AI検索による記事無断利用は優越的地位の濫用か?公取委が調査
2025/12/25 コンプライアンス, 独禁法対応, インターネット問題, 独占禁止法, IT

はじめに
生成AIを使った検索サービスにおいて、「報道機関のニュース記事を無断で回答に引用することが競争の阻害にあたる可能性がある」として、公取委が調査に乗り出していたことがわかりました。ニュースメディアの収入減につながるおそれがあるとのことです。
事案の概要
昨今、利用者が質問し、生成AIがインターネット上の情報を組み合わせて回答する検索サービスが広まっています。その一方、回答を生成する際、報道機関などニュースメディアの記事を無許可で回答に引用している懸念があるとされます。
ニュース記事をめぐっては、公取委が、「ヤフーをはじめとする大手ポータルサイトが、取引先となるニュースメディアに対し優越的地位にある可能性がある」と指摘。ニュース記事を著しく低い使用料で使用した場合には、独禁法に抵触するおそれがあるとして、2023年に実態調査を行っています。
今回の実態調査では、
(1)2023年の調査で、大手ポータルサイトに対して示した懸念が改善しているのか
(2)新しく登場したAI検索サービスが競争上問題がないのか
などを調べているとのことです。
なお、日本新聞協会は12月23日、「生成AIによる記事の無断収集に対する拒否の尊重を法的義務に」するよう意見書を公表しています。
優越的地位の濫用とは
独禁法2条9項5号によりますと、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」濫用行為を行うことを不公正な取引方法の1つとして禁止しています(19条)。
たとえば、小売店が納入業者に対して棚卸しや商品の陳列作業を行わせるために無償で従業員を派遣させたり、納入業者に本来は自社が負担すべき費用を負担させたり、不良在庫を返品したり、取引とは無関係な商品やサービスなどの購入を要請するといった行為が典型例と言えます。
このような行為は、取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害し、公正な競争を阻害するおそれがあることから、独占禁止法では禁止の対象とされています。
違反した場合には、違反行為の差止や契約条項の削除その他必要な措置を求める排除措置命令(20条)や課徴金納付命令が出されることがあります(20条の6)。
優越的地位とは
それでは、どのような場合に「優越的地位」が認められるのでしょうか。
公取委のガイドラインによりますと、相手方にとって自社との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、自社が相手方に著しく不利益な要請等を行っても相手方が受け入れざるを得ない場合を言うとされています。
さらに具体的には、相手方の自社に対する取引依存度、自社の市場における地位、相手方にとっての取引先変更の可能性、その他自社と取引することの必要性を示す具体的事実などを総合的に考慮して判断されるとされています。
自社と取引することの必要性を示す具体的事実とは、たとえば自社との取引額、自社の今後の成長可能性、取引対象となる商品または役務を取り扱うことの重要性、自社と取引することによる相手方の信用の確保、自社と相手方の事業規模の相違などが挙げられます。
このように様々な要素から判断されることから、単に大企業と中小企業といった規模だけでは決まらないということです。
正常な商慣習に照らして不当に
優越的地位の濫用となるためには「正常な商慣習に照らして不当に」行われる必要がありますが、ここにいう「正常な商慣習」とは現に存在する商慣習ではなく、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるような慣習を言うとされています。
この正常な商慣習に照らして不当である場合、すなわち公正な競争を阻害するおそれがある場合に違法となるということです。
この公正競争阻害性については、問題となる不利益の程度、行為の広がり等を考慮して個別の事案ごとに判断されます。
例えば、多数の取引の相手方に対して組織的に不利益を与える場合、特定の取引の相手方に対してしか不利益を与えていないときであっても、その不利益の程度が強い、またはその行為を放置すれば他に波及するおそれがある場合には公正競争阻害性が認められやすいと言われています。
コメント
本件で公取委は、大手ポータルサイトが取引するニュースメディアに著しく低い使用料しか払っていない場合や、また生成AIを使用した検索サービスで無断で記事を回答に引用する場合に、独占禁止法が規制する優越的地位の濫用などに該当しないか懸念しているとされています。
実際に、日本新聞協会はこのような事態に対して法的な規制を置くべき意見書を公表しているとされ、また8月には日経新聞や朝日新聞などが報道コンテンツの無断利用で米パープレキシティを訴える事態に発展しています。
近年のAIの発展は目覚ましく様々な分野に利用されている反面、これまでに存在していなかった新たな法的衝突や権利侵害なども発生しています。
当局の法規制や法改正の動きを注視しつつ、自社でも対策を検討していくことが重要です。
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