなどで取り上げられ話題になることが多い。企業が厳しい競争にさらされるなかで、生き残りをかけて社員教育に力を入れる企業は多いのだろう。しかし、社員教育の目的は、あくまで人材の育成にある。JR西日本のように、社員教育の名をかりた懲罰的な教育はやはり問題だろう。また、禅寺での研修など、一見、社員教育として適合していると思われるものでも、違法となる場合がある。法務担当者は、色々な観点から自社の社員教育が法に適合しているか、注意する必要があるだろう。
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